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今日一日だけのワガママ

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夕方という時刻だが、初夏なので外はまだ明るい。
黒子と黄瀬は道を歩いている。
誠凜高校からハンバーガーショップまでついてきた女子生徒たちはいない。いつのまにかすっかり友達同士のおしゃべりに夢中になっていて、黒子と黄瀬が店を出るのに気づいていないようだった。
歩きながら、おもに黄瀬が喋っている。楽しそうだ。
黒子にしてもイヤではなかった。黄瀬の話す他校の話はおもしろいし、バスケの話になると、やはり興味がある。
昔からこうだったと黒子は思い出す。
帝光中学時代、一緒に帰ったことは何度もあった。
あのころも、こんな感じだった。
黄瀬はチャラチャラしているように見えるが、人一倍まわりを気遣っている。そんなふうに感じる。
「黒子っち」
黄瀬が言う。
「ちょっと寄り道していかないっスか?」
そう言いながら指さした先には公園があった。
「いいですよ」
あっさりと黒子は同意した。
今日は黄瀬の誕生日で、そのワガママにつきあうことにしたのだから。
広い公園を進んでいく。
まだ明るいとはいえ小さな子供はもう家に帰ったようで、自分たち以外に人はいないようだ。
進む先になにがあるのか黒子はよく知っている。
そして、それが見えてきた。
バスケットコートだ。
ここで何度も練習をした。
やはり、だれもいない。
そのせいか少し寂しげに見える。
ふと、黄瀬が立ち止まった。つられるように黒子も立ち止まる。
黄瀬はゴールを見あげている。
その眼は優しい。愛おしげでもある。
本当にバスケが好きなんだな。
そう感じ、黒子は隣にいる黄瀬に気づかれない程度に少し笑った。
そして、黄瀬と同じようにゴールを見あげる。
どれぐらいそうしていただろうか。
しばらくして。
「……黒子っち」
黄瀬が呼びかけてきた。
だから、黒子は黄瀬のほうを向いた。
視線が黄瀬の眼とぶつかる。
綺麗な眼。
「やっぱり、オレは黒子っちとまたバスケがしたいっス」
真剣で、けれども、優しい眼差し。
「でも」
黄瀬は続ける。
「オレは黒子っちにオレの影になってほしいとは思わない」
いつもとは違う口調で告げる。
「オレにとって黒子っちは影じゃないから。バスケとか関係なく、オレの一番だから」
その意味を黒子はなんとなく理解する。
だが、黙っている。
すると、黄瀬の顔がくしゃっとゆがんだ。
笑って見せた。
「……今日一日だけのワガママだから」
黄瀬は軽い調子で言う。
「だから、今言ったこと、忘れてくれていいっスよ」
そして、眼をそらした。
作品名:今日一日だけのワガママ 作家名:hujio