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生まれ変わってもきっと・・・(後編)

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ユリウスは溜息を吐く。こいつは、白ウサギよりも性質が悪い男だと頭が痛くなる。

「お前・・あいつに何かしたらただでは済まんぞ。」
「ははっ。ユリウス、お父さんみたいだよ? 怖いなぁ。」



アリスは部屋から出て行ったエースを探す。赤いコートはコート掛けに残っているから、時計塔の何処かに居る筈だ。彼は夕日を見ていた。手摺りにもたれて何か考えているような、ただただ夕日を無心で見ているような。彼でもそんな表情をするのかと、暫し声を掛けるのを躊躇う。

「なに? 俺に見惚れてるの?」

此方を向きながら、いつも通りに爽やかな笑みを見せる騎士。この世界の男は皆ずるいと思う。酷い事をしても美形というだけで、罪が軽減されてしまうように思うからだ。目の前の男だけではない。ペーターもブラッドもだ。彼らが自分にしたことだって、罪名を付けようとすれば何かしら付けられる筈だ。他の人にした事だって、刑法の素人が考えるだけでも確実に随分と物騒なものが並ぶ。殺人や傷害が日常茶飯事で、罪の意識が無いとは、アリスの価値観からしたら歴史に名を残すとんでもない悪党揃いだ。それなのに、此方側の世界の価値観というだけで、自分は彼らを嫌いになり切れない。これは由々しきことだと思う。

「違いますっ! その、ペーターに会ったんでしょう? なんか様子おかしくなかった?」

「う~ん、あの人はいつもああだと思うけど? いきなり銃撃だろ。しかも挨拶代わりに頭狙いだぜ。俺は会えて嬉しかったんだけどさ、ペーターさんの愛情表現が容赦無いってのはいつも通りだよ。はは・・」

エースは指で頭をコンコンと叩きながら、大したことでもないように話す。

「それより何か妬けちゃうな。君はペーターさんのこと気にしてるけど、俺のことも気にして欲しいな。」

アリスはエースの隣に立って、同じ様に手摺りにもたれる。

「エース、もう怖いことしないよね? 私は此処に、時計塔に居たいの。でも貴方の望むような関係にはなれないわ。」

「好きな奴がいるってこと?」
「誰も好きになったりしないわ。」

夕日に向かってそう言うと、エースの方を見る。夕食を食べて行くならお買い物に付き合って。そう言って先にその場を離れた。



ベッドに横になり、作業中のユリウスには見えないように小瓶を見る。もう七割方液体で満たされた小瓶を。
もう少しで帰るための道が開かれる。そう思うことは、アリスにとても複雑な感情を沸き上がらせる。帰らなければと思うのに、それに拮抗する気持ちがあることに気付いているからだ。

「芋虫、なんとかしろ。」

ユリウスが呟く。それはアリスの耳には届かなかった。彼女は夢魔の支配する国に既に行ってしまっていた。


★15. 父と娘と、睨まれた恋人?

「お嬢さん、君は・・・何をしているんだ。」

本当に呆れた声で、声を掛けられた。今のアリスを見れば誰だってそう言いたくなるだろう。いい年頃の娘がすることじゃない。此方を見て腕組みしているブラッドは、室内に居るにしては珍しく上着を着込んでいる。何処かに出かけるのだろうか。

「あ、あっちに行って!」

本棚の棚板に両足を乗せ、左手は棚板に掴まった状態で、右腕を目一杯伸ばし、最上段の隙間に入れっ放しになっていた例の写真集を取ろうとしていたところだった。あと少しが届かない。もう一段上の棚板に足場を変えるか思案していたところだった。

「本当に悪戯な娘で困る。あれはお父さんの大事な本だから、悪戯するんじゃない。」
「は!?」

ブラッドは子共を抱きかかえる様にアリスを抱くとソファに向う。放してと抵抗しているうちに仄かに薔薇の香りがしてきた。
(この男、薔薇の香水つけてるんだ。)
一瞬動きが止まる。私の先生は、香水なんてつける人じゃなかった。そんな思いが過ぎる。忘れていた苦い思いが込み上げてきた。
ソファに座ってもブラッドは膝の上から放してくれない。子供を膝の上で抱くように、アリスの背中はブラッドに密着し、彼の腕がアリスを両腕ごと拘束する。背中から伝わる他人の熱と息遣い。それが落ち着かない。身を捩って抵抗を続けると、耳の傍で言われた。

「この体勢でそんな風に暴れられると、私も収まりがつかなくなりそうだよ。」

それはそういう経験が無いアリスにも解るような、そんな意味深な言い方だった。顔が赤くなる。そんなことを聞いてしまっては動くに動けなくなる。

「もう、変態! 放してったら!」
「今から大事なお客様が見えるんだ。お利口にしていないと、後でお仕置きだ。いいね。」

耳元で囁かれて、全身がぞわぞわと総毛立つ。来客ならこんな格好、尚更嫌じゃないのよっ! アリスは、拘束している男の腕に、上着の上から抓ったり叩いたりと地味に攻撃していたが、全く堪える風ではない。反対に後ろで楽しげに小さく笑っている。
そのうちノックがあり、メイドが来客の到着を告げる。両の扉が大きく開かれ、ほっそりとした影を先頭に数人入室して来た。

ペーター!?

アリスは驚いた。城の宰相が、マフィアの屋敷に何故足を運ぶのか。入室して来たハートの城の宰相の歩みが止まる。持っていた書類入れを取り落とすほどに驚いている様子だ。お付きの部下が急ぎ拾うと、ペーターも我に返ったらしく強張った顔で此方に近づいてくる。その表情を余裕の笑みで眺めるブラッド。

「これはこれは、ホワイト卿。わざわざ御出座し頂いたにもかかわらず、自室でお迎えする無礼をお詫びします。ご覧の通り、手の掛かる娘の相手をしておりましてね。どうぞ、そちらのお席へお掛けください。」

何か言いかけようとしたアリスの口は、彼女を拘束する男の手で封じられる。
アリスとブラッドを見下ろし、どうぞお気遣い無くと抑揚無く言った後、勧められた席に腰を下ろすペーター。既に表情は隠され、城でメイドや兵士相手に見せるそれに戻っている。アリスは初めて、こんなに冷たい、表情の動かないペーターを見たかもしれないと思った。彼女の知る彼は、何かしらの表情を湛えた顔ばかりだからだ。

「いいかい? お父さんのお仕事の邪魔をするんじゃないよ。解ったらジッとしていなさい。」

小声で話しかけた耳元にキスをすると、ブラッドはアリスの口を塞いでいた手で金色の髪を撫でる。撫でながら交渉相手の表情を窺う。ペーターは、その様子を冷たい目で見ていた。
アリスは視線が合うのが嫌で目を閉じる。気付かぬうちに眉頭が寄っていた。

「早速ですが、先日戴いた資料を検討させていただきました。結論から申し上げますと、あれでは此方に交渉の余地が全く無い。本日は当方からの提案をさせて頂きましょうか。それでは、新しく資料を用意していますから、そちらをご覧になってください。」

落ち着いた事務的な声が静かな室内に響く。アリスがそっと目を開けると、控えていた部下が資料をブラッドに渡すところだった。ペーターの後ろには五・六人の兵士ではない服装の男達が控えている。ハートの城には何度も足を運んでいるが、こんな男達を見たことが無い。
耳元でブラッドの声がした。

「アリスの相手をしてやってくれ。」