愛し子2
ピチョン、ピチョン、ピチョン、
なんだろう水音がする。
ピチョン、ピチョン、ピチョン、
鉄臭い臭い、血?
俺、どうしたんだっけ?
ピチョン、ピチョン、ピチョン、
ああそうだ、俺は何か、誰かに・・・なんで俺寝てるんだ?飛行機はまだ日本に到着していないのかな?
ピチョン、ピチョン、ピチョン、
なんだろう、誰か水道のレバーをしっかり上げてないのかな?
いや、違う、これは・・・
『アーサー♪アーサー♪アーサー♪』
いきなり耳元で、甲高い子供の歌声が響いた。
『アーサー♪アーサー♪助けて♪アーサー♪アハハハハ』
アーサーって、イギリスのことかい?なんでまたこの子供はイギリスの名前なんか、
『ねぇ?可愛かったねぇ、アーサー♪』
多分俺に話しかけたのだろうが、ずいぶんとご機嫌のようだ。
悪いけど、俺は訳の分からない状況なんか、1秒だって耐えられないんだ。
「ねえちょっと君、今、目が開かないんだけど、ここ飛行機の中?君は一緒に乗っていた子?」
『必死になって、俺はここダーって、アーサー♪可愛いねアーサー♪』
無視か。ご機嫌な子供はくるくると飛び跳ねながら俺の周りを回っているようだ。
そのたびに、ピチョン、ピチョン、と水の滴る音がする。
これか。さっきからしている水音は。
「で、ここはどこなのかな?ちゃんと答えないとダメなんだぞ」
ピチョン、ピチョン、ピチョン、
『また行こっかなあ、アーサーの所♪とっても可愛かった♪』
ピチョン、ピチョン、ピチョン
「いい加減にしろよ!俺が聞いてるんだ!」
『アーサー♪ア・・・・』
ピチョン、
『僕に聞いているの?』
「君しかいないだろう?あーもう、どうなってるんだい!わけわかんないよ!」
『僕に聞いているの?アーサーの可愛い弟である僕に?』
アーサーの弟?イギリスの弟?
急にゾッとした。この子供はイギリスの弟だと言った。そんなはずはない。イギリスに今ごろ小さな弟がいたなんて聞いたことはない。
『ねえ?急にダンマリ?僕に聞いているの?僕に?この僕に?「ちゃんと答えないとダメなんだぞ」』
子供は俺そっくりの声をして、そして今の俺と同じ声で笑う。もう指先も足先も痺れたように感覚がない。足も腕も、端から凍っていくようだ。
『「アハハハハハハ」ねえ♪可笑しいナァ。君は寝てなくちゃならないんだぞ♪ねぇ♪』
子供の息が顔にかかる。可愛らしい声とは裏腹に、まるで血肉を啜ったかのような生臭い息。
「まっ、どういうことだい!何が起こって」
『「眠れ」』
「眠れるわけないだろ!どうなってっ」
『ああもう、うるさいなぁ』
落ちていく意識の端で、ご機嫌に歌い続ける子供の声を聞いた気がした。