こらぼでほすと ニート5
いつもなら、シンとレイがニールのフォローに寺へ滞在するなり顔を出すなりしているところだが、アカデミーへ入学したところで、そちらが忙しくて店すら休んでいる状態だ。連絡はするが、動けるとは思えないから、ハイネしか動ける人員がない。
「そういうことなら、うちのアイシャも顔を出させるか? それともラボの運転手を代わらせるぞ? 」
虎が自分の奥様も動かせるから、と、提案する。そういうことなら、運転手を頼みます、と、アスランが指示する。アイシャよりハイネのほうがニールも気心が知れているので、フォローしてもらいやすいからだ。
「さて、どう転ぶと思う? 鷹さん。」
リジェネは敵か味方か、と、虎は頬を歪める。本当に、ママを観察に来たのなら味方だが、それを口実にしているなら敵に回る。
「どうなんだろうなあ。イノベイドっていうのが、よくわからんから、俺も、その紫猫もどきを観察してから賭けるよ。」
「確かに、そういうことだな。もし、敵になるなら早々に潰しておくのも手だが、ヴェーダと融合しているから素体だけ破壊しても意味が無いんだろうな。・・・キラ、イノベイド単体を破壊することは可能か? 」
「一体だけって言うなら簡単だとは思うけど、ティエリアには影響はないのかな。ないなら簡単。リジェネの核の部分だけヴェーダから抹消すればいい。」
「それってティエリア側から干渉させて人格を調整するとかは? 」
「それは無理だね。イノベイド各人の核は別物だから干渉させても、変えるのは不可能だと思う。」
「じゃあ、ダメなら抹消だ。」
「了解。その場合、ティエリアに許可は貰うことになるね。二個一の相手が滅んでも問題はないのか確認してからだ。」
「問題はないだろうと思うけどな、キラ。ライルの相手は先に刹那が消滅させたけど、二個一の片方は影響がなかった。」
「そうだったね、ムウさん。それなら、それで。」
とりあえず、『吉祥富貴』に害があるなら排除の方向で動くことだけ確認した。そうでないなら、別にティエリアの関係者が、こちらに関与しても問題はない。まだまだ世界は混乱の最中だ。ここで、またイノベイドが余計なことをすると、歪んだ世界になってしまうから、キラたちも慎重に行動する。
ハイネが打ち合わせを終えて寺へ戻ったら、居間には寺の夫夫が待っていた。いや、待っていたというより坊主が晩酌して女房が付き合っていたが正しい。子猫どもが組織へ戻ったから、存分に亭主が女房といちゃついている。で、サルはいなくて、紫猫もどきも晩酌に参加していたりする。
「ハイネ、先に風呂に入れ。おまえが仕舞湯だ。」
「サンキュー、ママニャン。俺、おまえと寝るつもりだけど、布団敷いてくれてるか? 」
「ああ、敷いてある。明日の予定は? 」
「俺は休みだ。昼まで寝る。」
明日の予定を告げて、ハイネも風呂に入る。さっさと入らないと、ニールが寝られない。今夜から、しばらくは誰かが隣りに寝ていないと、寺の女房は寝られないからだ。
「ということは、俺はフリーでいいな。」
「スロットですか? 」
「さあなあ、明日の気分次第だ。」
「お彼岸まで予約は普通に入れていいんですね? 」
「おう、適当に捌いてくれ。今のところ、法事の予定もねぇーからな。もうちょっと飲まないか? 」
「もうダメですよ。そろそろ、ふわふわしてますから。あんたも、そろそろ切り上げてください。」
「なら、こっちのツマミを食え。」
「もう、お腹一杯。」
いちゃこらと寺の夫夫が晩酌を楽しんでいるのだが、何かしらさっきの会話が違和感で、リジェネは首を傾げている。ハイネが一緒に寝ると言ったことが、とてもおかしい。確か、このふたりが夫夫のはずで、目の前でいちゃこらとしている。
「ママ、ハイネと寝るの? 」
そこで、疑問は解消すべく質問したら、「ああ。」と、肯定の言葉だ。
「僕の教養では、夫夫が一緒に寝るもんだと記憶してるんだけど? 」
「うちは夫夫じゃないからさ。リジェネ、うちは全員ノンケで同居しているが正しいんだよ。この人やハイネが、おかしなことを言うから、寺の夫夫って呼ばれているけど、そうじゃないからな。」
と、説明しているのに、坊主が余計なチャチャをかましてくる。くいっと女房の髪を引っ張って、こちらを向かせる。
「おまえ、俺を誘ってただろ? 」
「断ったのは、あんたですよ。俺は、身体ぐらい、もうどうでもいいけど、あんたはダメでしょ? 」
「趣旨変えか? ママ。」
「いや、そういう気分にならないんで、あんたが抱きたいと言うなら付き合ってもいいってぐらいのことです。」
「けっっ、おまえの全裸なんて見せられたら叩き出すぞ。気色悪りぃ。」
「俺もねぇ。酔っ払って訳わかんない段階でなら、どうにかなると思うんですが・・・素面は無理でしょうねぇ。」
ふたりして、とんでもないことを言って笑い合っている。そういう関係だから気楽でいいのだが、リジェネには不可思議すぎてわからない。データとして知っている事柄では、この夫夫が夫夫だということなのだが、実際は、そういうもんではないのかもしれない。データと現実の違いというのはあるものだ。
「ハイネは、どうだ? 」
「俺が性転換しないと無理らしいです。」
「面倒なヤツだな。胸ぐらいなくても、やれるだろ。」
「そこじゃないんじゃないですか? 三蔵さん。あんた、おっぱい好きでしたっけ? 」
「それは、おまえだろ? 巨乳好きじゃねぇーか。」
「あははは・・・だって気持ち良いでしょ? 」
「俺はバランス重視だ。」
「それもわかるけど・・・確かに、くびれてるのはそそられるかな。」
どっちも軽く酔っ払っているので、明け透けな話だ。リジェネには口を挟むとかいう次元の会話ではない。大人しくツマミを口にして、カルピスサワーを飲んで観察するのが関の山だ。
そうこうしていたら、ようやくハイネが風呂から上がってきた。玄関の戸締りまでして、居間に顔を出す。
「飲むか? ハイネ。」
「ビールでいいから、寝ようぜ? ママニャン。」
いい感じにほろ酔いしているニールは、このまま寝かせれば朝までぐっすりだ。それに、この晩酌、これ以上になると、坊主の怖い口説きが待っている。ハイネもノンケだが、あの口説き台詞は怖いから聞きたくない。
「リジェネ、まだ飲むなら勝手にやってくれ。となりの部屋に布団は敷いてあるから寝るなら、そこへ行け。・・・あんたは? 」
「間男と寝て来い。俺も寝る。」
全員が、わらわらと動き出す。ハイネか冷蔵庫から缶ビールを二缶取り出して、寺の女房の肩を抱いて廊下に消えるし、坊主も後を追い駆けるように廊下に消えた。オールセルフサービスなので、寺では客の相手を最後までするなんてこともない。飲みたければ飲んで、寝たければ寝て、が基本だから、ぽつんと取り残されたリジェネは、え? という顔だ。廊下に顔を出すと、ニールとハイネが回廊を上っているところだった。そちらについていくと、おや? と、ニールが振り返る。
「どうした? 」
「ティエリアと同じように扱ってよ、ママ。」
「えーっと、どうして欲しいんだ? いつも、こんな感じなんだけど。」
作品名:こらぼでほすと ニート5 作家名:篠義