いばらの森
「…王子様は、いばらで囲まれた不思議なお城に、お姫様がずっと眠っているという話を聞いて、行ってみようと思ったの」
「…なんで、行ってみようと思ったのかな？」
「さぁ。なぜかしら。とびきり勇敢だったのかしら？それとも、冒険したくて、うずうずしていたのかもしれないわね」
「ふぅん…。でも、王子様なのに、ちょっとムセキニンじゃないのかな…」
「あら。無責任、て…うちの王子様は手厳しいのねぇ…」
「笑わないでよ…。だって、王子様なら、いっぱいやることあるでしょ？勉強したり、お仕事したり…仕事はしないのかな。王子様の仕事って、よくわからないけど」
「御伽噺の王子様のお仕事は、うちの王子様と違って、どきどきするロマンスを追いかけたり、ドラゴンが守る秘宝を探しに行ったりすることなのよ。大抵の場合」
「…王子様って…楽な仕事なんだね。…それになんか…父さんみたい、それ」
「…。私の小さな王子様。今はわからないかもしれないけど、いつかあなたも、あなたのお姫様を探しに行くのよ。その人はまだ生まれてないかもしれないし、もしかしたら逆に、御伽噺のお姫様みたいに、悪い魔法使いに捕まってあなたが来てくれるのを待っているかもしれない」
「…お母さん？」
「忘れないで。お父さんは、お母さんの王子様だったの。だからきっと、あなたもいつか、誰かの王子様になるんだわ」