こらぼでほすと ニート4
どんだけイチャコラしたら気が済むんだよ、と、ハイネがいたらツッコミが入るところだが、寺の夫夫はイチャコラしている自覚はない。
亭主と悟空を送り出すと、寺は静かになる。深夜便とはいえ、そこそこの時間には出かけなければならない。アッシーがいないので、公共機関を使おうと思っていたら、ハイネが戻って来た。さすがに、独りで見送りなんていう危険なことは、『吉祥富貴』のスタッフもさせたくない。たぶん、見送って、そのままぼんやりしているだろうから、連れ帰らないと危険だからだ。
空港のチェックインカウンターでチケットを発券してもらって、ぶらぶらと出発ロビーへと足を進めていたら、急にティエリアとアレルヤが足を止めた。ティエリアに右腕を確保されていたニールも、一緒に停まる。ティエリアの視線の先には、こちらに歩いてくる紫の髪の青年が居るのだが、ニールも、あれ? と、何かしら違和感だ。よく見知った顔なのだが、雰囲気が違う。
「よかった、すれ違いにならなくて。」
青年は微笑んで近寄ってきた。すかさず、ティエリアがニールを背後に庇うように前に出る。
「なぜ、貴様が、ここにいる? 」
「きみたちのママに表敬訪問。それに、僕が本体から離れているほうが、きみも安心でしょ? ティエリア。・・・・・はじめまして、ママ。僕はティエリアの兄でリジェネ・レジェッタです。」
そこで、ようやくニールも違和感を納得した。ティエリアとそっくりだったからだ。ただし、ティエリアは直毛の髪だが、リジェネのほうはくせっ毛で、そこだけが違っている。
「本当に、そっくりなんだな。びっくりした。」
「そりゃ、同じ遺伝子情報から組成されているからね。」
先にリジェネが手を差し出したので、ニールも手を延ばす。軽く握手すると、ティエリアが、すぐに遮った。
「何をする気だ? リジェネ。おまえは、俺のおかんを否定したはずだ。逢う必要はないだろう。」
「僕らには母親というものは存在しない。それはイノベーターにとっては基本の情報だ。でも、きみには居るというから逢いに来たくなったんだ。ハレルヤも来てもいいって言ったしね。」
以前、そうハレルヤは言ったことがある。血の繋がりとか遺伝子の共有とかいうものでない母親というものだ、と、その時に説明したし、逢えば理解できるとも言った。
「ダメだ。おまえをニールの傍になんか置いていけるか。」
「でも、僕がヴェーダに居たら、それはそれでイヤなんでしょ? 僕が、こっちに降りていれば、きみもアレルヤと旅行が出来るじゃない? とりあえず予行演習だと思って。」
確かに、それは話し合っていたことだ。ティエリアがヴェーダから素体で外へ出れば、リンクが切れた場合はリジェネの自由になる。リジェネも素体を使って外へ出ていれば、そういう危険は少なくなるのだ。
「ティエリア、リジェネも休暇をとるだけだよ。いいじゃない、今更、ひとり増えたぐらいでニールも驚かないよ? ねぇ、ニール。」
ふしゃーと威嚇する紫猫を宥めつつ、ニールに視線を移す。「任せてもいい? 」というアレルヤのお願い視線だ。はいはい、と、ニールも視線で頷く。本当に今更だ、と、ニールも微笑む。なんだかんだと世話をしていたら、宇宙一高名な歌姫様とか某国の国家元首様とかスーパーコーディネーター様なんてものが、ママ、ママと懐いている状態だ。今更、イノベーターが一人増えたところで、ニールも困ることはない。
「うちに滞在が希望か? リジェネ。」
「できれば。僕、一般家庭って泊ったことがないんだよね。」
「俺は別に構わないけど・・・いろいろと決まり事はあるから、それを守るなら滞在できる。まあ、三蔵さんがウンと言わないと無理だけど。」
目新しいのが滞在することになっても、坊主は拒否したことはないから、どうにかなるだろう、と、ニールは胸算用する。それに、逢いたいと言われているとは、アレルヤからも聞いていた。ティエリアの双子の兄なんて、どういう生き物かニールだって興味深々だ。
「じゃあ、ママのところへ泊る。」
「わかった。ティエリア、リジェネはうちで預かるぞ。」
「ですが、ニール。こいつは・・・」
「おまえさんの兄さんなんだろ? 」
「兄ではありません。ただ、こいつのほうが先に作成されたから、そう言うだけです。別に、あなたに世話してもらう必要はありません。」
「まあ、そう言ってやるなよ。世話って言っても、大層なことはしないんだしさ。」
別に、寺に居候が一人増えたくらいで、大変なことはない。大抵、誰かが滞在しているし、これといって特別なことはない。そのうち飽きたら帰るだろうから、それまでのことだ、と、ニールは気楽に考えている。
対して、リジェネのほうは、ああ、これが温かいというものか、と、漠然と理解していた。敵意も疑心もなく、こちらに向けられているものは温かいものだ。確かに、心地良いものだとは思う。だが、それほど大切なものだとは思えないから、そこいらは、寺に滞在して観察させていただけば理解できるだろうと考えていた。
ハイネは、少し離れた場所に居たのだが、何かしら騒いでいるので走り寄ってきた。そこに紫猫が二匹になっていて、あれ? と、驚く。
「分裂したのか? ティエリア。」
一応、ツッコミ担当としては、これくらいの発言は基本だ。リジェネの情報は、『吉祥富貴』でも抑えてある。
「ハイネ、その発言は万死に値するぞ。」
もちろん、素直なティエリアは、ツッコミに威嚇で返す。まあ、冗談は置いておいて、ハイネもリジェネを上から下に観察する。データで知っているが、実物とは初対面だ。
「ハイネ・ヴェステンフルスだね? 元フェイスの。僕は戦争に来たわけじゃないんだけど? 」
「おまえが悪さしないなら、こっちも襲い掛かったりしないぜ。・・・・何の用だ? 」
対するリジェネも『吉祥富貴』のデータは頭に入っている。ただ、肉弾戦組については不明だったが。
「ハイネ、リジェネは僕らのママの顔を見に来ただけなんだ。しばらく、お寺に滞在させてもらえないかな? 」
アレルヤが取り成すように、そう言うので、ニールに確認するように視線を投げる。
「リジェネは、俺に逢いたかったんだってさ、ハイネ。」
「おまえ、また子供増やす気か? 」
「増えるといいなあ。」
ニコニコしているニールに、ハイネも苦笑する。飛び込んでくるものに対して、ニールは寛容だ。逢いたいと思ってくれたのなら、どうぞ、というところだろう。ラボや本宅に出向かせなければ、こちらのマザーの情報は筒抜けすることもないだろうし、そこいらはキラにセキュリティーを調整させれば済むことだ。ヴェーダに潜んでいるイノベイドが、あちらから接触してくれるなら、そこから情報を引き出すのはハイネの担当だ。
「まあ、いいけどさ。キラには報告しとくぞ? 」
「明日にでも顔を出せって言っておいてくれ。」
「了解。・・・・アレルヤ、せつニャンのほうに報告はしておいてくれ。」
「わかった。ヴェーダに戻ったら連絡しておく。」
作品名:こらぼでほすと ニート4 作家名:篠義