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たかむらかずとし
たかむらかずとし
novelistID. 16271
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GO! GO! YOUNGSTER

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 火曜日は平日だったがルフィは当然のように学校をサボった。だって絶対ゾロもさぼってる、というのがルフィの言い分だった。
「それにな、おれ分かってきたんだ。あいつ昼寝好きで方向音痴だ」
「なんだそりゃ」
 ルフィは指折り数えてゾロの奇行をあげ連ねる。一つ、朝は絶対に十時より前には見かけないこと。一つ、おそらく昼飯を腹に納めてから登校しようとしたのだろうが、ハンバーガーを食べ終わるとそのままベンチで夕方まで寝ていたこと。一つ、CD屋に入ったら最後、同じ出口から出てきたためしがないこと。一つ、珍しく早朝に見かけたと思ったら昨日と全く同じ格好をしていたこと。
「おれより方向音痴だぞあいつ」
「そりゃあすげえな」
 エースは唸った。自分も大概よく寝る方だし方向感覚もそんなにいいとは思っていないが、なかなかどうしてロロノア・ゾロも大したものだ。
 だから今日も絶対ゾロは駅からシモツキ高校までの間のどっかにいる、と断言してルフィは出て行った。エース自身もまあそんなに真面目に高校に通っていた記憶はないし、サボること自体についてはどうこう言うつもりもないのだが、ルフィがここまで入れ込んでいて、その上全く手応えがないことがひっかかっていた。
 ルフィのこれはまるっきりの独りよがりだ。単なるルフィの我が侭と言っていい。今回はそうじゃなくしたいというのがルフィの言だが、今までのところ許可を求めているだけでやっていることはいつもと全く変わりない。ゾロが応えてくれれば何の問題もないがあの青年がそう簡単に頷くとも思えなかった。ルフィは人の気持ちを計ることが苦手だ。波長の合う人間のことなら何でも分かってしまうくせにそうでない人間の考えることはたとえ言葉にされたって理解できない。エースは少々人に対して警戒心の強すぎるきらいのある己とは違うルフィのそんなところを、弟の特長と思って気に入っていたが初対面の人間には理解し難いだろう。十四の頃のルフィの問題のいくつかはそんなところからも生まれていた。
 エースはルフィのいない部屋の中でぼんやり煎餅を齧りながらそろそろかねとひとりごちた。
「ロロノアくん、ルフィと気は合いそうだがなァ」
 このままではちょっとばかり、難しいかもしれない。


 水曜日、エースがゾロ探しに行くルフィについていくと告げると、ルフィは顔を輝かせた。
「エースもゾロ説得してくれんのか!」
「いやそれはしねェ。お前の勝負だ、テメエ一人の力で存分にやれ。おれは言うなれば審判だ。またゾロにも会いてェしな」
 ルフィはおうと答えて嬉しそうに笑った。今日はどこにいるかな、駅前か公園かその辺の道っ端かとわくわくした様子で靴ひもを締める。ワークブーツに足を突っ込みエースはテンガロンをぎゅっと下げた。いつものように終わってくれればいいが。
 シモツキまで自転車をとばしたのはルフィだった。エースはその後ろで狭い荷台に尻を据えて危なっかしい弟の運転を楽しんだ。こいつは多分車も人も見ていない。動体視力だけで障害物を避けながら進むルフィの自転車は中々刺激的だ。エースはテンガロンを押さえてゲラゲラ笑った。
 ルフィは自転車を漕ぎながら今日は秘密兵器があると宣言した。エースは前日の夜机に向かってうんうん言っているルフィを見ていたので大体想像はついていたがそりゃ楽しみだと返した。実際、エースはそれを随分楽しみにしていた。
 ゾロはその日は三人が初めて会った路地にいた。今度は男たちはいない。壁に背を預けてペットボトルを傾けていたのをルフィがすぐに見つけた。
「ゾロ!!」
「あ"?!」
 また出やがったこいつという顔をする。エースは荷台から飛び降りるとようと軽く手を挙げて会釈した。ゾロがげんなりした顔をしてあんたもいたのかと言う。
「エースは審判だ!」
「なんのだ。……いいから帰れ」
「嫌だ! 友達になってくれ!」
「なんべん言わす気だてめェは! 断る!」
 ゾロが歯をむいて怒鳴った。ルフィは全く堪えた様子もなくしししと笑って返す。
「嫌だ! お前が断ることをおれは断る!」
「ふざけたこと抜かしてんじゃねェ! おいエース、いいからこいつ連れて帰れ。弟の面倒くらいちゃんと見てろ、迷惑だ」
「お、ロロノアくんおれの名前覚えててくれたのか。ありがとう」
 ぺこりと一礼するとなんべん聞かされたと思ってんだとゾロが苦い顔をした。ルフィはその間もなあなあとゾロの袖を引き続ける。
「だから何度も言わせるな。おれはお前の友達にゃならねえ。絶対にだ。───おれは誰の友達にもならねェ。諦めろ。んで二度と来んな」
「おれはお前と友達になりてェんだ」
「聞いてんのかこのアホ!」
 ゾロがルフィの耳をつかみあげた。いてェいてェと騒ぐがそのままぶん投げる。エースが受け止めてやるとルフィは自分でくるんと一回転して地面に降りた。
「なんだよケチ! ケチゾロ!」
 いーっと歯を剥き出しにして悪態をつく。これで本当に友達になってほしいと思っているのかとエースは呆れた。ゾロはしっしと追い払う素振りで手を振る。
「ケチで結構。さっさと帰れ」
「帰らねェ!! なんだよ、友達になってほしいだけなんだよおれは。なんで駄目なんだ。理由を言わねえとおれは帰らねェ! ゾロんちまでついてってやる!」
 するとゾロの表情が凍った。これはまずいとエースがルフィを止める前にルフィは叫んでしまっていた。
「おれは! ゾロと一緒にいたいんだ!!」
 ごっと鈍い音がした。派手な音を立ててルフィが吹き飛んだのをエースは咄嗟に受け止めた。熱い身体が震えていた。ゾロの拳も震えていた。ルフィを殴り飛ばしたゾロは音がするほど歯を噛み締めて絞り出すように言った。
「人の事情も知らねェで…! 勝手を言うな!! 二度と顔出すんじゃねえ!!」
 空気が震えるようだった。ゾロは踵を返し荒い足音を立てて去っていった。エースは腕の中のルフィの肩に力が入るのを感じた。その大きな目を掌で覆ってやるとルフィは声をあげて泣き出した。
 エースはわんわん泣く弟を抱えてゾロのあの目のことをただずっと考えていた。


 ベンチの隣に腰を下ろすと目を開けたゾロが厳しい表情でエースを睨みつけた。いつもなら笑ってやるところだがエースはじっとゾロの翠の目を見返した。若い目だなとエースは思った。自分と一つ二つしか変わらないが、それでも若い目だ。不満と怒りとやるせなさが悔恨を包んで燃えている。きっとエースもこんな目をしていた。エースはゆっくり瞬きをしてゾロを見つめた。
 ゾロは不意に目をそらした。
「…文句でも言いにきたか」
「いーや」
 ゾロはベンチにだらりと腰掛け背もたれに腕をかけたまま唸るように言った。その声が不貞腐れたルフィの言い方にそっくりだったものでエースはゾロからは見えないのをいいことにニヤニヤ笑った。
 少しの間沈黙が降りた。遠くの電車の音や子供たちの声を聞きながらエースは口を開いた。
「ルフィな、バカだろう」
「…バカだな」
「そうなんだ。バカなんだよ。あいつ字が読めねえんだ」
 ゾロは眉間に皺を寄せてエースを見た。エースは三年前を思いだして懐かしいような泣きたいような気持ちで続けた。
作品名:GO! GO! YOUNGSTER 作家名:たかむらかずとし