『仮面ライダーW』-Another Memory-
Episode:2『変身!』
「左翔太郎にフリップだって!?」
JokerメモリとCycloneメモリから発せられる思念波により、二人の自己紹介、と言うより名乗り上げを聞いた速人は、流石に驚きを隠せない様だ。
立ちながら両手を斜めに広げ、少々腰を曲げて脚を開き、『何だって?』の時に良く出るポージングをしている。
現実の世界でこのポージングをする人など滅多に見ないないのだが、と言うか観た事無い。
速人が今居るのが路地裏で良かった。
一人きりでこんなポージングを取って騒いでる場面を他の人に見られたら、演劇の練習をしているか、ちょっとネジの揺るんだ人と勘違いされてしまうだろう。
着ている服装が服装だけに、多分前者に間違われるだろうが、それはそれで『こんな狭い場所で迷惑な』と思われるはずだ。
イメージダウンはヒーローの天敵だ。
特に速人は、ダークヒーロー否定派なのだ。
【そう、僕らは仮面ライダーWの左翔太郎とフリップだ。最も、そちらの世界に居る"役所"の人物とは別人だけどね】
【俺達は、あ〜なんつうか、別の次元の〜、その〜、なんだ?】
【その先は僕が話すよ、翔太郎。僕達は別次元…、そうだな、君もパラレルワールドと言う言葉は知っているよね?僕達は『仮面ライダー』が居る世界の住人なのさ】
【そう!そのなんちゃらワールド!俺もそれが言いたかったんだよ〜】
【もっと正確に言うならば、『仮面ライダー』が居る世界の、左翔太郎とフリップの一時コピー人格情報生命体さ】
「はあ…」
フリップと翔太郎の話を聞きながら、気の無い返事を返す速人。
どうやらついて行けて無いらしい。
速人は、23歳にして未だ夢見るお年頃だが、基本現実主義者である。
ヒーローを信じ、ヒーローになりたいと思う傍ら、そんな都合の良い存在なんて居ないとも理解している。
微妙なお年頃なのだ。
【信じて無いのかい?】
「そりゃ…」
フリップの問いかけに、速人は"そうだ"と言い掛けて言葉に詰まる。
それは先程、マスカレイド・ドーパントの人間離れした力を見せ付けられたからであった。
【あんなぁ、お前もドーパントを見ただろ?あんな奴、こっちの世界にいんのか?】
すかさず翔太郎が正論を言った。
どんなに現実離れして様とも、どんなにありえない現象だったとしても、目の前に実際に"それ"が居て、そして"それ"が紛れもない"事実"なのであれば、それを認めない者は只の愚か者に過ぎない。
「……解った。あんた達が"本物"の左翔太郎とフリップであり、仮面ライダーWなのであるのは認めよう。それで、現実問題なんだが、あんた達があのマスカレイド・ドーパントを退治してくれんのか?」
現実主義者達は、良くも悪くも見た物しか信じない。実際には検証に検証を重ね、更に"世界の理"に照らし合わせて、遵じて初めて信に価すると理解するのだが、速人はそこまで凝り固まった現実主義者では無かった。
世の中には、自分達の常識では計り知れない物も存在していると、柔軟な思考も持ち合わせているのだ。
それに何より、表の通りからは未だ悲鳴が聞こえて来ているのだ。
人を害す存在が居て、それを何とか出来る存在が居るのなら、自分が信じるだの信じないだのの、くだらない論争で時期を見失う訳にはいかなかった。
【それは少し違うね。君が、奴等を倒すんだ】
やっつけてくれるか追い払ってくれるのなら早くしてくれ。
と思いながら、速人は質問の回答を待つ。
すると、その回答者であるフリップから驚きの言葉が飛び出した。
それもそうだろう。
先程速人は、倒そうとして歯が立たずに吹き飛ばされて此処に居るのだから。
手合いは一度だが、それで相手との力量差は解ったつもりだ。
「…囮ぐらいになら成れるが、正直生身で倒すのは難しい。拳銃があるなら…いや、所詮俺は素人だ。拳銃があっても難しいな」
速人は正直な感想を述べる。
倒せないと言わないのは、可能性が全く無いわけでは無い事と、ヒーローになりたい自分の、プライドの問題だろう。
絶対に倒せ無い、とは言いたくないが、現実問題倒せるとも言えない。
その位の若さは許容範囲内だ。
実際速人は若いのだから。
【あ〜あ〜辛気臭くなるななるな!俺達がどうして此所に来て、何でお前に話し掛けたと思ってんだ?お前が手にしてる物は何なんだよ】
仮面ライダーなら怪人を倒してくれると思った速人だったが、よく考えれば彼等には身体が無い。
いや、もしかしたらそれでもWに変身出来るのかも知れないが、確証は無いし、フィリップには己が倒すんだよ?と言われてしまった。
只の一般人が、少々身体を鍛え、格闘技の真似事を練習していただけなのに、それで何で人外の怪人に立ち向かわなければならないんだ?
と普通の人なら思うだろう。
だが、速人は違った。
元々翔太郎もフィリップもこの世界の人間では無い。
世界を救ってくれと言うのも筋違いだ。
しかし、それが出来る力を持つならば、"遺憾"ながら救ってくれと速人は一瞬思った。
少し速人が落ち込んだのは、倒す算段が見つからないからでは無く。
自分が彼等を頼ってしまった事による物だった。
頼っても良いだろう。
頼んでも良いだろう。
だが、己は何をした?
ちょっと突っかかって言っただけで、直ぐに尻尾を巻いて逃げ出してしまったのだ。
何がヒーロだよ…臆病者め。
その思いが速人を沈ませた原因である。
そんな落ち込んだ速人に、翔太郎から救いの言葉が放たれた。
速人は手の中にある二つのガイヤメモリを見る。
「使えるのか?俺に!?」
速人は、思わず興奮して先程のポージングをしながら、一際大きな声を上げる。
どうやら速人は、驚いたり興奮したりすると、無意識にこのポージングを取るらしい。
【使えると言ったら使える。だが、使え無いのかと言えば、使え無いねぇ】
フリップが不敵な雰囲気の声で応える。
速人は興奮のあまり使えると言う言葉の後が耳に入っていなかった。
(マジか…、俺が仮面ライダー?)
言い様の無い興奮に体か熱くなるのを感じるが、ハタとある事に気が付く。
奇しくも聞いていなかった後ろの言葉を質問したため、ちぐはぐな会話にならずにすんだ。
「仮面ライダーになれる事は解った。だがフリップ、ドライバーは?無くても変身出来るのか?それに、Wは二人じゃ無くても成れるのか?」
そう、今ここにガイヤメモリはある。
しかし、メモリを解放する為のドライバーが無い。
それに、Wは二人で一人の仮面ライダーだ。
この世界の"Wの話"とは違うのかもしれないが、速人と話をしている二人は、ジョーカーメモリに左翔太郎、そしてサイクロンメモリにはフリップが宿っている。
普通に考えれば、Wはやはり二人で一人の仮面ライダーだろう。
実際先程名乗りを上げる時に二人もそう言っていた。
【それについては一つは既に解決済みだ。君の腰を見てごらん?】
速人はフリップに言われるまま、己の腰を見る。
ダブルドライバーだ。
一体何時腰に巻き付いたのだろう?
と考えてると、
【後は相棒の問題だな】
翔太郎がそう言った。
作品名:『仮面ライダーW』-Another Memory- 作家名:赤の他人