東方 宝涙仙 <壱(1)~玖(9)>総集編
倒れたレミリアの足をもってずるずるとひっぱって部屋へ運ぶ。お嬢様パンツが・・・あ、短パン履いてるんでしたね。
吸血鬼が熱中症で倒れこむ姿は非常に情けなく見える。しばらくすると落ち着いたようで、唸らなくなった。スヤスヤと気持ち良さそうに寝る吸血鬼も麗しい。
寝言で「咲夜ー。」だとか「フラン・・・。」とか呟いているが、主人公候補二人の人間は気にしないことにした。というより気にしちゃいけない気がした。
レミリアの寝顔をじっとみつめていた(それしか暇つぶしになることがなかった)霊夢が立ち上がり棚へ向かった。そして筆を取り出した。
「筆なんか取り出して習字でもするのか?」
「違うわよ。見てなさい。」
そう言うと霊夢はレミリアの目の周りを筆で丸く円を描いた。羽根突きでミスをしたみたいな顔になるレミリア。くすぐったいのか寝ながら嫌そうな顔をする。
寝ながら嫌がるレミリアを見て余計書きたくなるS巫女。鼻の下に毛を描き生やした。
「霊夢、アタシにもやらせろ。」
クスクス笑い筆を受け渡す主人公候補の人間二人。S魔法使いが吸血鬼の眉毛を筆で太くする。必死に笑いをこらえる二人。邪道。まさに邪道な二人。
「こいつもしかしたら帰りに迷って交番に家聞くかもしれないから住所書いておいてやるべきじゃないか?」
「ついでに名前も書いといてあげなさい。」
レミリアの右頬に『こうまかん れみりあ』と書かれた。『れみりあ』の後ろに『☆』を描こうと魔理沙が筆を向けた瞬間、吸血鬼の目が開いた。
「何してんのよあんた達・・・。」
バッと筆を後ろに隠す魔理沙。魔理沙の隠した筆をコソコソ拾って袖に入れる霊夢。主人公候補の連係プレーも見事にミス。やはり吸血鬼の目はごまかせませんか。
レミリアに殴られた二人。やり返しはしなかったが。怒りながらレミリアは顔を洗いに行った。
「まったく・・・。子供みたいなことしてんじゃないわよ。」
「あまりにも寝顔が可愛かったのでついー。」
「霊夢、棒読みだぜ。」
「てかまず何で吸血鬼がここにいるのよ。」
話をそらされたのでちょっと悔しいレミリア。幻想郷の生き物は話をそらすのがうまいらしいですよ。多分。
「ちょっと散歩してたらいい休憩所があったと思ったらまさかこの神社だったとは。」
「あきらかにわかってて来たでしょ。」
「ちょっとお邪魔しただけじゃない。それよりも客来てんだから紅茶とケーキくらいだしなさいよ。」
「ずうずうしい奴だぜ。」
「アンタまたパチェの図書館の本盗んだでしょ。紅茶とケーキで許してあげるわよ?」
「オイ霊夢、特上紅茶と特上ケーキをだしてやれ。」
「あんた後で参拝客の呼び込みバイトしてもらうわよ。」
嫌々霊夢は紅茶とケーキを取りに行った。ん?こんな貧乏神社に紅茶とケーキなんてあるのか?
「はい、紅茶(仮)とケーキ(仮)。」
おぼんに乗せられていたのはお茶とせんべいだった。嫌がらせか、魔理沙のぶんだけお茶から湯気がでていた。
せんべいを加えながらお茶をこぼさないようにゆっくりとおぼんを置く。
「紅茶の"こ"の字もないわね・・・。」
「たまには和風を楽しみなさい。」
「まぁいいわ。倒れこんだ私を日干しから救ってくれたんだし。」
「あんた4時間近く寝てたわよ。」
レミリアがお茶を啜りながら、現代人なら「マジで?」というセリフが似合いそうな顔をする。そしてその吸血鬼の鋭い歯でせんべいをバリバリをバリバリと食べ、また語りかける。
「ならそろそろ帰ろうかしら。」
「それってホントに散歩っていうの?」
「歩けば散歩よ。」
お茶を飲みきり、せんべいを満喫してからレミリアは立ち上がった。
「じゃぁ帰るわ。」
「あんたも帰りなさいよ魔理沙。」
「そうするかな。ついでに紅魔館で本借りてくるぜ。」
「パチェにちゃんと返しなさいよ?」
「いつかな!」
二人は博麗神社を後にして紅魔館へ向かった。すでに夕日がでているので傘を差す必要は・・・あ、傘。
レミリアは傘を忘れた事に気付いたがあえて口にはしなかった。引き返すのもめんどくさいし。
夕日を隠す山が薄く赤く映る。そしてその山の近くに見える紅魔館も紅く凛々しく聳(そび)えていた。
今日の紅魔館はいつもより紅かった。紅いが周りに霧がはってるような、小火(ぼや)が起きているように見えた。
「煙・・・?」
レミリアが異変に思う。たしかに煙が立っている。
「おいおい、今日の紅魔館赤すぎないか?」
「異常ね・・・。まさか、何か異変でも起こったのかしら・・・。」
不安で心臓の鼓動が早まり焦るレミリア。そのレミリアと異常事態発生(?)の紅魔館を見た魔理沙の表情が変わった。
「そ・・・そんな・・・。」
「まだ異変とは限らないぜ。とりあえず紅魔館まで急ぐぜ!」
「え・・・ええ。」
吸血鬼と魔法使いは全速力で飛んで紅魔館を目指した。
▼肆(4)に続く。
Touhou Houruisen - 肆(4)
ー紅魔館ー
レミリアは出かけていた。珍しく散歩に行ったようだ。
主がいないとなると紅魔館をしっかりと守らなければならない。今攻め込まれたら確実に戦力が足りなくなる。レミリアの戦力はそれほどまで大きかったのだ。
しかし幻想郷も今や平和ブームと言ったところか、異変など起きそうにもなかった。
レミリアはこの平和な世界を咲夜と過ごしたかっただろう。だが咲夜は殺されたのだ。おそらくレミリアの妹が犯人だと思われる。
レミリアの妹は少々気がふれている部分があり、物を壊し、人を殺してしまう傾向がよく見られた。その為彼女は地下に幽閉されることになったのだ。
何百年と幽閉されたのだろう。彼女は自分の歳すら知らなかった。
まさか姉が自分に幽閉宣告をするとは思いもしなかった。紅魔館に住み着く前まではレミリアは優しく接してくれていた。しかし、ある日彼女は自分自身を見失い、紅魔館の一部を破壊しメイドを虐殺した。
何か気にくわなかった事があったわけでもない。ただ彼女自身の能力が暴走したのだ。彼女は理性が利かなくなりどうにもならなかった。
その事件の何日後かから彼女の幽閉生活は始まったのだ。
「キルティ、あなたはどうしてフランを無視するの?」
※フランドール・スカーレット
二つ名:悪魔の妹
能力:ありとあらゆるものを破壊する程度の能力
フランはよく人形に話しかける。お気に入りの人形の名前はキルティ。幽閉生活が始まってしばらくして、咲夜が誕生日プレゼントに買ってくれたのだ。
人形はよく壊すがキルティだけは壊せなかった。壊そうにも理性がそれを止めてしまうのだ。
もしかしたらまた能力が暴走したらこのキルティまでもを破壊してしまうかもしれない。フランドールがそれだけが怖かった。幽閉生活が終わらぬまま死ぬ事になることよりも恐れている。
「キルティ、あなたはフランを信じてくれる?」
完全な強度を誇る鉄格子でできた牢獄のある部屋に彼女の寂しげな声がこだまする。
作品名:東方 宝涙仙 <壱(1)~玖(9)>総集編 作家名:きんとき