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いばらの森

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「…ていうかボクが花嫁修行してどうすんだろ…はー、ほんっと早いところ生身に戻らないと、小さな白い家で可愛い奥さんと子供と犬と猫に囲まれたハッピーライフ計画に支障をきたすよ…」
 ロイに語った時より猫が増えているアルフォンスの幸せ家族計画であった。独り言でもこんなことを言えるだけ、彼も大分落ち着きを取り戻してきているようだった。

 誓いのキス、は額へのキスで何とか容赦してもらい、今は、エドワードは石の上に座り込み、子供達となにやら駆け回っているロイを見ていた。
 要するに子供達の鬼ごっこだかなんだかにロイがつき合わされているというのが真相だが、…世の中は広い。エドワードも「あの」マスタング大佐に遜りもしないとかどころか顎で使うとか裏では言われていたが、上には上がいるということだ。まさか軍の人間が、こうやって子供の遊びに付き合わされるロイを見たら、腰を抜かすのではないだろうか?
「大佐ってば、案外ガキっぽいの…」
 くすりと笑って、エドワードは自分の膝でうとうとしているコリンの頭をそっと撫でた。むにゃ、となにやら寝言を言って、コリンはエドワードに身を擦り寄らせる。少女は笑って、先ほどのストールをコリンに巻き直し、膝から胸に抱き上げた。そうして顔を近づけて、額に薄く唇をつけながら、やさしく声をかける。うんと子供の時分に、こうやってアルフォンスを抱っこしたっけと思いながら。勿論その当時はエドワードも幼児だったわけで、一所懸命に抱き上げて一緒に転がってしまい、アルフォンスを泣かせたこともあったのだけれど。
「ほら、コリン。風邪引くぞ?」
「んぅ…」
 しょうがないな、とエドワードはコリンをしっかり抱き直した。陽射しは暖かいのだが、もう晩秋である。あまり外にいると風邪を引かせてしまうだろう。コリンはまだ小さいのだ。
 とりあえずロイを呼んで、遊びを中断させ、ついでに松葉杖も返させて一度帰ろう。そう思ってエドワードが顔を上げると、いつの間にか鬼ごっこをやめたのか、ロイがこちらを見つめていた。
「大佐?」
 不思議に思い首を傾げれば、ロイに後ろから体当たりの勢いで抱きついた子供が、何事かをこそこそと耳打ちしている。
「………?」
 なんだろう、と思うエドワードは知らない。
『エディおねえちゃん、おかあさんみたいだね』
 子供がそんな風に、ロイに内緒話をしていたことも、ロイがそれに何と答えたのかということも。

 松葉杖をついて歩くエドワードのかわりにコリンを背負って、ロイは、子供達の他愛もない話にいちいち相槌を打ってやっている。
 この姿を見たらヒューズなんて腰を抜かすんじゃないだろうか、とエドワードは思った。リザだって、射撃の的を外してしまうかもしれない。
「……」
 本当のお父さんみたい、エドワードは不意にそう思った。そしてそのまま、想像は膨らんでいく。
 たとえばコリンがロイの子供だったとして。たとえば、…本当にたとえばの話だが、ロイとエドワードが夫婦だったとして…。
 こんな風に、平和に、子供をつれて散歩するような、そんな休日があったとして―――…、
(…おかあさん…)
 エドワードの脳裏に、トリシャの笑顔がよぎる。
 言葉には出来ないけれど、なぜか、トリシャの気持ちがわかるような気がした。その幸せが。
(…母さんも、こんな気持ちだった?)
 コリンを背負ったロイの案外広い背中を見ながら、エドワードは泣き笑いのような顔で微笑んでいた。


 コリンを送り届け、他の子供たちが三々五々散っていくと、ロイはエドワードのためにドアを開けてやり、家に入った。
「ただいまー」
 と、いるはずのアルフォンスからの返事がない。
「アル?」
 よくよく見れば、窓も閉められている。
 なんというかありえないほどにこの辺はのんきな田舎で、リゼンブールもまあそうだったが、…ゲイルの一件が一応は解決したせいもあり、ちょっとした外出では、アルフォンスでさえ家に鍵を閉めなくなっていた。だからドアも開いていたのだ。
「…どこ行ったんだ、あいつ」
 エドワードは首を捻りつつ、とりあえず、あまり歩き回るのも何なのでロッキングチェアに腰を下ろした。
「…彼は立派な主夫だな」
 と、何やらメモを持ってロイが振り向いた。どうやらダイニングテーブルの上に置いてあったらしい。
「は?」
 不思議そうに首を傾げる少女に、ロイは苦笑しながらメモを手渡す。
「…、特売日なのでちょっと買い物に行ってきます。…特売日?」
「そういえば、来る道すがら商店がやけに混んでいた。油か何か、生活雑貨の類の特売日なんじゃないか?」
「…………。我が弟ながら…」
 はぁ、とエドワードは溜息をついた。
「しっかり者のいい弟じゃないか」
「まぁね。…でもなんだか、アルがしっかりしてると、オレが全然頼りにならないみたいじゃないか?」
 不服そうに口を尖らせるエドワードに、ロイは二、三度の瞬きの後破顔した。そして言う。
「そんなこともないだろう?子供達は随分君に懐いてるじゃないか」
「それってあんまり関係ないと思う…子供ってのは、特別妙なことしないかぎり、人懐っこいんだよ。たいていの場合」
「そういうものかい?」
「そいうものデス」
 澄ました調子でエドワードが言うので、ロイは口元を押さえて小さく笑った。
「…。大佐」
「ん?」
「あのな、えっと…」 
 しどろもどろに何か言いたげにしている少女に、ロイは首を傾げる。そしてしばらくの沈黙。
「えっと。…あ!あの、ピアノ!ピアノの鍵!」
「ピアノ…、あぁ! …見つかったのかい?」
 軽く驚いた様子のロイに、うん、とエドワードは頷いた。
「この前出てきた。試してみたら開きそうだったから、多分いいんだと思う。・・・約束だっただろ?鍵出てきたら、教えてくれるって」
「…?猫踏んじゃったを君が弾いてくれる約束なら憶えているが?」
「じゃなくて! …まあいいけどそれはそれで・・・、そうじゃなくて、ほら。あんたも弾いてくれるって。オレの知らない曲…オレに、意味、教えてくれるって。大佐言った」
 頬を薄く染めて言い募る少女に、今度こそロイは目を瞠った。
「…ジュ…なんとか。ってやつ。言っただろ?」
 そんなロイに、焦れたようにエドワードは首を傾げ口を尖らせた。
「…あぁ…確かに。言った…」
「だろ?」
 ロイが思い出したことに満足したのだろう。エドワードはにこりと笑った。ロイはといえば、エドワードが憶えていたことに、驚きが抜けなかった。
 そしてその曲を思い。息が、止まった。
「…鍵はどこだい?」
「えっと、電話の脇」
「わかった。あぁ、立たなくていい」
 松葉杖を引き寄せようとするエドワードを制して、ロイは電話の脇を探す。すぐに鍵は出てきた。記憶にあるのと、寸分違わぬ鍵だった。
 ロイはまず廊下向かいの隣室へ行き、ドアを開け通路を作った。それからダイニングテーブルの椅子を運び、最後に、エドワードを抱き上げる。
「え、ちょ、歩けるけど?」
 焦るエドワードは笑顔ひとつで封じ、ロイは、そのまま彼女をピアノの傍に置いた椅子に座らせた。
「…懐かしいな」
作品名:いばらの森 作家名:スサ