Blue
ドアを開けると、新一が寝返りをうった。
KIDと小さくつぶやかれた声に返事をする。
「起きた?」
「俺、寝てたか?」
「ほんの少し。」
はい、とまだ湯気のたっているホットミルクを顔の前に差し出すと、
わざとらしく嫌そうな顔をする。
「俺これ嫌い。」
「でも、なんだかんだ全部飲んでた。」
「‥‥お前が作るからだろうが。」
全然好きじゃねぇのに、と言いながら、
新一は布団かったるそうに手を伸ばす。
快斗は伸ばされた手にマグカップを渡そうしたが、
その手が異様なことに気づき、止める。
「‥シンイチ‥‥それっ‥!!」
「‥‥っ‥」
新一も自分の腕を見て苦しげに顔を歪めた。
さっと腕を布団の中へと戻すが、もうしっかりと快斗に見られた後。
くしゃりと握りこまれた布団が皺を寄せる。
「今のは何?」
「‥‥なんでも‥ねぇ。」
「何でもなくないだろ。」
「平気だから。」
「もっかい見せて。」
「断る。」
「駄目、見せて。」
「・・・・・。」
「シンイチ。」
快斗が布団に手をかけようとすると、
観念したのか、腕を差し出してきた。
新一の肌は太陽にさらされずにいるからか、
もしくはヴァンパイアならではのものなのかひどく白い。
快斗はそんな新一の白い肌が好きだった。
だがその肌は今、手首から服の袖で隠れたところまで真っ黒だった。
日に焼けた肌を黒いというが、そんな黒とはわけが違う。
本当の黒だった。
「上の服脱いで。」
服に隠れた部分にまで続いているそれは、
一体体のどれほどがそうなっているのかが分からなかった。
快斗はそれを確認しようと言ったのだが、新一は頑なにそれを拒んだ。
「シンイチ‥‥もしかして‥っ・・」
「‥‥っ‥‥」
快斗の背中に嫌な汗が流れた。
強引に新一の着ているシャツに手をかけ、引っ張る。
やめろという新一の声は快斗には届いていなかった。
生地が裂ける音を立て、
新一の胸元が露わになる。
快斗は言葉を失った。
ただただ嫌な予感しかしなかった。
あまりに不吉なその色に声が震える。
「‥‥元に戻るんだろ?」
「‥っ‥」
涙を流し、何も言わない新一。
シンイチこんなに泣き虫だったけ‥
あぁ、俺がシンイチを泣き虫にしちゃったのか‥
長い間待たせちゃったからな‥
快斗は頭の片隅でそんなことを考えていた。
だが、シャツを裂いたときに力を入れすぎた手がじんじんと痛み、
現実に引きずり戻す。
呆然としている快斗に新一は抱き着いた。
快斗もそっと新一を抱きしめ返す。
新一をゆっくり息を吸った。
そしてまたゆっくりと吐き出す。
もう少し、もう少し知られずに居たかった。
こんなに長く、人にしたら永遠のように生きてきたのに。
今は少し、もう少し生きたいと思ってしまう。
「KID‥‥俺‥」
「‥‥うん、なにシンイチ?」
こういうときの優しい声音の快斗がたまらなく好きだった。
「俺な‥怖かったんだ。」
「‥うん。」
本当は悲しい顔なんてさせたくないけれど、
「ずっと怖かった。
黒くなってく体に気づいて、怖かった。」
「うん・・。」
あの時の自分の立場になどさせたくないけれど。
「でも、今はなんも怖くない。」
「・・・っ・・」
本当に今は何も怖いと感じなかった。
不思議なほどに、あんなに肩を震わせて怯えていたのが嘘のように。
今はただ、
今はただ、
「KID、俺太陽が見たい。」
俺も、俺も必ず―――――