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Bijoux

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「本来なら、今すぐに鋼殿をおかえししなければならないところなのだけれどね…、実は、困ったことに…」
 老人はそこでなぜか言いよどんだ。反応を見るようにアルフォンスを見上げる彼を前に、アルフォンスもまた困ったように首を捻る。何を言おうとしているのかさっぱり見当がつかなくて。
「私も、そのオートマタを見てみたいと思うのだよ」
「…え?」
 アルフォンスは思わず低い声を出してしまった。ここまで言っておきながら、やっぱり彼の企みだったのでは、と思ったからだ。しかし、それでもなお続きを聞こうと思えたのは、単純にこの老人がどうしても悪人には見えなかったからかもしれない。どう見ても人の良さそうなおじいさん、という風情なのだ。善人に見えるのが全部善人ではないということくらいわかっているが、それでもなおそう見えるのだから仕方がない。多少は、エドワードが目覚めないことでアルフォンスも気弱になっていたということは影響しているかもしれないけれど。
「実は、君には事後承諾で申し訳ないのだけれど、マスタング大佐にご相談したんだよ」
「…大佐?」
 なぜそこで大佐が出てくる?
 アルフォンスの疑問はもっともなものだったはずだ。これはもう、本当に白か黒しかない。本当に怪しいか、本当に無関係か、だ。
「これもまたお恥ずかしい話だが…、マスタング大佐に鋼殿のオートマタのことをお聞きして、初めて今回の件に気づいたんだよ。自分の家の中のことにそれまで気づいていなかったなんて、本当に情けない話でなんとお詫びをしたらいいかわからないが…」
「大佐が兄さんの人形の話を?」
 はたと少年は思い出す。そういえば、今回の話をなぜか即断しなかった兄は、何を話したかまでは知らないが、マスタング大佐に相談に行ったのだ。そういえばそうだった、と続けてアルフォンスは思いだしていく。兄が大佐に相談に行って帰ってきたとき、依頼を受けるといったのだ。つまり、確かに大佐は知っていておかしくない。そして、イーストシティの要職にある彼が、シティの資産家を知っていてもやはりおかしくはない。
 なるほど、とアルフォンスの中で話が繋がった。
「…大佐が、兄さんの様子か人形の様子か…それをおじいさ…ブランシュさんに聞いてきたんですか?」
 おじいさん、といいかけてやめたアルフォンスに、ブランシュは瞬きした後嬉しそうに笑った。
「おじいさんでいいよ。そう呼んでもらった方が嬉しい」
「でも…、…はい」
「……。そうなんだ、大佐が声をかけてくれてね、やっとわかったという次第なんだ。君たちご兄弟に随分と迷惑をかけてしまって、すまない」
 頭を下げる老人に、いいですから、とアルフォンスは手を振る。目を覚まさないというのはとても不安だが、見たところ実はエドワードの血色はいいくらいで、普段の不摂生がこれで取り戻せるのではないかと思ってしまう程なのだ。アルフォンスが積極的にこの屋敷の人間を責められない理由の、それがひとつである。他にも、例えば看護師にしてもそれ以外の使用人らしき人々にしても、エドワードの近くに来るときに優しく接してくれたり、花瓶に花を活けてくれたり、すれ違うアルフォンスに何の裏もない挨拶をくれるから、そういう部分で調子が狂ってしまうという理由もある。これがもし、悪意に満ちた場所であったならとっくに何が何でも、どんな手を尽くしてでも出て行っていたはずだ。
 ここにいる人間は、皆が優しい。そしてその優しさに作為がない。そういうことには、鎧の体になってからのアルフォンスは余計に敏くなっていたからわかるのだ。そしてその作為のない優しさをもつということ、それは、今初めて会ったこの屋敷の主人にしても同じだった。むしろ、彼のこの人柄を核として成り立っているからこそ、ここにいる人々がそうなのかもしれない。そういう風に影響しあうということは確かにあるだろう。
「…実はね。おじいさんと大佐は、とっておきの計画を立てたんだ。聞いてくれないかな?」
「…いいですよ。おじいさんと大佐を信じます」
 アルフォンスは膝を折って、車椅子の老人と視線を合わせた。そうすれば、彼は目元をしわくちゃにして笑う。本当に喜んでいる顔に、なんだかほっとする。そしてあらためて、エドワードが目覚めないことに対する不安がどれほどのものだったのかを自覚する。
「ありがとう。…そうだ。君の名前を教えてくれるかな?」
「あ、そうでしたね。ボク、アルフォンスといいます。兄さんの…、鋼の錬金術師の弟です」
「アルフォンス。アルフォンス君か。いい名前だ」
 世辞でも褒められれば誰でも嬉しいものだ。その上彼の言い方には裏がなかったから、余計に。
「…皆はアルって呼びます」
「そうか。…では、アル君。君たちのニューイヤーイヴのご予定は?」
「え?」
 にこにこと問われて、アルフォンスは首を傾げた。どうしてそこでニューイヤーがどうとかいう話になるのだろう。
「おじいさんは、ホテルを一軒、持っているんだ。そこでね、ニューイヤーイヴはカウントダウンをしながら、今作っているアルモニカやオートマタをお披露目しようと思うんだよ」
「はぁ…?」
 思っていたより普通の計画に、アルフォンスはきもち首を傾げた。だが、まだ終わりではないようで、ブランシュはにこにこしながら続けた。
「でも、これは職人やうちの執事たちには内緒だ。わたしだけのけものしたのだから、ちょっとくらい仕返ししてやらんと」
 すました調子で言うのがおかしくて、アルフォンスは思わず笑ってしまった。
「…わたしたちは、祈る神様をどこかに忘れてきてしまったから」
 そんな少年に目を細めたブランシュは、そっと呟くように言った。
「美しい音楽。美しいもの。それはかわりにはならないだろうけれどね、同じようにそれを美しいと思うなら、…わたしたちはいつか、色んなものを受け入れていけると…おじいさんは思うんだね」
「………」
 抽象的な台詞になんと答えたらいいかわからない。
「まあ、単に大騒ぎをする口実をね、作ってしまおうと思って。シティ中に解放してね、ホットワインを配って、…子供用にココアやホットチョコレートも必要かな、ホットミルクと、キャンディ、キャラメル、チョコレートに…あたたかいマフィンにバターも。そういうものを振舞って、皆で新年を祝おうと思って。花火も欲しいかな。…だから君たちも来てくれたらと思ってね、罪滅ぼしと…、やっぱり、楽しそうな顔を見たいからね」
 どうかな、と見上げるブランシュに頷かないというのは、アルフォンスには難しかった。人がいい、というのがこんなにも強いものだとは思わなかった。
「…そうですね。ステキだと思う。兄さんと一緒に、ぜひ。ああ、でも、うちの兄さん、ミルクは飲めないから、ココアを残しておいてあげてください」
「おや、牛乳がだめなのか」
「そう。だから背が伸びないんだと思うんだ…」
「好き嫌いが多いのかね?」
「牛乳くらい…かな?」
「なら大丈夫じゃないかね。小魚や何かもいいというよ」
「小魚…」
 多分言ったら「小」の時点で反応して食べない気がする。あれはなんといえばいいのか、好き嫌いとは微妙に違うような気もするが。
「起きたら、食べさせてみます」
作品名:Bijoux 作家名:スサ