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たかむらかずとし
たかむらかずとし
novelistID. 16271
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GO! GO! YOUNGSTER

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 その日の元鷹の目組の面々のことを考えると、エースは今でも笑い出したくなる。
 はじまりはきっとこうだろう。良く晴れた土曜日、朝食も終わって男どもはのんびりと雑事を片付けていたに違いない。主たるゾロの父親は新聞を読みながら茶でも飲んでいたか、のんびりと剣を振っていたかもしれない。ゾロは当然まだ寝ていたろう。
 そこへ突然調子っぱずれの声が響く。
「たーのーもーっっ!!」
「ルフィ、それじゃ時代劇だ」
「ああそうか。…ごめんくださーい!!」
「…それもなんか違う気がするなァ」
 首を傾げたエースは自転車の荷台に腰掛けて仁王立ちする弟を眺めた。今日のタンクトップは胸に大きく「多勢に無勢」、背中に小さく「一騎当千」。シャツを羽織ってハーフ丈のカーゴパンツにいつものブーツ、テンガロンも勿論頭の上だ。ルフィはフロントにボタンプリントのついた真っ赤なVネックのTシャツにデニムのハーフパンツ、いつも庭で履いているゴム草履を引っ掛けて、宝物の麦わら帽子を被っている。
 あのシャンクスに貰った帽子を持ち出したってことは、まァ本気だよなァとエースは自分の膝に頬杖をついて笑った。
 元鷹の目組、つまりゾロの実家はいかにもと言った風情の純和風の邸宅だった。監視カメラがそこここにレンズを光らせている。エースはそれらに向かって無邪気に手を振った。
 いくら叫んでも応答のない邸内に向かってとうとうゾロの名前を呼び出した頃だった。
「くらァァァ! 何の用だガキどもァァァ!」    
「ここが鷹の目組と知っての狼藉かコラァァ!」
 ばたんと通用門を派手に押し開けて飛び出してきたのはサングラスの男と短パンの男だった。ルフィが目を丸くした。
「うわっあのおっさん下パンツしか履いてねえ! 変態だエース変態だっ」
「違わァ! ファッションだてめェ舐めてんのか! パンツはパンツで履いとるわ! なあジョニー!」
 短パンの男が目を剥いて怒鳴った。サングラスの男がはっと短パンを見た。
「……!!! …!! あ、ああそうさ相棒…! 全く分かってねえなあいつは…っ!」
「…そっちのおっさんもパンツだと思ってたんじゃねえか」
 エースが呆れて呟くとルフィが手を打ってあっひゃっひゃと笑った。
「面白ェなァおっさんたち! なあおい、ゾロに会わせてくれよ、おれゾロに会いにきたんだ」
「…あァ?! 坊ちゃんにィ?」
 ジョニーというらしいサングラスの男が眉間に皺を寄せて言った。二人は顔を見合わせるとすたすたと門の前に移動してぴたっと止まった。顎に手を当て見事に対称のポーズをとって兄弟を睨む。ルフィがなんだあいつらおもしれえなと眼を輝かせて喜んだ。
「いいかガキども。お前らが坊ちゃんに何の用かは知らねェが…」
「ここは元鷹の目組! てめェらみたいなガキがほいほい遊びに来るようなところじゃねぇ! さっさと帰ェんな!」
 ところがルフィもエースも全く聞いていなかった。ルフィは二人のポーズと息のあった啖呵に大ウケしていたし、エースはエースで坊ちゃんと呼ばれたのが恐らくゾロであることに大ウケしていた。
「うおーすげェ! 芸人みてェ!」
「ぼ、坊ちゃん…っっ! あのロロノアくんが坊ちゃん…っ!! やべェ腹いてェ…っ」
 大喜びするルフィとひいひい笑い続けるエースに男たちが激高した。
「何がおかしいテメエこの野郎! 帰らねえってんならこっちにもやりようってもんがあらァ! 痛い目見てから泣くんじゃねーぞガキども! ヨサク!」
 おうよと威勢良く返事をしてヨサクと呼ばれた短パンの男が通用門の陰から木刀を二本取り出した。それぞれが珍妙な格好に剣を構える。
 それを見てルフィが好戦的に笑った。
「お、やるかおっさん。ゾロんちの奴ならちょっとは強いんだろ? 楽しみだ!」
 エースはあちゃあと額に手を当てた。また始まった。いきり立つヨサクとジョニーはもうすっかりやる気のようだしルフィは当然やる気満々だ。
 十分保てばいいが。


「か…! …紙一重か……!」
 どさっとジョニーがヨサクの上に倒れた。ルフィはべーと舌を出して呆れた顔をしている。エースも似たようなものだった。
「なんだよ全然だめじゃんかおっさんたち」
「三分保たなかったなァ…」
 鷹の目組(元)はこれでいいのだろうか。エースが首を傾げている間に門の向こうからどたばたと騒がしい足音が近づいてきた。通用門からどっと顔を出したのは屈強な男たちだった。
「うおっヨサク! ジョニー! どうしたってんだおめェら!」
「ひでェ…!!」
 慌てて折り重なって積まれた二人に駆け寄って口々に声を掛けている。
「あ、わりィおれだおれ。なあそれよりゾロ呼んでくれよ、おれゾロに会いてェ」
 ルフィが要らないことを言うもので男たちはぎっと物凄い眼をして兄弟を振り返った。
「あァ?!」
「おめェらどういうことだ!」
 わっと男たちが兄弟を囲む。ルフィは平然として言った。
「だって通してくんねェんだもんよ。いいからそこどいてくれ。じゃなきゃゾロ呼んでくれ」
「ゾロ…って坊ちゃんに何の用だ」
「ぶっ…! なああんたら、頼むからその坊ちゃんっての止めてくれねェか…! おれ笑い死んじまう…っ」
 ゾロゾロゾロゾロと繰り返すルフィと痙攣するように笑い続けるエースにとうとう男たちの短い導火線に火がついたようだった。胸ぐらを掴まれたエースはそれでもまだ笑っていたが、ルフィが同じようにされ、剣呑な眼で相手を睨みつけるのを見て手を挙げた。
「あー、ルフィ! いい加減我慢ってもんを覚えろ。暴れたってキリがねェぞ」
 するとルフィがぶすくれた顔でエースを振り返った。だってどうすりゃいいんだとその顔に書いてある。エースは悪戯っぽく笑って目で門の屋根を示した。
「…おお!」
 ルフィは顔を輝かせてすげーなエースと小さく叫ぶと、流れるような動作で胸ぐらを掴んでいた男の腕をひねって投げた。ぎゃっと声が上がった時にはもう男たちの向こう側、門のすぐ前まで抜け出している。エースもあっさりその横に並んだ。
 男たちが二人に気付いた時にはもう遅い。ルフィは猿のように門の鋲やら横木を使ってするすると屋根まで登り、エースはエースでひょいひょいと跳ね上がるようにして屋根に立っていた。
「何してくれてんだァァ!!!」
 慌てふためく男たちをよそに、D兄弟は元鷹の目組の四脚門の屋根に堂々と仁王立ちした。
 ルフィがすうと大きく息を吸った。
 耳鳴りのするような大音声が辺りに響き渡った。



「ゾーーーーーーローーーーーーっっ!!!」



 塞いでいても耳鳴りがした。その耳鳴りの向こうから屋敷の中で響くどんがらがっしゃんという派手な破壊音がする。余韻を引いてルフィの声が消える頃、屋敷の中から愕然とした顔のゾロが飛び出してきた。その後ろに続く悠然とした態の男がゾロの父親だろう。あんま似てねえなとエースは耳を塞いだ手を外して思った。
「ルフィ?!」
 ゾロがあんぐり口を開けて二人を見上げた。エースはよっ、と笑って片手を上げた。ルフィは腕を組んだ仁王立ちでいっそ厳しいような目をしてゾロを見つめた。
 惚けていたゾロは一瞬後には般若のような形相になった。
「てめェルフィ!! おれの話を…」
作品名:GO! GO! YOUNGSTER 作家名:たかむらかずとし