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牽牛と織女 (Fairy Tales epi.2夏候惇)

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「徐州の書簡よね? はやく探しましょう」

 引っ張りあげられた時のままだった手を、関羽は引っ込めようとする。あれだけ対処に迷っていたくせに、いざ離されるとなると、夏候惇は殆ど反射的に小さなそれを掴んだ。関羽の驚いたように見開かれた目が視界の端に映るのを感じながら、夏候惇は、関羽の手を引いてその指先に口づけた。ああこうすればよかったのかと、ぼんやり思った。

「……! か、夏候惇!」
「何だ? おまえが聞いてきたのだろう、一年に一度しか会えなくなるならどうするのか、と」
「え?」

 関羽が一瞬、夏候惇の言葉に気をとられた。その一瞬の隙をついて、夏候惇は関羽を引き寄せるとそのまま口づける。ふわりと、関羽の甘い香りが彼を包んだ。それに酔ったように、夏候惇は何度も彼女に口づけた。啄むようなそれから、夜を思わせる深くて長いそれを。

「……っ、ふ……」

 さすがに苦しくなってきたのか、すっかり力の抜けきった手で、それでも関羽が限界を訴えてくる。仕方ないか、と夏候惇は少しだけ唇の間に距離を開けると、関羽の瞳のすぐそばでにやりと笑った。

「…は……っ、……い、いきなり何するの!」
「答えただけだ」
「答えてないじゃない!」

 おそらくこの場に観客がいるなら、百人が百人関羽の言に賛同しただろうが、残念ながら今関羽の味方はいない。関羽は夏候惇を睨みつけるが、涙目では効果はなしだ。違う効果はあるが、と夏候惇は頭の隅で考える。

「俺がおまえから離れるなど有り得ん。おまえもそうだろう? だからそんな問いはそもそも成立しない」
「それはもちろんだけど……、でも今はたとえの話をしているのに」
「却下だ」
「もう……」

 半ば呆れて、けれど関羽は笑った。夏候惇らしいわと、そう言って。