魔法少女リリカルほむら、2枚目
まるで新婚夫婦の朝の遣り取りを切り抜いたような会話に、それを行うには余りにも場違いだと思える程のQBのぬいぐるみ。以前アタシがマミの部屋を訪ねた時には、これ程の混沌としたレイアウトは、片鱗すらも感じなかったはずなのだが。
「きゅうべぇ、今日はどうするの?」
「君さえ良ければ、今日も町の探索についていくよ。別段、僕の存在は特に誰にも見えないしねぇ。」
「そう、ついてきてくれるのね?嬉しいわー。」
「僕としても、出来る限り君の傍にいたいしね。君との会話は何だか僕の感情を刺激してくれるようで嬉しいんだ。」
「私も、きゅうべぇの会話は楽しいわよ。」
「そうかい?それなら嬉しいよ。こんな僕でも君に受け入れられているんだと思うとね。」
「もちろんじゃない、貴方は私の最高の友達よ。」
「きゅっぷい。」
あん「いやいやいやwwww」
最高の友達ってなんだよ、相手はあのQBじゃねぇか!?
「QBもQBで何か滅茶苦茶マミに懐いてるようだし、どうなってんだよこれ。確かにあいつ、学校でも友達いなさそうな雰囲気してるけどさ。だからって愛玩動物みたいなモンに溺愛したなんて――」
仲違いをしたとは言え、かつての恩人の変わり果てた姿に悪態をつくことで自分を落ち着けようとする私は、
ふと、気付いてしまった。
「――もしかして、アタシのせい…?」
アタシがマミと喧嘩別れみたいになって、一人になった寂しさを紛らわせる為に、QBに対して溺愛していたなら。その寂しさの大きさが、このQBのぬいぐるみの数なのだとしたら。だったら、私は……。
自分の為に生きるというスタンスと、それを崩すことへの葛藤に悩みながら。それでも私は決断した。
「よし、決めた!! アタシが巴マミを助けてやる!! 今まで魔法少女として生きることで、孤独になったマミを、見滝原中学のお姉さま(アイドル)にしてやる!!」
何度失敗したって構わない、それでアイツの寂しさを拭ってやることができるなら、慣れないおせっかいだって幾らでも焼いてやる。それが、アタシが勝手な都合で傷つけちまったマミへの、せめてもの恩返しになると思うから。
一人ぼっちは淋しいもんな。
「そうと決まれば、早速行動に移りますかぁ。けど、まぁ今日は休日だし、マミのプロデュースをするなら学校に乗り込む必要があるし。マミの行動観察でも続けるかな。」
そう考えていると、朝食を食べ終え、外出着に着替えたマミはQBをつれてマンションから出るところだった。
「よし、行こう。」
30分後、駅前の都市部を歩くマミとQBの姿を、私は追っていた。そして、
「やべ、見失った。」
先ほどからマミ達の様子を探るものの、「――ショップに行ってみない?」「――ハウスとかはどうかな?」などとショッピングをただ楽しんでいるだけで、特に何も起きたりはしない。
「だからって、店に入ったマミを置いて、少しゲーセンで遊んだのは失敗だったなぁ。」
そう呟きながら私は、首元のネックレスにデザインしたソウルジェムを取り出す。といっても、特に何もするわけではない。
ソウルジェムを取り出してマミの位置を確認しようとすると、微弱だが発してしまう魔力の波動でマミに気づかれてしまう。そう考えたアタシはソウルジェムの反応を極力抑えたものの、その結果ソウルジェムのサーチが使えなくなってしまったからだ。
ネックレスを服の中に戻し、マミが話していたような店を覗いてみる。
「――ショップって、マミのことだからアンティーク系のショップとかファンシーショップのことだろ……?だったら通りのそれらしい店にまだいるはず。けど――ハウスって何だ?バーモンドかよ?」
そうして歩いているうちに、通りの奇妙な店を発見した。
「な、なんだこの途轍もないオーラは!?」
圧倒的なまでの威圧感を漂わせる1件の店は、内装が伺えない。けれども、滲み出る何かによって、私の本能がここから逃げろと告げている。その店の入り口には大きく店名が記されていた。そう、
「QBハウス……だと……!?」
やばい、すごくやばい。けどマミが言っていた「――ハウス」ってここじゃないのか?他にそんな店名の店見つからなかったし。
色々と考えた結果、私は店の中に突入しようとして――
「いや、死亡フラグじゃね?」
――寸前で思いとどまって引き返すことにした。
あん?ちげーよ、へたれじゃねーよ!戦略的撤退って奴さ!
っと、店に背を向け歩き出そうとしたところで、私は誰かに呼び止められた。
「逃げるの?」
「な!? 誰だお前?」
その声に再度店の方を振り返ると、見滝原中学の制服に身を包んだ、同じ年位の少女が腕を組んで私を見ていた。
「人に名前を聞く前に、って誰かに教わらなかった?」
「(イラッ)あぁ、アタシは佐倉杏子。アンタは?」
そういうと、少女は満足気に唇の端を吊り上げた。
「私はね、美木さやか。ねぇ君、今この店に入ろうとしたよね?」
「別に、知り合いが何とかハウスって奴に行くとか言ってたから気になっただけさ。」
「そう、私と同じね。私もたまたま知り合いが何とかハウスを探してるっていうから気になったんだけどね。この店は私一人で入るにはヤバ過ぎると思ったのよ。どう、私と組まない?」
「ふっ、別にこんな店アタシ一人でも大丈夫だけど、アンタがそこまで言うなら一緒に行ってやるよ。」
「そう、頼もしいねぇ。その言葉が口先だけじゃないといいけど。」
悪態をつきながらも差し出してくる右手を握り、この店を攻略するための束の間の同盟を誓った。
「じゃぁ」
「いくぜ!!」
勢いよくドアを開くと、そこには一面が中国風の赤と金で配色された小さめの玄関に、チャイナ服を着た女性が腕を組んで待ち構えていた。
「「え」」
違った、チャイナ服を着た筋肉マッチョな男性が腕組みをして待ち構えていた。
「お帰りなさいませご主人様。空手になさいますか?ムエタイにしますか?それともC・Q・C?」
「「」」
「「モンスターハウスダ……。」」キィィー、バタンッ
あまりの迫力の前に無言で扉を閉じた私は、衝撃で火花の散るような頭を抱え、道端で蹲った。隣を見ると、同盟を組んだ少女は
「SAN値が……。SAN値が……。」
と訳のわからないことを呟いていた。とにかくその場を離れたかった私達は、近くにあった喫茶店で休憩することにした。
喫茶店に対面する通りにて。
「あら、あの姿は確か……。」
「どうかしたの?ほむらちゃん。」
見知った姿を見つけた私の呟きを聞き取ったのか、隣を歩くまどかが、私に話しかけてきた。
「向こうの二人。」
ガラス張りの喫茶店。その窓際の席に視線を向けると、まどかは私の視線の先を追った。
「あれ、さやかちゃん?」
「と一緒にお茶してる相手。佐倉杏子という魔法少女よ。」
「佐倉さん……?」
作品名:魔法少女リリカルほむら、2枚目 作家名:メア@這いよる篝ちゃん