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Bizarre Morning

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 大きな欠伸を洩らす廉造からは、全くやる気を感じない。
「にしても、奥村がおらんのはおかしいやろ」
 勝呂の反論に、そうでんなー、とちょっと肩を竦めた。
「急な任務で奥村先生呼ばれはったんかも。奥村君、任務好きやさかい…」
「ありそうやな」
「さすが子猫さん」
「褒めても何も出ぇへんよ、志摩さん」
 バッサリ具合も流石やわ…、と洩らす廉造を、勝呂の頭の上にすっかり落ち着いたクロが笑うようににゃぁ、と鳴いた。
「仕方あれへん、学校には来るやろ」
「っても校舎には連れて行けまへんし…」
「せやなぁ…」
 溜め息を吐きながら呟く勝呂の頭を羨ましそうに、ちらちらと子猫丸が見る。
「クロ、お前どないしたいんや」
 なぁん、と答えるが、何が言いたいのか残念ながら少年たちにはサッパリ判らない。
「普段コイツ、ナニしとるんやろ。子猫、知らんか?」
「時々、学校来たはりますねぇ」
「女の子に囲まれてきゃぁきゃぁ言われて構われてますなぁ」
 羨ましそうに言う廉造に、どうだ、と言わんばかりにクロが鳴く。
「じゃぁ、中庭辺りにでも連れて行けばええンか?」
「と思いますけど」
 クロのしっぽが勝呂の背中を叩く。そうしよう、と言っているみたいだった。
「なぁ。ガッコ、こないに遠かったか?」
 ぼそりと勝呂が呟いた。
「ていうか、ここどこですやろ…?」
 周りを見渡すと、見慣れた街角のようで見逃してしまいそうだったが、一旦気がついてしまうと町並みの全てがおかしい。看板が全く読めない文字になっている。漢字に近かったが、全く見たことのないへんとつくりが組み合わさった文字で、なんと読めばいいのか、何を指しているのか、見当もつかなかった。町並みも、建物の造りの大部分は同じだ。漆喰、レンガ、コンクリートで出来た、多少古風な正十字学園町で多く見かける建物だ。だが、庇や壁の途中から屋根が突き出ていたり、妙に装飾の凝った柱が突然現れたりしていて、違和感があった。
「妙に静かですなぁ」
 廉造があらぁ、と声を上げるが顔には緊張があった。さっきから、車一台、人っ子一人出会わない。正十字学園町は相当に大きな街だ。外へ勤めに行く人も、ここに勤めている人も大勢居るし、すでに人が活動を始めていておかしくない時間だ。
「まさか、迷うたんやろか」
「どうなん?クロ」
 勝呂の頭の上に居た猫又に尋ねる。が、クロは素っ気無いふりでおざなりににゃぁ、と鳴くと、行く手をまっすぐ見つめているだけだった。
「クロ、ここはどこなんや?」
 頭から降ろして前足のところで抱き上げると、クロは抗議するように短く鳴くと、勝呂の手を蹴って手の中から地面へ降り立った。
「あっ、どこへ行くんや」
「坊」
 そのまま駆け出したクロを追いかけようとしたところを、珍しく真剣な顔をした廉造が止める。
「なんや」
「いやぁ、止めた方がエエと思いますわ」
「せやかて…」
 勝呂の抗議を子猫丸が止める。
「今回ばかりは志摩さんが正しいですわ、坊。なんや、嫌な予感しますわ」
 少し青ざめた顔で、きょろきょろと周りを見回す。その手には数珠が握られている。廉造の方を見れば、錫杖を組み立てて、ネジになった柄をきゅ、と締めていた。
「なんや…、ここ…」
 勝呂もぐるりと辺りに目をやる。いつの間にか町中に薄い靄が掛かっている。勝呂たちが居るのは、広場のようになった五差路の真ん中だ。歩道と丸くなった車道。その車道の真ん中には大きな噴水がある。今は靄の向こうから薄く差し込む明かりに、水しぶきを煌かせていた。その広場をぐるりと取り囲むように靄が立ち込めて、向こうが見えない。
 全くの無人の町かと言えば、そうではないらしい。だが、人間の姿がまるでなかった。三人の緊張した息遣いや、身体を動かしたときに起こる、ちょっとした衣擦れの音以外は、まるっきり音がしない。
「ぼ…、坊。子猫さん…」
 廉造の緊張した声がした。
「なしたんや…」
 廉造の見ている先に目をやって、勝呂と子猫丸にも緊張が走る。すっかり靄が覆い隠した通りの向こうから、何かの気配が近付いてくる。その姿が黒い影となって白い膜の後ろに浮かび上がった。
「ね…ねこ?」
 靄をなんでもないように通りぬけて姿を現したのは、大量の猫だった。勝呂たちを恐れる風でもなく、噴水の周りに続々と集まると、思い思いの場所で座り込んだり、互いにじゃれあったりしている。
「ここは…」
「なんなんや…」
 勝呂は幾分毒気を抜かれたように、子猫丸は緊張しながらも大好きな猫がたくさん居る光景に興奮を隠せないで居る。
「あー…、なんや。昔柔兄ぃから聞いた話、思い出しますわ」
 廉造が五つに分かれた道から、続々と猫が現れる光景を眺めながら、ぼそりと呟く。
「蝮さんのあれですか?」
「あれか」
 明陀宗で志摩家と同じく幹部の片翼を担う宝生家の長女、蝮が誰もいない奇妙な町に入り込んでしまったことがあるという話を思い出す。
「まさか」
「でも、似た感じやないですか」
「ほなら、どないせぇ言うんや」
 ぞろぞろと猫が引きも切らず集まってくる。警戒で緊張した様子の勝呂の手にも数珠が握られ、何時でも防御の印が組めるように身構えていた。
 広場は猫だらけで足の踏み場もない位だった。一匹の茶色、クロ、白の縞模様をした大きな猫が悠々とした足取りで噴水に近付くと、ひょいと優雅な身のこなしで石造りの縁に飛び乗った。どっしりと座ると、少年たちの方を振り向いて、いきなり威嚇した。同時にそれが号令でもあったかのように、広場に居た全ての猫が三人を見た。
「な…、なんやの、子猫さん!」
「僕かて判れへんよ、志摩さん」
 ことさら背の小さな子猫丸の後ろに隠れようと、廉造が袖をぎゅっと掴んだ。
「どうも嫌な感じや」
 三人は自分たちをじっと見つめたままの猫たちの集まる広場から、そろそろと移動しながら五差路の一本に入り込む。
 なぁーお。
 猫の鳴き声が上がった。その声の感じに、勝呂たちはびくりと身体を震わせた。
 ねだる声ではない。かと言って、怒りなどは感じない。ただ、不気味な、邪悪な意思を感じた。三人は震える足を励ましながら、とにかく歩いた。後ろを振り向くと、少年たちの後を追って、猫がぞろぞろと路地に入り込んでくる。
「後ろついてきはる…」
「あほぅ、振り向くなや」
 背中がぞわぞわする。それがけして立ち止まってはいけない、と彼らの本能に囁きかけていた。本当は走り出したかったが、足が上手く動かなかった。いつの間にか三人は、互いの腕をしっかり組んで、猛烈な勢いで人影のない街角を必死に歩いていた。
「おい、勝呂!おいってば!」
 聞き慣れた声に、はっと我に返った。
「お前ら、どーしたんだ?」
 呆れたような奥村兄弟が立っていた。
「あれ?」
 廉造と子猫丸が、きょとんとした顔をして周りを見回す。見慣れた祓魔塾の中庭だ。
「なんだ、二人三脚でもやるのか?」
 うはは、と笑う燐が指差すまで、三人が腕を組んだまま気付いていなかった。慌てて腕を放す。
「何かあったんですか?」
 奥村雪男が呆然とした様子の彼らを心配そうな顔で尋ねた。どうも尋常でないと思ったのだろう。
「噴水の周りに猫が一杯で…」
「クロはどこです?」
作品名:Bizarre Morning 作家名:せんり