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たかむらかずとし
たかむらかずとし
novelistID. 16271
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GO! GO! YOUNGSTER

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 元々親父は組には興味がなかった。周りに勝手にやらせてたようなもんだ。そこに来て、くいなのことがあった。飽きたっていや、親父は飽きてたんだ。組の、組織の面倒さに。友達の娘一人守れねえ組織の脆弱さに。
 それから、それまで組とやりあってたよその連中やらの有象無象が親父の周りだけじゃなく、おれの周りにもうろちょろしだした。その頃にはおれは大概の大人より剣も喧嘩も強かったから大した問題じゃなかった。おれにとってはな。
 でも友達は違う。道場の仲間も、学校の連中も。
 組は解散しても、組員の残りはまだうちにいる。よその組の連中も親父の首を取りゃ名を挙げられるってんで今でもうろうろしてる。
 …おれはもう二度とくいなの二の舞は見たくねェんだ。
 うちの稼業のせいで、親父のせいで、おれのせいで誰かが傷つくのも死ぬのも見たくねェ。
 だからルフィ。


「───…もうシモツキには来るな」
 ゾロはそう言って長い話を終えた。
 ルフィは俯いて細い膝を睨んでいた。エースは黙って手酌で梅酒を舐めてゾロを見つめた。
 日の暮れたものの文目も分からぬような縁側にゾロの鮮やかな翠の目だけが光っていた。
 エースは立ち上がって座敷の電灯をつけた。ぱっと蛍光灯の白んだ光が差してゾロが眩しげに眼を細めた。
 ルフィが言った。
「…ゾロはずっとそうやってきたのか」
「そうだ」
「そのくいなっていう子が死んでから、ずっと友達作んないで、一人で」
「ああ」
「───…おれは強いから大丈夫だ」
「駄目だ」
「ゾロだって見ただろ、それにおれ頑丈だ。トラックに撥ねられても擦り傷しかつかなかった」
「そりゃァたまたまだ」
「自転車で麓まで行ってそれ担いで富士山登ったことだってあるぞ」
「そりゃアホだな」
「…おれは死なねェ」
「そんなの、誰にも分からねェだろう」
 ゾロは暗い目をした。
「誰にも分からねェんだよ、ルフィ」
 結局ゾロはそのまま帰って行った。ルフィはゾロの「シモツキに来るな」という言葉に決して頷かなかったが、友達になってくれとももう言わなかった。
 ルフィはゾロのいなくなった縁側でその後ずっと庭を睨んでいた。エースはその隣でただ静かに酒を飲んでいた。
 夜半過ぎ、ルフィは庭を睨んだままぽつりと言った。
「───エースの父ちゃんはさ」
「…おう」
「……いや、いいや。…おれの父ちゃんは、」
 そしてまたルフィは言葉を切った。冷たい風が吹いてエースは微かに身震いをした。
「ルフィ?」 
 覗き込むとルフィは胡座をかいて背中を丸めた格好のまま瞼を落としていた。浅い寝息にエースは脱力してひっくり返った。
 板敷きの廊下の冷えた堅さを頭の後ろに感じながらエースは夜空を見上げた。あちらよりずっと星の少ない空にかつてルフィが勝手に星座を作った星々が瞬いている。
 ずっと昔、ルフィと、それから今はもうここにいないもう一人の兄弟とこの空を眺めていたときから、ルフィが父親のことを口にしたことはほとんどなかった。エースの父親のことも、ルフィ自身の父親のことも。じいちゃんと呼んではいたがガープは親のようなものだったし、特にルフィにとってはそれ以上にシャンクスが父親代わりだった。
 ルフィの父親は行方知れずでエースの父親は故人だったが共通していたのは二人ともまっとうな人間ではなかったというところだ。ルフィはそのことを全く気にする様子を見せず、エースはそのことにずっと苦しんできた。エースが暗い目をする度に「馬鹿だな、エースはエースだろ」と屈託なく笑った弟が今、物心ついて初めて自分の父親のことを口にした。
「…あいつがルフィを変えるのか……」
 エースは一等明るく瞬く星を見つめて呟いた。その輪郭がじわりと滲む。
 愛する弟の兄離れは、思ったよりずっと寂しいものだった。

作品名:GO! GO! YOUNGSTER 作家名:たかむらかずとし