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Bijoux

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 いくつかのことを打ち合わせして、ロイはブランシュのもとを離れた。その間、逃げたエドワードは、逃げた先でリザと遭遇し、目を丸くしていた。
「ちゅ、中尉…?」
「あら、こんばんは。エドワード君」
 にっこりとほほ笑む顔は普段より化粧がしっかりしていて、けれども嫌な感じではなくて…そう、口紅の色が普段より少し濃いように感じたけれど、なんというか…そうなんというか、本当に美人で、思わず見とれてしまった。
 と、同時に、こんな綺麗な人がいつもそばにいるんだな、と思ってしまって、なぜか胸が痛む。…最近ロイのことを考えるとおかしくなる。まるで、これでは…。
「? エドワード君?」
「な、え、なんでもない、…中尉、あの、…すっごく似合うね…!」
「そう?」
 嫣然と笑うのに、また見惚れる。
「ありがとう。エドワード君にそんな風に言ってもらえるなんて嬉しいわ」
「え、だって、あの…うん、だってさ」
 何となく視線を泳がせる少年の手を、瞬きした後中尉はもちあげた。ヒールのせいもあって、いつもよりさらに身長差が開いている。リザの視界には、こちらを見つけたらしい上司の顔が入っている。
「中尉…?」
 きゅっと手を握った後、名残惜しそうに彼女は離した。上司の嫉妬なんて手に余る。
「こわーいお兄さんに睨まれてしまったわ。またあとでね」
「え?」
 何となく視線で促され、エドワードは振り返る。そこには、逃げてきたはずのロイがいた。思わず肩を跳ねさせたら、エドワード君? と不思議そうな声。
「…お、おれっ…、…トイレ!」
 慌てたように声を上げまた走り出したエドワードを見送った後、中尉は上司を振り返る。肩をすくめて手を上げてみせたら、上司は苦笑して頷く。しかし、どこまでわかっているものやら。
 ニューイヤーの瞬間は隣に立たせてあげなくては、と中尉が思ったのには、同情というよりも、このじれったいやりとりを見るのにも段々飽きてきた、という気持ちが勝っていた。
「鋼のは、…また逃げたか」
「何を言って脅かしたんです?」
「何も。…ブランシュ氏によれば…あの子は私が好きで照れて逃げているらしいんだが、どう思う」
 中尉はさすがに目を瞠って上司を見た。彼は何も言わないので、嘘ではないらしい。
「…それは、」
「それは?」
「慧眼、恐るべし、ですね」
「…否定はしないのか?」
 副官がブランシュの言葉を肯定するようなことを言うので、ロイは驚いてしまう。だが彼女は、何を今さら、という顔をして頷く。
「否定する材料がありません」
「…そうか、…鋼のがなあ…」
「大佐はどうなのです。あの子が好きでしょう」
 ロイはまた目を丸くした。そして天井のシャンデリアを見上げ、いくつかの内装を見やり、そして重々しく頷いた。
「…まあ、…端的に言えばそういうことだな」
「…。一応、申し上げておきますが」
「なんだ?」
「仮定してみてください。あの子がたとえば、恋人を紹介したらと。どうですか? ショックですか? それとも祝福できますか?」
「――――――…」
「今の顔、ご自分でご覧になられた方がよろしいと思いますよ」
 言われ、何となく顎をさするロイに、リザはとどめをさす。
「とても間抜けな顔です。現実になる前に行動を起こすのがいいでしょう。…ただ、あの子は未成年だということ、お忘れなく」
「…ああ、…うん」
 好きだとは思っていた。好ましいと。そして誰か他人がエドワードに特別な興味を持つのは面白くないとも思っていた。
 …恐らく、わかってはいた。けれど明らかにしたくなかったのだ。明らかにしてしまったら、どうしたってもっと確かなものを求めずにいられない。そこまでわかっていたから。
「…どうしてくれよう」
 頭を押さえて、ロイは呪うように低い声で言った。こうしてはっきりと認めてしまったら、…止めようがない気がする。
 だが頭を振って意識を切り替えた。今夜の余興は、これからが本番なのだから。

 再びロイから逃げ出して走り込んだら、気付いた時にはもうホテルの外に出ていた。
「さむ…」
 両手で口を覆う。しんしんと冷えていく。
 きらきらと輝く建物を、街を、人を見ながら、エドワードはぼんやりと思う。そういえばこの前ロイを訪ねた時、このホテルの前を通り過ぎたのだった。こんな風に入っていくことがあるとは思わなかった。
「ココア、もらいにいこ」
 こうして外にいたら寒い。ホテルの中は暖かかったからあまり気にしなかったが、やはり外は寒いのだ。けれど寒い時の方が空気がはりつめるから、光が美しく見える。
 あちこちがきらきらと輝くホテルの建物に、エドワードは何となく目を細める。飾りの一部には、あのガラス工房の主が作ったものも使われていると聞いた。こんな風になるんだ、となんとなく胸がいっぱいになる。
 ごーん、と大きな音が鳴った。時報だろうか。
 音源を探してきょろきょろしたら、ホテルの壁に大きな時計がはめこまれているのが見えた。
「…すげ…」
 驚いたのは、時計の表面がきらきらと輝いて見えたことである。下からライトを当てているのかもしれないが、それにしても反射光が見事だった。大きな時計のカバーガラスはフラットに見えるが、もしかしたらカッティングが加えられているのかもしれない。それはもしくは、何か新しい素材であるとか。
「…いいなあ」
 少年はぽつりと呟いた。
 いつもは思っても口には出せないことだった。
「…なにがだい?」
「――っ!」
 ぼうっとして見上げていたら、後ろから声を掛けられて驚いた。
「あ、…あ!」
 振り向けば、そこにいたのはあのガラス工房の主だった。どうして、と思う間に、彼はエドワードの隣に立って時計を見上げていた。
「あのガラス、ある人の試作なんだ。うちでガラスのことを教えたら、こんなのはどうだろう、って作ってきたんだよ」
「…ある人?」
「君の同業者。錬金術師だ」
「…ふうん」
 何となく面白くない気持ちになったのが顔に出てしまったのか、主人は笑った。
「しかたないよ。相手は焔の錬金術師だ。火は専門だろうし」
「…え…」
 口をとがらせていたエドワードだったが、この言葉で今度は目を丸くした。
 ――ロイが?
「すごいんだね。錬金術師って」
 素直な賞賛は胸に響く。エドワードは誇らしいのと嬉しいのとで胸が詰まってしまう。ロイがほめられるのが、自分の職がほめられるのが、嬉しい。
「…うん。大佐は、すごいんだ」
 そうっと、大事な秘密を打ち明けるように言った少年に、工房の主は笑みを浮かべて頷く。
「そうだね、俺もそう思う。あの人はすごい人だな。あんなに偉い人が、あんなに真剣に俺みたいな職人の話を聞いてくれるなんて、正直思わなかった」
「…大佐は、そういう人なんだ」
 主人は明るく笑った。
「そんな人がこの街にいてくれてよかったって思うよ。…それにしても、君、随分あの人のこと好きなんだね」
「……っ!」
「…? どうしたんだ?」
 好きにはいろんな意味がある、ということを、怪訝そうな主人の顔を見ていてエドワードは思い出した。もう遅いかもしれないが。
「…う…、うん…」
作品名:Bijoux 作家名:スサ