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Bijoux

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 なぜか黙り込んでしまったアルフォンスが、表情などは勿論わからないから確証はないにしてもどこかあきれているように感じたので、エドワードも少しだけむっとしたような顔を作って問い詰める。
「…べつに?」
「おまえ、なんか、…別にって風じゃねえぞ」
「そうかなあ」
「…言いたい事があるなら言えばいいじゃねえか」
 口を尖らせ言ったエドワードに、アルフォンスは「ええー?」と首を傾げる。弟はいえちょっとむっとする、と感じながらもとりあえず怒るのも格好悪いか、とぐっと飲み込んだエドワードだったが、そんな余裕はそうそう続かなかった。
「だって、別に、仕事っていうか軍の話だったり込み入ってたりしたら慌てて帰ってこなくてもイーストだから居場所もわかってるし、大佐の家にずっといたからってそんなに困らないしねえ…」
「…?! なんで困らないんだよ」
「逆に聞くけどなんで困るんだよ」
「えっ、だって、…おかしいだろ」
「なんで?」
「なんでって…、え、だって、…え?」
 アルフォンスはそれ以上は何も答えず、はあ、と大きく溜息をついた。エドワードは「な、なんだよ」と薄気味悪そうに肩を竦める。
「兄さん…あのね」
「…なんだよ」
「まあ…座ろうか」
 弟に着席を勧められ、複雑な心境でエドワードはベッドに腰を下ろした。アルフォンスも向かいのベッドに座る。
「あのね。…たとえば兄さんが姉さんだったら、ボクもちょっと、どうかなあって言うかもしれない。でも、男が男の家に泊まって何が問題なのかボクよくわからないんだけど…しかも大佐だったらボクらの事情も知ってるし、むしろ、相談事があるんだってって出て行ったらもっと時間かかるかもって思ったくらいで」
「……おう」
 膝頭でぎゅっと手を固めるエドワードは、内心だらだらと冷や汗をかいていた。確かに、弟の言うことは正しい。動揺するエドワードがむしろおかしいのだ。世間の常識に当てはめて考えるなら。
「兄さん」
「…うん?」
「兄さんて、大佐のことほんと好きなんだね」
「………うぇっ?!」
 あまりにもあまりなことを言われ、エドワードは慌てて顔を上げた。
「まあ、それはおいといて」
「おい…、おいっ!?」
 目を白黒させて食って掛かるものの、はいはい、とエドワードはいなされてしまう。そして弟は、それにしても、と話題をあっさり変えてくれた。
「で、相談事はうまくいったわけ?」
 一緒に旅をしているアルフォンスへの隠し事など、片手で足りるほどしかない。であるからして、勿論例の工房からの依頼というのはアルフォンスも知る所である。断るだろうと思ったエドワードがなぜか悩んでいる風だったことも知っている。
「…うまくいったっていうか…、まあ…そうかな」
「大佐はなんて? 受けたらって? 断ったらって?」
「………」
「なに?」
 微妙な顔で即答を避けるエドワードに、アルフォンスは首をひねった。
「大佐は…」
 エドワードは爪先を見るようにしながら言い淀む。相談は確かにした。だが、どちらかというと、あれはエドワードの希望について述べて、ロイの返答を待った、というのが正しい。つまり相談の形式ではない。イエスがほしくて聞いた問いにイエスをもらうかどうか、だったのだし。
「大佐は?」
「…モデルって言った時は、あやしくないのかって疑ってたみたいだけど、…別にブランシュさんて人はそんなに怪しくないみたいだし、止められなかった」
「へえ…じゃあ、ほんとにただの依頼なんだねえ」
「そう、だな」
 もしも、エドワードに似た人形がロイの近くにあったら、とエドワードは聞いた。それに彼は、もしもそんなものがあったのならよく見える席を予約してまで観に行く、と答えてくれた。
 少年はきゅっと膝を握りしめる。この気持ちを何と呼ぶのかわからない。けれど、そわそわして落ち着かないのに飛び上がりたいくらい嬉しい気持ちだった。
「で? じゃあ、受けることにしたの、モデルの依頼」
「……うん」
「……へえ」
「…アルは反対なのか?」
「反対っていうことはないけど、あらためて不思議だなあって思ってさ」
「なにが」
「兄さんをモデルにって…ちょっと特殊な趣味なんじゃないかなあって思って」
「…どういう意味だよ」
「そのままの意味だけど」
 兄弟はしばし無言で探り合う。だが、表情が出てしまう分これはエドワードに不利な勝負だった。
「…。どっちでもいい。とにかく、…ちょうどネタも切れてた所だし、宿代も浮くしな」
「まあねえ、それは同感」
 毎日どこかに泊まっているわけだから、知り合いの家にでも泊まらない限りは金がかかっている。エドワードには潤沢な資金が約束されてはいたけれど、それでも出費は抑えられればそれに越したことはない。モデルの話を引き受ければその間の衣食住は保障してくれるというのが先方の申し出だったから、ちょうどネタ切れだった二人にしてみれば渡りに船といったところ。
 …ただ、そんな状況をもしも某大佐が知っていたのなら、それなら何もうちに泊まればいいじゃないか、と言ったであろうことを、エドワードだけが気づいていなかった。

 思い立ったら即実行、のエルリック兄弟は、そんなわけで翌朝すぐに件のクリスタルガラスの工房へ向かった。年末年始には大きな催しが供されることが多い。それに伴い大口の注文を受けたとかで、工房は朝から大忙しだった。手工業であり、かつ熟練の技術が必要であることから、どうしても一日の生産量は限られてしまう。朝から晩まで稼働させても、一朝一夕に生産能力は上がらない。エドワードが錬金術師であることを知った工房の主が声をかけてきたのは、むろん、もっと美しいクリスタルガラスを研究するためというのが大きいが(鉱物の組成は難しいものだ)、生産能力改善のアイディアを求めて、という部分もある。つまり、錬金術を導入することでどこかの部分で工程改善ができないか、工数削減が可能か、という切実な案件だ。美しさ、独自性という付加価値でもって今はこの工房がそれなりの地位と実績を納めていたとしても、技術は日進月歩。価格や生産量の勝負に持ち込まれたらなかなかに厳しいものがある。しかも、品質を損なうことなく、だ。
 そんな実情を聞きながら、ふと、錬金術師もこういった分野に職を求めることができるのだな、とエドワードは思った。将来、というまだ曖昧なことをふっと考えた瞬間だった。たとえば五年後、十年後、自分は何をしているのだろうか、というような。
「きれいだねえ」
 エドワードの隣、巨体を縮こまらせてアルフォンスは感心したように言う。確かにその視線の先にあるクリスタルガラスのワイングラスは非常に美しかった。
「うちの主力シリーズだよ。ありがとう」
 エドワードをはさんで反対から、工房のまだ若い主人が嬉しそうに答える。
「注文はグラスが多いのか?」
「うーん、そうだね、安定して注文があるのはそうかな。やっぱりどうしても、消耗品になってしまうから」
 確かに気をつけていてもガラスだ。不注意で割ってしまうことは大いに考えられる。グラスであれば、常にではないまでも、やはり飾っておかずに使うものだろうし。
作品名:Bijoux 作家名:スサ