こらぼでほすと ニート6
確かに、それはいいことなのだが、実際、看病を担当したティエリアはたまったもんじゃない、と、文句を吐いた。かなり回復はしていたものの、やっぱり、どこかおかしくて泣きそうになったのは一度や二度ではなかった。会話の最中に、唐突に意識がどこかへ飛んで往かれてしまったり、泣かれたり、よくわからない言葉を呟かれたりすれば、誰だって怖くなる。後で刹那から、あいつは壊れているから、ああいうところが脆いのだ、と、言われたが、そんなもので納得できるものではなかった。その当時の苦労を片っ端から持ち出して、ティエリアが説明すると、アレルヤは微笑んで毛布の中にあるティエリアの手を握る。
「ニールは、テロで家族を唐突に亡くしているから、唐突に消えてしまうっていうのがトラウマになってるんだろうね。・・・・もうやらないよ。ごめんね、ティエリア。」
「当たり前だ。次は、おまえを殲滅してやる。・・・だから、あの人にショックは与えたくないんだ。それに少し腹立たしい。俺たちが、ニールと過ごせないのに、リジェネだけ傍に居る。」
「その前、四ヶ月くらい過ごしたけどね? 」
「あいつに愛情が分散されるのも腹立たしい。あいつは関係ない。」
「でも、リジェネがニールをおかん認定してくれたら、僕らも動きやすくなるよ? 」
ティエリアがヴェーダを離れられない一番の原因は、リジェネによるヴェーダの独占だ。もし、リジェネがニールに懐いたら、それはなくなる可能性が高い。
「・・・・わかっている。理論としては理解できても、感情は嫉妬するものだ。」
「くくく・・・そうだね。僕も、それには同意するよ。」
人間は、ひとりで生きていけない、と、実感させてくれる。それを教えてくれたのもニールだったし、アレルヤたちのことも理解してくれた。ふたつの人格を、ひとつの身体に詰め込まれたアレルヤたちを、別々の人間として扱ってくれることには感謝する。なんでもないことだが、「ありがとう。」とか「ご苦労さん。」とか声をかけてくれることが嬉しいのだと思う。そういうものがあるから、人は生きていけるのだと思えたからだ。確かに、それがリジェネ一人に向けられてしまったら、アレルヤたちも嫉妬はするだろう。
「僕、刹那はとニールは、僕らみたいな感情があるんだろうと思ってた。だから、ロックオンを嫁にするって言った時は、かなり驚いたよ。」
唐突に、今まで口にしていなかったことをアレルヤが口にした。組織に刹那とニールがいた時から、ふたりの関係は、そういうものなんだろうと漠然と考えていたのに、実際、刹那はニールを選ばなかった。それが、とても不思議だった。ライルに魅力がないとか、そういう話ではない。とても強い結びつきがある刹那とニールが、恋情を向け合っていなかったことが理解できなかったのだ。今でも、刹那はニールと一緒に寝るのが大好きだし、ニールも喜んで腕枕してやっている。それでも、それ以上の感情はない。そこまでしたら触れ合いたいと思わないのか、自分がそうだったアレルヤには疑問だ。
「俺もないぞ? ニールに、そういう意味で触れたいとは思わない。」
ティエリアがからかうように言うと、アレルヤも苦笑する。もちろん、ティエリアも同じようにニールに懐いていた。まあ、腕枕はされていないが。
「ティエリアが、そうだったら僕のことを受け入れてくれてないだろ? 」
「そうだろうな。・・・・俺は刹那の過去までは詳しく知らないが、刹那にとってニールはおかんなんだろう。それ以上でも、それ以下でもないから、性欲に結びつかないんじゃないか? それに、ニールは結婚したから、今更、どう言っても覆らない。」
「うん、しっくりしてるよね? 三蔵さんとニール。僕らも、あんなふうになりたいな。」
「きみの努力次第だ。」
「はいはい、わかってます。・・・・寝る? 」
「そうだな。少し寝る。」
毛布の中で握った手は、そのままで、ふたりして目を閉じた。そして、ハレルヤと裡で会話する。
・・・・バカライルとニールじゃ、年季が違うってことだろ? 刹那におかんを独占されたら、俺は嫉妬どころじゃねぇーぞ。・・・・
・・・それはそうなんだけどさ。刹那って凄いな、とは感心するんだ。どっちのロックオンも獲得しちゃってるから・・・・・
・・・・バカライルはいらねぇー。けど、アレルヤ、ティエリアに毎日、あっちの動きは確認させとけ。何かあったら洒落にならないからな。・・・俺も、ニールがぶっ倒れるのは勘弁願いたい。・・・・・
・・・うん、それは言っておくよ、ハレルヤ。僕も、ニールに心配されるのはイヤだしね。・・・・・・
ハレルヤにしても、ニールに無事だったことを泣くほど喜ばれたのは堪えた。心配でおかしくなったと言われて、反省もした。一緒に戦えなくなったから、ずっと心配してくれている。危険なミッションで死ぬことはしょうがないと思うが、納得してもらえる死に方でないと、ニールが道連れになりそうだから、そこいらは考える。ハレルヤにとっても、ニールは大切なおかんだ。たまに逢いたいと思うし、一緒にのんびりと暮らしたいと思う。だから、二度と勝手なことはしないと、アレルヤと決めた。
・・・・・リジェネは転ぶぜ? ・・・・・
俺が転んだように、と、ハレルヤは裡で笑っている。アレルヤとハレルヤを別人格として、差別せずに話しかけてくれるニールが、ハレルヤも大好きだ。最初は、抵抗もしたし疑いもした。でも、どんなに罵っても態度は変えなかったニールに根負けした。自分も双子だから、少しわかるんだよ、と、ハレルヤにだけ秘密を教えてくれたから、それからは心置きなく甘えるための罵声になってしまった。リジェネも似たようなものだろうと推測している。片割れが懐いている相手が、自分にも同じようにしてくれると嬉しいという気持ちは、ハレルヤも思っていたことだからだ。
翌朝、リジェネが目を覚ましたのは午後近い時間だ。ぐぅーとお腹が空いたから居間に顔を出したら、ハイネが朝食にありついていた。
「おはよう、リジェネ。おまえさんは、メシがいいか? それともパンか? 」
「メシ? 」
「えーっと、うちは基本、和食なんで米が主食なんだ。朝だけはパンもあるけど。」
じゃあ、パンで、と、返事したらワンプレートにサラダとスクランブルエッグ、トーストが載せられたものが出てきた。飲み物はオレンジジュースとカフェオレだ。顔を洗って洗面所から戻ったら、卓袱台に、それらが鎮座している。
「着替えは? 」
「昨日のを着て、何か調達してくるよ。」
「それなら、ティエリアのがあるから、しばらくは、それでいいだろ。下着は新しいのがあるから、それで。」
さっさと服まで用意されていくのが、リジェネには不思議だ。普通とは、こういうものなんだろうか、と、考える。自分たちは、適当にネットを使って衣服を調達して使い捨てにしている。
「ママニャン、買い物に行くなら、アッシーするぜ。」
「おう、じゃあ、ホームセンターまで頼む。・・・・後はコーヒーか紅茶か? 」
「コーヒーで。あと、なんか甘いモンあるかな。」
「甘いものか・・・えーっと、クッキーがあるけど。」
「それでいい。」
作品名:こらぼでほすと ニート6 作家名:篠義