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Bijoux

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「料理人にも献立を研究させるよ」
「お願いします」
 屋敷にきてから、アルフォンスは初めて楽しい気持ちになっていた。既にしてオレンジを帯びてきた冬の陽射しも、今日に限ってはあたたかみを感じるのだった。



 ブランシュはうまくエドワード達と接触できただろうか、とまさかエドワードが眠ったままだとは知らず、ロイは外を見る。
 老人の計画はなかなか愉快なものだった。殺伐としたこの時世だ、たまにはそんなものがあってもいいだろう、とロイもそれなりに乗り気だった。
 ロイにも分担すべきことはあったが、そんなに難しいことではない。計画がうまく運ぶかどうかはほぼブランシュの手腕にかかっている。
 だが、失敗はしないだろう。何となくそんな気がしていた。
 仕事の手を止めて、彼はカレンダーを見る。年末まではあと何回か休みがある。ふと、ブランシュの屋敷の話を切り出したハボックのことを思い出した。
「…よし。あいつに非番は絶対回さないことにしよう」
 邪魔しないでくれと願われると邪魔したくなるのが人情だ。これは決定事項だな、とロイは楽しげに喉を震わせた。

「………!」
 変更が加えられた勤務表を前に、ハボックは言葉もなく悲鳴を上げた。
「ハボック少尉? どうかして?」
 そんな彼に、なぜか勤務表を変更したいと言い出した上司からそれを預かってきた女性が首を傾げる。そんなに突拍子もない変更が加えられていたのだろうか。
「年末、…年末が…っ、あああああああ!」
「? ああ…大佐が、年末は増員をと仰るのよ。何か催しでもあるのかしら」
 ここのところロイが出勤するので必然的に出勤していた女性にとって、今さらそこが非番だろうが出番だろうがどうということはないのか、ハボックのような衝撃は彼女にはなかった。
 しかし、色々と勝手な計画を描いていた彼にとっては大打撃。あれやこれやの予定変更について上司に慰謝料を請求したいくらいのショックだ。
「元気を出して、ハボック少尉。わたしたちは皆出番よ」
 肩をたたかれ、ハボックは撃沈した。
 口は災いの元、と言う言葉を、彼に教えてくれるものはいなかった。
「大佐の鬼、悪魔…!」
 頭を抱えて雄たけびを上げる部下の姿を見たら、その鬼上司はきっと満足げに笑うに違いない。

 ガラス工房の職人は、その後エルリック兄弟と連絡が取れないことを少し不思議に思っていた。しかし居場所はわかっている。人形師と共にブランシュ邸にいるはずだ。それでも、十日、二週間、と経過していけばやはり気にはなる。工房の工程改善への協力に、彼らは割合乗り気であるように思えたので。
 だから、名前は聞いたことはあるが実物と会ったことは勿論ないマスタング大佐が工房を訪れたとき、驚くと同時に、兄弟のことを話していた。何しろ軍の大佐だ。そういったことを相談するのにはこの上ない相手だろう。いくらかは、軍の要職にある人物、という印象とは少し違う、若く気さくそうなロイの雰囲気に気が揺るんだ部分もあっただろうが。
「…ほう。エルリック兄弟と…」
 見学の申し出に首を傾げつつ受けいれた彼は、なんというかとても印象に残る男だった。どこにでもいそうで、どこにもいなさそうな。そんな男だと思いながら錬金術師の兄弟のことを話すと、軽く目を瞠った後彼は何度か頷いた。
「彼らなら大丈夫。連絡をもらっています。ブランシュ氏の屋敷にいます」
「ああ、…そうですよね。…なんとなく気になって、お屋敷に連絡しても取り次いでもらえなかったものですから」
 この時点でもまだ、エドワードが眠らされているということをロイは知らない。だが、ブランシュの話からして、屋敷の主にさえ存在を秘しているくらいだから、外部の連絡が取り次がれないのも不思議なことではない。
「しかし、困りました」
「なにがです?」
 工房の主は嘆息し、冗談めかして肩を竦めた。
「実は、結構楽しみにしていたんです。勝手な話ですが」
「彼に?」
「ええ。うちはガラス屋ですから、自信がないとかそういうことではないんです。でも、なんといいますか…、彼の話を聞いていたら、なんとなく、楽しくて。新しいものが出来るんじゃないかって、そう思って…」
「ガラスが?」
 ええ、と頷いたら、なぜか大佐は思案げに顎を押さえた。おや、と思う主に、そして彼は言ったのだ。
「…彼は恐らく、年末までは連絡が取れないでしょう。もしよかったら…私に少し、協力させてもらえないだろうか」
 工房の主は、思わぬ言葉にぽかんと口を開けてしまった。
「え…? た、大佐が、ですか…?」
「やはり、だめですか」
「い、…いえ、そんなことは、そんなことは! いや、…その、…驚いてしまって…」
 ロイはそこで、人好きのする顔で笑った。誰もが思わず引き込まれてしまうようなそんな顔だ。
「少し、見せてもらっても?」
「え、ええ、ええ、どうぞ! 狭苦しいところですが…」
 主は思い出す。この大佐の二つ名を。
 ――彼の名は焔の錬金術師。

 窯の火、管の先で赤く形を変えるガラス、職人の汗、それらをじっと見つめるロイの目は真剣だった。適当な口実で言っているわけではないことがその顔を見ればわかる。主も信じるしかない。ロイが本気で協力をと言っていることを。ただ、どんな理由があって彼がそんなことを言い出したかはわからないが。
 量産やそれに繋がる話は結局その場では出なかったが、ロイの提案から新しいガラスの話が持ちあがった。イシュヴァールの英雄、という彼の名は知っていたけれど、学者然としたそんなところもあるのだと、こんなにも幅のある人物が自分の街を守っているのかと、主はなんだか誇らしいような、嬉しいような気持ちになったものだった。



 主人に気づかれているとは知らず、執事はオートマタ、及びそれを組み込んだアルモニカの製作に熱意を傾けていた。
 ――元々、オートマタを作る計画は主人のものだった。だが彼は途中でそれを棚上げしてしまった。理由はよくわからない。執事が聞けることでもなかった。
 しかし、貯めこんでいた金を切り崩して、彼は人形師にその計画を続けさせていた。殆ど最後の仕上げが近づきながら、それでもまだ彼の中には迷いがあった。主人の決定に逆らって、勝手に事を続けている自分に対しての迷いが。
 だがその迷いは、ガラス工房でエドワードを見たことで吹っ切れた。元々、人形のモデルは特になかった。自由に製作をさせていたのだ。けれど、気が変わった。少年が、なぜか執事にとっても家族のようだった少女に似ていたから。彼をモデルに作れないかと思った。
 人形師は最初こそ戸惑ったようだったが…、エドワードを見て、彼もまた何か思うところがあったのだろう。執事の考えに賛同し、作業に取り掛かった。
 屋敷の人間も多かれ少なかれ、執事に賛同していた。彼らはみな同じようにブランシュ家に昔から仕えていたから、家族を亡くした主に対して同情的な気持ちが大きい。いっそこのままエドワードが屋敷に住んでくれないかと思う人間までいるくらいだった。そのためには目覚めてもらわないといけないわけだが。
「…あの薬は、そろそろ刻限かな」
作品名:Bijoux 作家名:スサ