こらぼでほすと ニート1
「オッケー、それならシステムをパッケージングして渡すから微調整してくれる? うちよりヴェーダのほうが容量があるから、このままだと使いづらいと思うんだ。」
「そうだな。では、基本システムを貰って、僕のほうで調整させていただこう。少し時間をくれ。」
「もちろんだよ。僕のほうも、こっちのセキュリティーの再構築があるから、すぐには無理だ。」
というような話し合いが数日続くと、アレルヤは暇だ。実際の作業ではなくて、システムやらセキュリティーの設計やら構築の話なんかだと、はっきり言ってわからない。キラとティエリアの話し合いなんて聞いてるだけで、眠くなるような代物だ。これについてはアスランも匙を投げているらしく、決定したら纏めてくれ、と、言って放置してラボの通常業務をこなしている。
「アスラン、僕、ニールのお見舞いに行ってもいいかな? 」
データルームで仕事をしているアスランの許へ、アレルヤが外出のお伺いに顔を出した。
「ああ、そろそろ目は覚めているんじゃないかな。アレルヤが顔を出してあげたら、ママニールも喜ぶよ。」
最初の五日間ほどは高熱から昏睡ということになっているから、傍に居てもどうしようもない。だが、それを過ぎたら、徐々に熱も下がるし意識も戻る。あれから一週間過ぎているから、そろそろ起きているだろう、と、アスランも本宅へヘリで送ってくれた。
少しアレルヤも個人的に話したいことがあったから、ティエリアと離れることにした。組織の事後処理が落ち着いたら、考えていることがある。ティエリアにも話したが、難色は示されたものの、最終的に認めてはくれたことだ。ニールにも話しておこうと思ってのことだ。
本宅のいつもの地下の病室に入る前に、八戒から現状の説明は受けた。完全に発熱は治まっていないから、寝たり起きたりを繰り返しているらしい。
「漢方薬で回復はしているんですが、元々体力はありませんからね。」
細胞の活性化はされるものの、既に異常を来たしている細胞は正常に戻るわけではない。現状のまま維持させているが、悪化している部分は、さらに悪化する。だから健康な細胞を活性化させてGN粒子による治療が出来るまで安定させておくので精一杯だ。当人には知らされていないが、マイスター組は、このことをドクターからも説明されている。
「ぐだぐだしてってから、ママニャンの話し相手をしてやってくれ。おまえらが顔出すと、ママニャンも気分が良くなって回復が早まるからな。」
悟浄のほうも、そう言って部屋に案内してくれた。回復させるのも、後から天蓬が送ってくれている滋養関連の漢方薬を使っている。こちらで手に入るものより効果が高いから、それで、どうにか回復している状態だ。
「慌てさせるようなことは言いたくないんですが・・・・なるべく早く、ダブルオーを再生してください。」
「ニールは、そのことは? 」
「何も知りません。ティエリア君にも、後で説明はさせていただきます。」
当人には何も教えていない。どこかおかしいことは理解しているが、悪化しているとは思っていないだろう。教えれば気に病むからだ。
「わかりました。」
わかっていたことだ。本来なら、すでに死んでいてもおかしくないはずだが、ドクターの監視付き療養生活の上に漢方薬治療をしてもらって、どうにか
生き延びている。それも、そろそろ限界になってきたというところだ。ダブルオーのトランザムバーストによるGN粒子の開放に晒されれば、その細胞異常は完治する。ラッセが、そうだった。今では、ラッセの身体は正常な状態に戻っている。できるだけ早く、それを浴びせさせなければならない、と、刹那もダブルオーの再生に懸命になっている。
ゆっくりと部屋に入ると、ニールが、こちらを向いた。お? という顔をして笑顔になる。
「久しぶり、アレルヤ。打ち合わせは終わったのか? 」
「ううん、まだ続いてるよ。でも、キラとティエリアの話し合いは、僕にはちんぷんかんぷんだから、逃げてきたんだ。」
「あーそうだろうな。」
まあ、座れ、と、看病の椅子を指し示されて、アレルヤも、そこに腰を落ち着ける。見た目には元気そうだが、少しやつれている。額にはヒエピタが張られていて熱もある様子だ。
「辛くない? ニール。何かして欲しいことは? 」
「今のところは、何もない。・・・・時間があるなら外出でもして来いよ、アレルヤ。」
「だから、ニールの看病に来たんだけど? 」
「俺は寝てるだけだから、これといって看病してもらうことはない。」
毎度、この調子で、ニールは笑っている。アレルヤは、ほとんど看病もしていない。再始動の前に、人革連に捕まって、再始動の後で戻って来た。だが、明らかに、ニールは以前より弱っているのは分かる。最初に組織が武力介入を終えて、『吉祥富貴』に救助された頃より、体格がひとまわり縮んだ印象だ。
「刹那が、今、ダブルオーを再生させているよ。すぐに治してもらえるからね。」
「別にいいよ。慌てることもないさ。マリーさんとこへ行かなくていいのか? 」
アレルヤと同じ超兵のマリーが、親代わりのセルゲイの看病で欧州に居る。時間があるなら、あちらに顔を出してくればいいだろう、と、ニールは勧める。
「今回は、ヴェーダとラボのマザーのリンク打ち合わせが目的だから、特区からは動けないんだ。僕だけ勝手なことしてたら、ティエリアに撃たれちゃうでしょ? 」
「俺が、なんとかしておいてやるぜ? 」
「無茶言いすぎ。ダウンしてるくせに、なんで、そんなに強気なんだか・・・」
「別に、もう少ししたら起きられるから、俺がティエリアに付き合えばいいだろ? 」
「僕、絶対に撃たれるよ? それ。」
あはははは・・・と、笑って外の景色に目を移す。ここは地下だが、壁には庭の風景がリアルタイムに映し出されている。今日は秋晴れの空だ。しばらく、それを眺めているフリで沈黙したら、ニールは目を閉じていた。寝たり起きたりだというのだから、そんなものなのだろう。
・・・・・話すなら、もう少し体調が良くなってからのほうがいいな・・・・
裡からハレルヤが、そう言う。長い時間、起きていられるようになってからでないと、話をしている間に寝られてしまうだろう。
・・・・そうだね。僕らもダブルオーの再生だけは手伝っていかないといけないね、ハレルヤ。それが終わったら・・・・・・・
・・・ああ、じじいがくたばらないことを確認したらな・・・・・
考えていることは、以前、刹那がやったのと似たようなことだ。マリーとも、そんなことを話していた。あちらも、セルゲイが落ち着いたら、と、条件はつけた。だから、それほど急ぐことではない。
アレルヤもマリーも実際に世界を見たことがない。どちらも超兵機関から、マリーは人革連へ、アレルヤたちはCBへ、というように戦闘をするためだけの組織に入った。そこでも訓練や実戦が中心の生活だった。まだ、アレルヤはニールによって外の世界へ連れ出されたり、季節のイベントをやったりと戦うだけではない時間があったが、マリーのほうは、それも皆無だった。
作品名:こらぼでほすと ニート1 作家名:篠義