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Bijoux

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 ロイは重々しく頷いた。これからどこのパーティに行くのか、という格好に身を包んだ三人は、実は三人とも要するに堅気には見えなかった。案外まともに見えるだろうと思ったハボックがそうではなかったから話題にしたが、ロイだって似たり寄ったりである。
 似合っていないわけではないのだ。全員軍人だから、骨格も姿勢もしっかりしているし。結局雰囲気の問題である。要するに、…爪が隠し切れていないというか。
「まあ、いい。とにかく、行こうか」
 ロイは時計を確かめ、肩をすくめて二人を促した。
 外に出れば空気はぴんと張り詰めて、漆黒の空に金銀の光がちりばめられている。快晴だった。端の方がまだ青を残している空はしんとして、そして美しかった。あと数時間で年が変わるというのは人間の勝手な取り決めで、天体には関わりのないことだけれど、それでも何か特別なものを感じてしまうのは人間の感傷なのだろう。
 肩にショールを羽織った中尉が同じように空を見上げ、呟く。
「雨にならなそうで、よかったです」
 淡々としたその言葉は、もしかしたら彼女一流のジョークだったのかもしれない。ロイはハボックと顔を見合わせ、肩をすくめて小さく苦笑した。パーティはもうすぐ始まる。



 会場に着くと、ロイは部下と別れてまずブランシュを探した。ブランシュはラウンジの奥まった場所にいたが、すぐに見つけられた。今日もまた、大きなあのオルゴールが鳴っている。ただ、今は人が多くて音が少し小さく聞こえていたけれど。
「…大佐!」
 ブランシュの隣に置かれた椅子には、これはロイも想像していなかったことだったのだけれど、エドワードが座っていた。アルフォンスの姿は見当たらない。もしも最初から彼がそばにいたら、すぐにも発見できたのだろう。ということは、もしかしたら会場自体にいないのかもしれない。
「…鋼の、」
 ロイは瞬きした後、我知らず微笑んで大股にそちらに近づいた。ブランシュもまた、ロイに気付いてそちらを振り向く。
「……なんでタキシード…」
 見慣れない格好は、しかしロイによく似合っていた。思うに黒い服とか青い服であればなんでも似合うのかもしれない。
 …だが大事なのはそこではなくて。
 ロイが颯爽と歩いてくる、一歩近づいてくるごとに、エドワードの心臓は落ち着きなく大疾走を始める。しかも髪もいつもと違って少し上げているから、…なんというか、いつもと違いすぎて落ち着かない。
 だいたい反則ではないかといいたい。軍服を着て軍人の中にいるとそこまで目立たないが、ロイはもともと均整の取れた体格をしていて、要するにタキシードなどのフォーマルを着させると異様に似合うのだ。
「ブランシュさん、お招きありがとうございました」
 ロイはふたりの前にたどり着くと、エドワードに目を細めて笑いかけた後、ブランシュに向き直り丁寧に告げた。
「いえ、お忙しい中、お運びくださりありがとうございます。座ったままで失礼」
「いや、お気になさらず」
 会釈しあってから、ロイは再びエドワードの方を振り向いた。椅子に座っている少年に合わせてなのか、すこし腰をかがめて。
 …おかげで顔が近付いてしまって、落ち着かないことこの上ない。
「随分顔色がいいな」
「っ!」
 あまりにも予告なく、普通にロイが指でエドワードの頬をつついた。ロイにしてみたらいつも血色のよろしくない気がする少年がつやつやしているので、思わず幻ではないかと触ってしまったわけだが…本人にしてみたらたまったものではない。
「…? 鋼の!」
 ふら、と椅子の上で傾くので、慌ててロイはエドワードを支えた。そういえば普段の赤いコートや黒い上着を着ていない、とようやくロイは気づいた。やわらかそうな白いセーターに、下に履いているのはいつもと同じズボンとブーツだ。セーターが大きいのか、うもれるようになっているのが何だか雰囲気が違って見える。可愛い、といってもよかった。
「あたたかそうなのを着てるじゃないか」
 椅子に座り直させてやりながら、ロイは言う。
「ま、っまあ、な…」
「? なんだ? 元気がないな、顔色はいいのに…眠いのか」
「あ、あほか! そんなんじゃねえ!」
「鋼殿は昨日まで寝込んでおられたので…まだ本調子ではないのでしょう」
「…え?」
 隣から助け船を出したブランシュに、ロイはぽかんとした顔をする。その後エドワードを見るが、とても昨日まで寝込んでいた人間には見えない。確かに普段より元気がないような気はするが。
「…まあ、元気になったならいいが」
 何となく釈然としないまでも、とりあえず今元気ならいいか、という結論に達し、ロイはブランシュを見た。彼はわかっている、というように一度頷いた。それにロイもまた頷き返す。
「…? 大佐? じーさん?」
 エドワードだけがわからずに首をひねる。
「なんだい?」
「…なんだって、それはこっちの台詞なんだけど。なんか隠してない…?」
「なにも?」
「…そうかなあ…」
 胡散臭そうに顔をしかめるエドワードに、そうだとも、とロイは頷く。
「それでは、私はまたのちほど。鋼の、あまり暴れるんじゃないぞ」
「だっ…誰が!」
 がたん、と思わず椅子を立ちあがった所で、しかしエドワードはやはり足をもつれさせる。頬の血色はいいのに、と思いながらも、再びロイはそんな少年を抱きとめた。
「…!」
 だが抱きとめられたエドワードはたまったものではない。しっかりとしたロイの胸に抱き込まれ、腕に支えられ、なんだか妙な気分になるし落ち着かないし、心臓が耳の近くで脈打っているような気持ちで、動揺してしまう。
「鋼の? 大人しいな…大丈夫か?」
 ロイは普段なら暴れるはずのエドワードが大人しいことが不思議で仕方ないらしく、どうした、なんて覗き込んでくる。近づかなければわからないロイの香りが強くなって、余計に落ち着かない。顔はもう、真っ赤だった。
「……? 熱でもあるのか?」
「な、ないよっ…」
 額に当ててくる手を払って、エドワードはぱっと身を離した。そのままべっと舌を出して走っていってしまう。
「鋼の、転ぶぞ!」
 背中に声をかけるも、鮮やかに光の中へ消えてしまった。まったく、と肩をすくめて、しかし都合はよいとブランシュの方を振り向けば、老人は面白そうな顔をして眺めていた。
「…? なにか?」
「いえ? 仲がおよろしいものだと思って」
「…まあ、そうですね。…私はあの子を可愛いと思っていますよ。向こうはどうだかわかりませんが」
 このロイの台詞に、ブランシュはなぜか目を丸くした。
「ブランシュさん?」
「…わからないとは…、いやはや。私には、あの子は大佐が好きで仕方ないようにしか見えませんでしたがねえ…」
 今度はロイが目を丸くする。
「…鋼のがですか?」
 私を? と念を押してくる男に、ブランシュはとうとう耐えきれない様子で吹きだした。
「まあ、…当事者にはわかりづらいものなのですね」
「…はあ、鋼のが…ですか」
 まだ首を傾げている男がなんだか随分可愛げがあるように思え、ブランシュは目を細めた。
作品名:Bijoux 作家名:スサ