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牽牛と織女 (Fairy Tales epi.2夏候惇)

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「……ねえ、もしわたしたちが一年に一度しか会えなくなってしまったら、貴方はどうする?」
「…………は?」

 あまりに突飛な質問だった。その問いを真面目に考えたとして、さし当たってそうなる理由も見つからない。思わず間抜けな声を出した夏候惇を気にする様子もなく、関羽はぽつりぽつりと話を続ける。どこか浮かされたようなその目線に、夏候惇は沈黙するしかなかった。

「この間、不思議なことがあったのよ。自分の部屋にいたはずなのに、いつの間にか大きな河のそばにいるの。黄河じゃない、知らない河よ。でもとても大きな河。その畔に、男の人がいたの」
「男が?」
「その人、すごく寂しそうな顔をしていたから、気になって声をかけたの。そうしたら彼、恋人を待ってるんですって。仕事を怠った罰に、年に一度しか会えなくなってしまった恋人を……」
「!」

 どこかで聞いた話だった。否、どこかどころではなく、それは以前夏候惇が体験したのとほとんど似た状況だった。あの時は、他に劉備と張遼がいた。もっとも、夏候惇達が出会ったのは女だったが。
 黄河ではない大きな河。畔に立つ人物。年に一度の、限られた逢瀬を待つ男女。
 驚愕する夏候惇を尻目に、関羽は話を続ける。

「本当は河を渡りたいけれど、絶対に無理なんですって。だから年に一度だけ、鳥たちが連れていってくれるのを待つのだと」
「鳥が?」
「えっと……カササギ。そう、カササギという鳥よ」
「…………」
「わたしがいる間に、ちょうどその鳥たちがやってきたのよ。すごい大群だったわ。その男の人、ずいぶん嬉しそうな顔になって、カササギに乗っていくの。気づいたらわたしは部屋に戻ってた……」

 同じだ、と夏候惇は思う。渡れない河も、大群の鳥、それもカササギという名の。
 だがまさか夏候惇も自分と同じ体験をしたと思うはずもない関羽は、はっと我に返ると、慌てて謝った。

「ご、ごめんなさい! なんだかわたし、ひとりで喋っちゃったわ」

 しかもこんなこと、信じられないわよね、と関羽は言う。夏候惇からすれば、信じるも何も全く同経験があるのだけれど、いかんせんそれを上手く伝える自信はなかった。