東方 宝涙仙 <壱(1)~玖(9)>総集編
「キルティ、一緒におしゃべりしようよ。」
人形は返事をしなかった。
「答えてよキルティ!!」
返事をしてくれたのは自分の声のこだまだけだった。同じセリフが返される。
「なんでフランは閉じ込められるのかな・・・。」
そういいながらもフランドールはしっかりと理由がわかっていた。自分が外にでれば物を破壊してしまい周りに迷惑をかけてしまう。ときにそれは迷惑どころでは済まなくなる。
まだ知能の幼い彼女には辛かった。レミリアもそれは気付いている。しかし幽閉を解除することはできないのでレミリアも辛いのだ。
ポツンと侘(わび)しく水滴の落ちる音が響く。地下にはその音しか物音は鳴らない。
たまにフランドールが鉄格子を破壊しようと攻撃する音が鳴ることもある。
「お姉さまはフランが嫌いなのかな・・・。」
「・・・。」
キルティは返事をしない。
「ねぇキルティ、あなたもフランが嫌い?」
「・・・。」
「そっか、答えれないって事は嫌いなんだ・・・。」
「・・・。」
「答えてよ。」
「・・・。」
「答えてってば。」
「・・・。」
「答えろボロ人形!!!」
「・・・。」
「なんで答えてくれないの!?馬鹿にしてるの?そうなのか!フランを馬鹿にしてるのね!?」
「・・・。」
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「・・・。」
フランドールはキルティを床に叩きつけようとした。しかし叩き付けれず、キルティを握った右手が振り上げられたとこで止まる。
フランドールは泣き崩れた。キルティを壊せないのが悔しかったのか?いや、フランドールは悲しかったのだ。誰かに答えてもらいたいと思っているだけなのだ。
昔は咲夜が時々相手をしてくれていた。だが咲夜が死んでからというもの、フランドールを恐れるあまり誰も地下へは下りて来なくなった。
ただ食料となる死体が遠くから投げ込まれるだけ。生きたものとは接せなくなっていた。
「お姉さま・・・。フランじゃないってば。咲夜を殺してなんかいないってば・・・。」
「・・・。」
「なんでお姉さまは信じてくれないの?」
「・・・。」
目の前には人形しかないというのにフランドールはレミリアに向かって問いかけた。
もちろん誰も答えなかった。答える者がいなかった。
フランドールは泣きながら牢獄部屋の隅っこに座り静かになった。
光も届かないこの部屋でフランドールの目からこぼれる涙は光っていた。
フランドールはそのまま寝てしまった。紅魔館でみんなと過ごす夢をみている。いつもいつもその夢をみる。
もういっそ夢の中に住めればいいのに、とフランドールは思う。
夢の中の自分を恨み嫉妬する。
彼女にはストレスと悲しみしか残らなくなっていた。
そして今夢の中の世界にひたり始めた。
完全に熟睡モードに入り始めた。
フランドールが熟睡モードに入った瞬間に上のほうで何かが崩壊する音がした。
フランドールは音に気付き目が覚めた。眠気でまだはっきりしない脳をフルに作動させる。
紅魔館が・・・、紅魔館が崩れている音がする。
地下でフランドールは上の事が気になった。
「まさか・・・、またあの子が・・・。キルティ、キルティはフランがしっかり守るからね。」
紅魔館の一部崩壊で地下のスペルカード封印機能コントロール室がショートし、地下でのスペルカードの使用が可能になった。
フランドールはそれを察した。そしてキルティをしっかり握り、スペルカードを放った。
『禁忌「レーヴァテイン」』
炎の剣を振り回し、牢獄の鉄格子を破壊した。
「キルティ、やっと誰かとしゃべれるかもしれないよ。楽しみだね!」
フランドールは嬉しそうに天井や壁を破壊し始めた。
▼伍(5)に続く。
Touhou Houruisen -伍(5)
ー紅魔館ー
夢子と風香は会話をしていた。
「あ、メイド長、先ほどお嬢様が」
「あぁ、散歩に行ったのよ。」
「ご存知でしたか。」
「当たり前でしょ。」
夢子は正直言ってメイド長風香をまだ信頼しきれていない。どこか雑な風香を信じていいものか迷っているのだ。
「ほら、掃除終わらせるよ。」
「あ、はい。」
しかし風香は仕事をしっかりとこなす。色々大雑把ながらしっかりとノルマは達成している。だからこそ文句は言えないから余計困る。
夢子と指示通り掃除を始める為掃除用具を取りに向かった。指示した本人はおそらく洗濯中であろう、大量の服の入った(いや、ここまでくるともう積んであるに近い)洗濯籠を運んでいる。
見た目怪力とは無縁そうな体型のわりには重いものを軽々と運ぶ。よく見ると空気を操って空気の気流に乗せて運んでるだけだが。
彼女が歩くと空気が綺麗になる。"紅魔館の空気清浄鬼"と呼んでいる下っ端メイドもいる。"鬼"というほど怖い性格ではないが、一度彼女を怒らせた奴がいて、その時の怒り方こそまさに"鬼畜"だった。
いや、暴力的な事ではなかったが・・・やり方が汚いというかなんというかだった。
彼女は、怒りの発端となったメイドの周辺の空気を汚染させた。そのメイドはしばらく他のメイドから不快に思われる事となり軽蔑やら無視やらされた。
「やっぱ怒らせたくないからメイド長への文句は言わないようにしたほうがいかしら。」
夢子は掃除用具のある部屋を目指しながらささやかに呟いた。
「やっと全部運び終わったー。いやー大変大変。」
夢子に掃除の指示をし、洗濯物を外に運び終えた風香は日差しを見上げながら休憩していた。
ただ掃除よりも洗濯物を干すほうが圧倒的に楽なのだ。だからちゃっかり風香は夢子に掃除を押し付けた。そして運んだ洗濯物を下っ端メイドに押し付けるのも風香の仕事。
「頑張ってるようにみせるのに一苦労。こりゃ真面目にやってたら体が持ちませんな。」
周りからは大雑把ながら働き者と思われているが、実際大雑把なうえに中途半端にしか働かないというなかなかの廃人だった。
風香はその辺のメイドを呼び止めて洗濯物を干すように指示した。メイドは断ることなく笑顔で了解する。もしかしたら内心「自分でやれよ」とか思ってるかもしれないが、結局働いてくれるならそれでよしというのが風香の流儀だ。
風香は仕事(人に仕事を押し付ける仕事)を終え自分の部屋に戻ろうとした。しかしこれから次の仕事までずっと部屋にいるのも暇ということで、久々に門番が寝ていないか調べに行くことにした。
そして、門につくとやはり門番は寝ていた。あまりに気持ち良さそうに寝ているので腹を殴った。主に鳩尾(みぞおち)あたりを。
「グフゥッ!!」
「・・・。」
「本日二度目の鳩尾パンチ・・・ゲホッ。」
「おはよう。」
「なんかいろいろデジャヴ・・・。」
「てことはお嬢様にもやられたでしょ。」
「ええ、そうとう痛かったですよ。どちらも。」
「そんなに寝て飽きない?」
「寝ることに飽きるなんてありますかねぇ。」
作品名:東方 宝涙仙 <壱(1)~玖(9)>総集編 作家名:きんとき