二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

輪廻

INDEX|2ページ/3ページ|

次のページ前のページ
 

「……ふふ、久し、ぶりに、触れ、た……」
「相変わらず冷てえなあ、お前の手は」
「最期に、触れ、られた、のが、お前で、良かった……」
「ああ、最期にお前に触れたのが俺で、良かったな。銃弾じゃあ色気がねえや」
「……は、全く、だ。……良い、人生、だったか、は、解らん、が……死に際、に、こうして、お前に、逢えた、
のは……僥倖、だ……。もう、それ、だけで……」
「もういい。もう喋るな」
「……それ……だ……で……じゅ……ぶ……」
 何をか言う代わりに、ぐ、と、取った手を強く握りしめたが、握り返してくる気配はなく。
 徐々に冷たくなりゆく男は、すう、と目を閉じ、その眦から僅かな涙を零して――旅立った。
 表情は変わりなく微笑みを象ったままで、最期の一瞬まで綺麗な奴だと、黒装束の男は思う。
 そのまま暫し亡骸を見つめていたが、握っていた手を離し、目の前の冷たく重くなった身体を抱いて、
黒装束の男はゆっくりと立ち上がった。
 せめてこの身体を戦場以外の場所に連れて行き、静かに葬ってやりたかった。
 血と火薬と、死の臭いに満ちた場所を後にして、男は森の中へと歩みを進める。
 追ってくる者はない。
 追いかける相手もない。

「なあ、次は、平和な時代に逢いてえもんだよな。戦なんか起きねえ、笑って生きられるような時代に
よ……。名誉とか金とか、そんなのものは何一つ要らん。俺やお前が、お互いを覚えて無くても構わね
えや。ただ、お前と普通に……一緒に、生きてみてえな……」

 のろのろと足を動かしながら、男はぽつりと、亡骸に語り掛けた。

 黒装束の男は、名を潮江文次郎。
 亡骸となった男は、名を立花仙蔵と言った。

 この日を境に、忍の世界から立花の名は消えた。
 潮江はその後も仕事を続け活躍し続けたが、ある時、彼の名も突然に世間から消えて行った。
 彼は三十を過ぎた頃から肺を患っていたのだが、ついに寿命が来たらしい、ある森の中の簡素な
墓標に寄り添うようにして息を引き取ったらしい ―― そのような噂がひと時流れたが、それもまた、
消えていった。





作品名:輪廻 作家名:東雲 尊