Blue
新一は振り返りまっすぐに快斗を見つめた。
だが、その瞳はどこか遠くを見ていて、快斗の奥のKIDに向かって話しているようだった。
快斗は必死に声を押し出した。カラカラに乾いた喉からは掠れた声しか出なかった。
「そ・・・・・んな・・の、」
「本当だ。」
快斗の頭の中でそれは違うと叫ぶ声がした。
なんで自分を責めてるんだ。それは俺が勝手に言ったことだと。
俺が何を言ったのかなんて分からない。
でも、俺にも分かる。違うって。新一がこんなに傷つくことじゃないって。
「・・・・ちが・・・」
「事実だ。」
新一に説明したくても、言葉が出てこなかった。
頭が痛みを訴え始める。
「・・・・・・・・ち・・・がう・・。」
「・・・・違わない。」
目に涙が溜まり始めた。
視界がどんどんぼやけ始める。
そのぼやけた視界の先は俺の部屋で悲しげに笑う新一の顔のはずだったのに、
いつの間にか違う光景がぼんやり浮かんでいた。
「違うっっ・・・」
「俺が殺した。」
ポタリ―――と涙がこぼれ、視界がクリアになる。
「・・・・違うっっ!!!!!!!
俺が喰ってって言ったんだ!!!!!!」
驚きでいっぱいの新一の顔があの日の泣き顔のシンイチと重なった。
「・・・・っ!!????
・・・・・・・・か・・・いと?」
「俺が喰って欲しかったんだ!!!!!!!!
俺がシンイチの一部になりたかった。
死んでも一緒にいたかったから・・・・・
寂しがりやなシンイチを残していくのが嫌でたまらなかった。
騙されやすいお前がひどい目に合わないか心配だった。
俺を追って死ぬんじゃないかって・・・不安だった。
本当はお前と同じヴァンパイアになりたいとも思った。
だけど、それをお前は望まない。
だから、俺は・・・・・・いつかまた会えると信じて・・・・
それまでお前が生きてくれるようにって・・・
言いたいことも・・・あったから・・・・
俺がお前を包みこめるように・・・
喰ってと・・言った・・・・・・・」
次々と溢れてくる感情に従った。
そして思いのまま言葉を口にした。
それは違うんだと、俺の我侭なんだと、
ヴァンパイアのくせに人の血を飲むことが嫌いなお前に残酷なお願いをしたのは俺だと、
ただ俺がお前と一つになりたくて、糧になりたかっただけなんだと。
気づけば、頭の中で『過去』の記憶が蘇っていた。
「・・・・・・KID・・?」
「・・・・っ・・・・・お・・・れ・・」
「・・・思い出しちまったのか?」
「・・・あぁ・・、」
「・・・・ごめん。」
「シンイチが謝ることじゃない。」
「・・・ごめんっ‥。」
謝り続ける新一を快斗はそっと抱きしめた。
新一の目からは涙が溢れていた。
同じように快斗の目からも涙が溢れていた。
「あの頃お前は辛そうだったから、
忘れてるなら、それでいいと思った。」
「・・俺は思い出せて良かった。」
「・・・KID・・・悪かったっ・・っ・・」
本当に思い出せて良かったと心から思う。
二人で過ごし、ほとんど一緒に暮らしていたあの頃の記憶すべてが辛いことじゃない。
幸せで穏やかな日々もあった。
でも、一人で抱えるにはあまりに苦しい終わり方をしてしまった。
「謝るのは俺の方だ。
シンイチに辛い思いをさせた。
嫌な思いをさせた。寂しい思いをさせた。・・たくさん。」
「・・そんなことっ・・」
「全部俺の我侭なのに、ちゃんと待っててくれた。
なのに、俺は忘れてて・・・ごめん。ありがとうシンイチ。」
「・・・KID・・・」
「それと、ずっと言いたかった事がある。」
あの時、これを言えば泣いてるシンイチの涙が少しは止まるかなと思った。
口癖のバーローと言って頬を少し赤く染めて・・・
でも俺は言わなかった。
確証も無かった未来を囁き、
言いたいことがあるから待っててと束縛したんだ。
快斗は腕の力を強めた。
新一の体がつぶれそうなほど強く抱きしめた。
「好きだよ。」