Plam5
treat?
十年バズーカが壊れた。本当の意味で。もう白煙を吹き出してハプニングを生み出すことはない。その事実に安堵すればいいのか、寂しく思えばいいのか。沢田にはわからない。ボコボコに傷付いたバズーカの表面をなんとはなしに、撫でる。遺体では、もちろん、ない。とはいえ道具とも、言い難い。武器だけれど、結局これは人をあやめはしなかったから。絶望も希望も、見せてくれたから。だから沢田は撫でる。
それをリボーンはただ、見守る。わけがない。
「もう、どこへも逃げらんねえな」
余計なことは大盤振る舞いするのがリボーン先生だ。元生徒は苦笑する。
「そんな風に見えてた?」
「お前はいつも逃げてんだろ」
「そっか」
なら先生のキレイなオメメには。庭の片隅に穴を掘ってバズーカを埋めることも、逃避に見えたのかしら。と沢田は考え立ち上がる。土を払い、今日明日は晴れだから、このままにしておこうと、スコップをバケツに入れ、バケツを持つ。このバケツがすこぶる、重い。重くて指ちぎれそう。
リボーンが手を差し伸べる。
「奪わねえのか」
「えげつない表現だね」
「繕った方が醜いさ」
「かっこいいねえ相変わらず。惚れそ」
「言う相手が違うぜ」
キレイな手で、キレイな指で、土でどろどろのバケツを持ってやろうと、そそのかす。
「いいや、違わない。かっこいいし惚れそうだけど、惚れはしないもん」
悪趣味め、とボルサリーノを目深にして笑う先生。ダメダメ生徒の恋路の末路が、あまりにもお約束なことになっても、笑うだけでなにも言わない先生。バケツを持ったってかっこいいだろう先生。先生。オレはねと、沢田も笑う。
「奪おうとは思わなかったけど、壊せるとはおもった」
スコップみたいにバージンロードをどろどろにして、何もかもぶち壊せると思った。ぶっ潰すのは得意だ。
「それを、しなかったのはなぜでしょう?」
「お前が、オレにバケツを寄越さないのと、同じ理由だろ」
寄越せるけど。壊せるけど。
「したく、ないだけだろ」
「あたり」
「好きになってもらえなかったなら、嫌われてもいいじゃねえか」
「何でだよ」
「したらスッパリ諦めるだろ」
リボーンは掲げていた手を下ろし背中を向け屋敷へと戻る。伊達男にしては切れの悪い立ち去りかただ。
そう思う一方で、ああ、確かに。沢田は納得する。確かに、嫌われたらもう、諦めるしかない。諦めるのは己の人生も一緒かもしれないが、スッパリすっきり、禍根を残しはしないだろう。
それでも今はまだ。ゆるゆると。バズーカの余韻が。沢田綱吉を好きになった雲雀恭弥の余韻がまだ、心臓を温めているから。今嫌われたらしんじまうだろうと、沢田綱吉は思うのである。