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Bijoux

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 繰り返せば少しだけエドワードが視線をあげた。巣穴から顔をのぞかせるリスのような顔だった。頭をなでたら怒るだろうかと思いながら、ロイはさらに重ねる。
「…言っておくがね。君がここに…イーストに寄ってくれるのを、私はいつも楽しみにしてるんだ」
 とっておきの秘密を打ち明けてやれば、エドワードが本当に驚いた顔で目を丸くした。うつむいていたのも忘れてしまっているようにロイを真っ正面から見ている。
「見に行くか、だって? 行くに決まっているさ。それどころか、そのオートマタが一番よく見える席を特等席にして、誰にも座らせないように予約してしまう」
「……えぇ?」
 ぽかんとした少年に、ロイは楽しげに笑う。
「人形狂いのマスタング大佐、なんて呼ばれてしまうかもしれないな」
「………、あんた、…ちょっとバカ?」
「失敬だなぁ、君がかわいいことを聞くから正直に答えたのに」
「か…、」
 エドワードは丸くしていた目をさらに丸くして言葉を失った。
 今ならいいか、とロイは手を伸ばす。頭をなでたらびっくりしたのだろう、エドワードは大きく肩を跳ねさせたけれど、驚きが勝ちすぎているのかなにも言わないし払いのけもしない。
 ロイにしてみたらこれは、だいぶ思い切った行動だったりする。ヒューズやハボックだったら気軽にできることかもしれないが、ロイにしてみたら、誰かの頭を撫でるなんてちょっと行動様式にないのだ。
「…君がそんなことを聞くなんて、私がどれだけ驚いているか。つまり、見に来てほしいということだろう?」
「……」
 エドワードは唇をすりあわせてもごもごしている。何かを言おうとしているような、けれども何も言えないでいるというような。
「そう思ってくれることが嬉しい。…君がいつも近くにいたら、…近くにいるような気持ちになったら、楽しいしね」
「…。楽しい?」
「ああ。セントラルのひひじじいどものいやな電話があった時も、面倒な命令がくだされた時も、後味の悪い事件があった時でも。なんとなく楽しくなる。忘れられる気がするな」
「…。なんで?」
 もごもごと首を傾げるのに笑って、ロイはつとめて軽い調子で教えてやる。
「大人はね、君が思うより窮屈で退屈なんだよ。毎日が」
「…オレはガキじゃねえ」
 むっとしたようにとがらせる口が幼くて、ロイはつい笑ってしまいそうになった。けれどもおさえて、そうは言ってないよ、とやんわり告げる。
「つまり、私の毎日の生活は無味乾燥だっていう話さ。そこに君がやってくると一気にいろんなことが華やかになる。世界にはこんなに色が溢れていたんだなと思うんだ」
「…なんか、恥ずかしいこと言ってない、か…大佐」
 微妙な顔をする少年を、ロイは明るく笑い飛ばした。
「まったく、これっぽっちも。何しろ、大人になるとあんまり恥ずかしいと思わなくなるんだよ、そういうことを」
「………」
 エドワードはやっぱり微妙な顔をして、ぽつりと言った。
「…たぶん、それは大佐だけじゃないかと思う…」

 そんなに豪勢な食事とは行かなかったけれど、全部を平らげ、スープをおかわりしたのだから、食事はエドワードの口にあったのだろう。せめて皿を洗う、という少年を押しとどめて洗い物も引き受けながら、ロイは何となく笑みが浮かんでくるのをとめられなかった。
 エドワードの相談事はあれでほぼ終わりだったらしく、食べたら後は、特に話すこともなかった。正確に言えばロイはまだ少し何かを話したかったし、もしもエドワードが話してくれるというのなら、ただそれを聞いているだけでもよかった。しかし、あれだけを聞くのにあそこまで照れる少年にそれは酷だったようで、洗い物もいいよと断ると、「じゃ、じゃあ、帰る…」とぼそぼそ言って、ほとんど飛び出すようにロイの家を出て行った。
 送ろう、と飛び出しかけたロイを両手で押しとどめて、「いい」と小さな声で断る少年の耳は赤かった。顔は下を向いていたのでよくわからなかったけれど、きっと顔も真っ赤だったのではないだろうか。
「見たかったな…」
 呟いて目を細める。
 スプーンをくわえて小さくなっていた姿はあんまり子供っぽくて、可愛くて、何と言うのか…癒されたというか。ひどく満ち足りた気持ちになったとでもいえばいいのか。
 水道を止めながら、ロイは思い出すでもなく思い浮かべる。今日エドワードがやってきてからのことを。
 エドワードに似たオートマタ、と聞いたときには驚いたが、本人はどう思うかわからないが、ロイは少し見てみたいと思った。腕の確かな職人の手によれば、かなり精巧なものが出来上がるのではないだろうか。話の背景を抜きにして考えれば、単純に見てみたいとロイは思っていたのだ。
 だが、とはいえ、それが他人によって企図され作られ、そして不特定多数の見るものとなる、というのは、若干微妙なのも事実である。
「…ブランシュか」
 ロイは手を拭きながらぽつりと呟き、エドワードが去った部屋、彼がいたから温かくした部屋の真ん中、ソファーに腰を下ろした。
 エドワードが出した名前の主は東部でも指折りの資産家で(勿論セントラルに行けばもっと桁の違う金持ちもいるわけだがそれはそれとして)、ロイも知っていた。特に接点がないので、巷間に流布している以上の風説は知らないが、問題らしき問題は聞いたことがない。興した事業も皆まっとうなものだ。聞いたことがある話なんていったら、誰か家族を亡くしたとかそういったもので…。
 しかし、いくら風評として怪しくないからと言って本当に怪しくないかといったら、そう単純に決めていいものではないだろう。とりあえず少し気にしておいてみるか、と思い、彼は幸せそうな溜息を一つ。
 あんな時代が自分にあったのかどうか、もう思いだすことができない。あったのかもしれないし、なかったのかもしれない。わき目もふらず、ロイだけを見て、ロイだけに彼は言った。その、全部が全部真心でできていたであろう言葉を。
「君のことなんか、…いつでも思いだすにきまってるのにな」
 もう一度ついた溜息に紛れた独り言は、幸福感に満ちて響いた。


 ロイの家を飛び出してから、エドワードは自分がどうやって宿へ帰ったのかいまいち思いだせなかった。それでもたどり着いたのだからちゃんと帰っては来られたわけだが、途中の記憶が曖昧だったことは否定できない。つまり、それだけ彼は限界だったということだろう。いっぱいいっぱい、という状態だ。
「兄さん、帰ってきたんだ。大佐のとこ泊めてもらうのかと思った」
 そしてそんな兄を迎えた弟は、ごく自然な調子でそう口にする。水をあおったままエドワードがむせたのは、確実にアルフォンスの責任だろう。だがしかし、タオルを出しながら「なに?」と首をひねるアルフォンスはそんなことは思わない。
「な…なっ、…」
「?」
 動揺のあまりどもるエドワードに、アルフォンスはひたすら不思議そうに問いかけてきた。
「なんでそんなに挙動不審なの。別にボク、そこまでおかしなことは言ってないと思うけど」
「い、言ってるよ! な、な、…んでっ、オレがあいつの家に泊まるとか…、意味わかんねっ…!」
「………」
「…なんだよ」
作品名:Bijoux 作家名:スサ