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マヨネーズ生卵β
マヨネーズ生卵β
novelistID. 38947
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愛し子2

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荒れ果てたスラムで過ごした子供の頃を今振り返れば、地獄の日々と言うほかない。辛くなかったのは他の世界を知らず比べることができなかっただけの話で、物心つく頃になると救いようの無い現実を嫌というほど味わった。
「私の家は貧しく、妹は難病で治療されることもなく死にました。友人は盗みの容疑で、警官からリンチを受けて殺されましたが問題にさえならなかった」
何万人に一人の奇病。全身の皮膚が爛れる病。痛み止めさえない薄暗い部屋の中で、痛い痛いと妹は死んだ。警官にリンチを受けた友人は、腫れ上がった顔で側溝の側に転がされていた。
「全部、国のせいだと思ったから、国に内側から復讐するため、公務に付くことを目指したんです。とにかく選ばれる為の努力は惜しみませんでした。品行方正で明るく積極的な人柄を演じ、日夜努力して昼も夜も教師や教授に従順な模範生として成績を上げ続けて」
どんなにからかわれても、蔑まれても、復讐の為に耐えることができた。
「スラムの子の大半は荒れて、少なくない数が犯罪の道を歩む中で、私は一つの良き例外として注目を浴びましてね。大学も国費で行けたし、出自からは異例の官僚入りを果たしたんですよ。中央政府に勤める頃にはすっかり当初の目的など忘れていました。私が成功したおかげで家族はスラム街から抜け出すことができ、人々から尊敬と羨望の眼差しで見られる気分は最高で、すっかり牙を抜かれてしまった」
報道された途端、態度を変える人々。蔑みの言葉は賞賛の言葉へ、投げつけられるゴミは尊敬の拍手に変わった。最初に受け取った給料は見違える程の額で、喜びに泣く母を初めて見た日、復讐を忘れた。
「しかし、私に祖国の秘書などという大役が回ってくるとは。家柄からなにからエリートの連中がやるものだと考えて望みもしていなかったんです。ボスに呼び出されて祖国の側近くで働くと聞かされた途端、妹の痩せこけた顔や友人の腫れ上がった顔が急に蘇って、憎くて憎くてたまらなくなって、殴ってやろう、いっそ殺してやろうかと考えました。きっと私のように苦しむ国民など知らない、白塗りのリンカーン像みたいに尊大な姿の人だろうと想像すると腹が立って」
忘れもしない。あれは政府に務め出して3年の夏だった。
「それがアレ、でしょう?」
『ああ、君が新しいズズズ、秘書かい?ングング。まあ、ヨロシク頼むんだぞ☆』
潰してやる、殺してやると思っていた相手が、シェイクとハンバーガーを常に頬張っているような子供で、あまり頭が良さそうにも見えなかった。
「あれだけ憎い憎いと思っていたのに、憎しみよりも落胆するしかなくて、急に祖国がアレというのが恥ずかしくなって。私が威厳ある祖国にしなければと、妙な使命感が芽生えまして。復讐するならするで、せめてそれに値する人物であって欲しいじゃないですか。いやあもう、二無二働きましたよ。羊を食べるにはまず太らせてからだ、なんてね。しばらく経ったある日、アメリカさんが現実を見ておきたいからスラム街を視察すると言い出した」
私は止めた。スラム街がどのような所であるか、スラム街で育った自分が一番知っている。どれだけ裕福な人々を妬み祖国を恨んでいるのか。
「でもね、アメリカさんは笑ってこういったんです『君は国の希望だ』」
『スラム街が危険だなんて、わかりきったことだよ!でも、君はそうならなかっただろう?たとえ環境が悪くても、辛い目にあっても、正しく生きることができる。スラム街でも正義を守ることができる国民がいると知って、すっごく嬉しかったんだぞ☆スラム街は確かに国の病巣だ。ゴミダメだからさっくり焼き払えなんてひどい奴もいる。でも上から潰したり消したりするのではダメだ』
『俺はあえて、スラム出身の君を秘書に指名した。君は俺の中の一番暗く淀んだ場所で生まれても、希望を失わず輝いていたから。ニュースで話題になった頃から君を見ていたよ。君が大学を出た後、俺の側にこれるよう道筋を引いたりしてね。俺はヒーローだから、ヒーローが大好きなんだ☆』
『俺を手助けしてくれないかい?君のような境遇の国民を、一人でも救いたいし、一人でも幸せにしたいんだ』
ポロポロポロ、涙が溢れるのを止められなかった。恥ずかしくて情けなかった。
自分は何を考えた?なにをしようとしていた?
あんなニュースは格好の良いまやかしだ。本当は違うんだと言いたくて、顔を上げたら、アメリカさんは笑っていた。
『まずは、君の生まれた街から始めるよ。君みたいに優秀な能力を持っているのに、潰れようとしている人がいるかも知れないだろ?国だって、優秀な人材はいくらでもあるだけ欲しいんだぞ☆』

「私の人生は、アメリカさんに導かれたようなものです。彼を恨むことで道を踏み外さずにすみ、彼に認められたことで今がある。それなのに、お守りすることができなかった」

日本さんが気遣わしげにハンカチで頬を拭ってくれる。自分は、泣いていたらしい。

作品名:愛し子2 作家名:マヨネーズ生卵β