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ウサギとカメ (Fairy Tales epi.1張遼)

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 関羽の語る話は、おおよそこういったものだった。ウサギとカメという組み合わせは張遼にはやはりどことなく奇妙なものに思えたが、教訓的な意味では旨い話だとも思えた。油断せず、頑張り続けた者が最後には勝利を手にする。

「どうかしら?」
「異国にも、興味深い物語があるのですね」
「ふふ、本当ね。あ、そういえば、このお話のカメ、ちょっと張遼みたいじゃない?」
「私……ですか?」

 さっきまでちぐはぐだと感じていた登場人物、人物かどうかはおいておくとして、まさか自分がなぞられると思っていなかった張遼は目を瞠った。やはり彼女の言葉は、いつも自分の予想を上回っている。

「だって、このお話のカメは、決して自分の歩調を崩さないでしょう。そういうところ、なんだか貴方みたいだわ」
「そうですか? ……では、関羽さんはウサギですね」
「わたしがウサギ? どうして?」
「ウサギは可愛らしい動物です。関羽さんも可愛いですから」

 張遼としては思ったことを述べただけなのだが、なぜか関羽はそれを聞いた途端顔を赤くさせた。

「ち、張遼! い、今は、中身のことを話しているのよ」
「おや、そうでしたか? 申し訳ありません」
「謝らなくてもいいのだけれど……」

 「人間」として生まれたわけではない張遼にとって、なぜ関羽が急に焦ったような口調になったのかはよくわからなかった。話の内容がずれたことで怒ってしまったのだろうかと一瞬思ったが、謝らなくていいということは、怒っていないということだ。それに関羽が頬を赤くさせるのは、照れているからだと前に関定が教えてくれたことがある。今もそうならいいのだが、と思いつつ、ふと張遼はあることに気がついた。

「……でも、それなら、困りましたね」
「困る? 何が?」
「もし私がカメで、関羽さんがウサギなら、私は貴女を起こさずにはいられないでしょうから」

 張遼は至極真面目に言ったのだが、それを聞いた途端、関羽は吹き出した。きっと自分は、わからない、という顔をしていたのだろう、笑いながら関羽が答えてくれた。

「折角の好機なのに、起こしちゃうの? 貴方とかけくらべしているのよ? ウサギの方が足は速いのだから、きっとカメは負けてしまうわよ」
「でも、やっぱり貴女を置いてはいけません。かけくらべの最中であろうと」
「そんなの、もったいないわ。……ふふっ、でも、貴方らしいかもね」