魔法少女リリカルほむら、2枚目
瀕死の状態が嘘の様に、饒舌に語り出したQBは、最後に満面の笑みでこういった。
「今すぐボクと国技館に行って、相撲少女になってよ!!」
「」ブチッ
回想終了。
「気が付いたら、襤褸雑巾よりも酷い有様のきゅうべぇが転がっていたわ。」
「……あ、あはは…。」
ふと隣をみると、回想中のマミさんの表情を見たほむらちゃんが、若干どころかかなりの勢いで引いています。……どうしよう。フォローできない。
話を聞いて戸惑う私たちの所へ、キッチンの方にいたQBがこちらに顔を出しました。
「マミー、お風呂沸いたよー?」
「「!?」」
「ありがと、きゅうべぇー。」
「お安いご用さ。こうやってマミの喜んでくれる顔を見れるんだからね。」
「もう、きゅうべぇったらーw」
「「」」
「あ、今日の晩御飯はね?きゅうべぇが喜んでくれるように、ちょっと味付けに工夫してみたのよー。」
「それは楽しみだね。マミの料理は見た目がとても綺麗だから、ボクとしても味を楽しんでみたいんだ。」
……。
突然の事態から立ち直れない私達は、お互いに顔を見合わせました。そして、暫くして半ば放心状態のほむらちゃんが、虚ろに口を開きました。
「あの、巴さん。きゅうべぇってこんな感情豊かな生き物でしたっけ?そもそも人の為に何か行動を起こしたり、こんなハートフルな会話が出来たとは思えないのだけれど。」
「えっと、実は私にもよくわからないのよね。さっきの回想後に、魔力できゅうべぇの傷を癒して、目覚めたときには既にこの状態になっていたわ。以前の記憶も完全に消えて、魔法少女や魔女についても、私から説明するまで思い出せなかった程よ。それに、広範囲の念話もできないみたい。…でも、前よりもずっと可愛くて、紳士的になって、もうこのきゅうべぇだったら結婚してもいいくらいよ!」
「え、えぇ、そうね?(殴られた衝撃で感情に目覚めたのかしら?いえ、感情というより、Mへの目覚め?――待って、確か巴マミの武器は本来、銃ではなくリボン。攻撃方法はリボンによる拘束と敵の無力化。そして魔法少女の武器と攻撃方法は、本人の相性によって決定される。……え、もしかして、この事態は必然??)」
「あの、暁美さん?」
「!? いえ、なんでもないわ。それよりQBの状態も確認できたし、そろそろ帰ります。御茶、美味しかったわ。」
「いえいえ。私も、こうして他の魔法少女の娘と話すの、久し振りで楽しかったわ。今後も、貴方が私に敵対しないでいてくれたら嬉しい。」
「そのつもりよ。私から手を出すことはない。巴マミさえ良ければ、手を組んだって構わないわ。」
そういってほむらちゃんは、こちらを少し伺い、私のカップが空になっていることを確認します。
「そろそろ帰りましょう、まどか。あまり遅くなると、あなたのご両親が心配するわ。」
その言葉で自然と壁に掛けられた時計に目を移すと、時刻は18時を過ぎていました。
そして、マミさんに付き添われながら三人で玄関に向かいます。去り際に、今日のお礼を言ったほむらちゃんは、まるでついでの様に、今日の本題について口にしました。
「最近、妙な使い魔を見かけなかったかしら?」
「というと?」
「魔女と使い魔の反応が混ざっていて、ソウルジェムではどちらか特定が難しいの。加えて、魔女は人の影の様な形をしていたわ。見たことあるかしら?」
不必要な混乱を避ける為、その影が御滝原の中学生、さやかちゃんの影であることは伏せた情報に、マミさんは首を傾げました。
「いいえ、見ていないわ。ごめんなさいね、せっかく貴重な魔女に関する情報をもらったのに。」
「気にしないで。持て余していた情報だから。」
「そう。もし見かけたら連絡するわね。」
「助かるわ。」
二人の会話は、とても親しげな口調なのに、何処か互いに警戒し合っているような気がして。それが当然なのだと割り切って話すほむらちゃんを見ていると、何だか少し悲しいような、もどかしいような気持になって。そんな気持ちを抱えながら、私達はマミさんの家を後にしました。
次の朝。
高層333メートル。都市近郊の住宅街と、その地に沿って流れる川からの自然があふれる見滝原市。その全容を見渡すことができる展望台の中で、その少女の存在感は何処か異質だった。すらりと長い脚に似合った黒のブーツとショートパンツに、薄い青のパーカーという出で立ちの少女は、まるで何事かを待つように佇み、展望台から見える景色を眺めていた。その少女の手には、陽光を幾重にも反芻させる程の宝石がついた、ネックレスが握られている。ひとしきり景色を眺め終わると、彼女は苛立ったように舌打ちした。
「たく、どうなってんだよこの町は。」
少女は、自身の頭を押さえるように手を当て、自身の髪を結ぶ大きなリボンを結び直した。
「変な使い魔に出くわすし、倒したらよくわからない消え方をして、原因を探ろうとしたらQBに連絡が付やがらねぇ。直接会おうにもマミの野郎の処にいるみたいだし。」
苛立ちながら、彼女は手に持ったネックレスを首元に掛ける。そして、隣にある椅子に置いた紙袋から、熟れたリンゴを取り出して噛り付いた。ゆっくりと味を確かめながら咀嚼し、飲み込む。
「――よし、今日のは当たりだな。味も硬さも文句ない、そのうえ蜜がたっぷり入ってる。」
先ほどまでの苛立ちは何処かに飛んだのか、至極満足そうな笑顔を浮かべた少女は、次の自分の行動を決め
た。
「ま、ちょっと様子を探ってみますかねぇ。アイツが今どうしてるのか、知っておいて損はないだろうし、な。」
その少女、佐倉杏子は、巴マミの家へと向かった。
「あー、確かここだったか。」
巴マミの住むマンション。彼女の住む一室を伺える、対面のビルに移動した私は、来る途中に仕掛けた盗聴の魔法から、彼女の様子を探り始めた。
……あん?原理は魔法と幻術の応用さ。詳しいことは聞くなよな。
「さてと、マミの野郎の恥ずかしいプライベートを明かしてやろうじゃないか。」
滲み出る邪な笑みを抑えつつ、私は部屋の中の出来事を観察した。
以下、巴部屋の様子。
「きゅうべぇ、ご飯できたわよー?」
私服の上に白いエプロンを着たマミは、朗らかな笑みを浮かべながら、フライパンで焼いた目玉焼きを、テーブルの皿に盛りつけた。それと同時に、器用にマグカップを耳上の長い部分で持ったQBが、テーブルにそれを置いた。
「きゅっぷい。ありがとうマミ。こちらも紅茶の用意ができたよ」
「ありがとう、きゅうべぇ。いい香りねぇ、淹れ方また上手になったんじゃない?」
「そう言ってくれて嬉しいよ。君の指導が分かりやすくて、改善点を簡潔に伝えてくれるから、僕の向上心が刺激されるんだよね。」
「ふふ、おだてたってこれ以上朝食は増えないわよ。さ、冷めないうちに食べましょう。」
「そうだね。それが合理的だよ。」
向かい合う形で席に着いたマミとQBは、合掌してから紅茶を啜った。
あん「……なんだこの会話。」
作品名:魔法少女リリカルほむら、2枚目 作家名:メア@這いよる篝ちゃん