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牽牛と織女 (Fairy Tales epi.2夏候惇)

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「なんだかあんまり夢みたいな出来事だったから、何かのお話に載っていないかしらと思って、ここに来たのよ」
「夢、か。確かにそうかもしれないな」
「ええ。……結局、見つからなかったのだけれど。ここの書庫、本当に色々あるんだもの」
「そういった物語の類は、ここにはあまりないはずだが」
「ああ、やっぱりそうなのね。残念だわ……」

 首を回して、ぐるりと関羽は書庫を見渡す。背の高い書棚も幾つかある上に、それらはすべて一杯だ。どこに何がある、といった指標もないから、慣れない者には辛いだろう。ましてや彼女はこれからも曹操軍にいるのだから、使い方を知っておいて損はないだろう。
 興味津々に輝く瞳を見ていると、何かしてやりたいと思う。と同時に沸き上がる征服欲にも似た何かに、夏候惇は腕の中の存在を見下ろした。

「教えてやってもいいぞ。ここの使い方」
「え、本当? ありがとう、嬉しいわ」
「だが、その代わり」

 くるりと体を反転させて、関羽の体を壁際の書棚に押しつける。逃げられないように腕で囲ってしまえば、ようやく事態を把握した関羽が頬をわずかに染めながら、顔をひきつらせた。器用なやつだ、と思う。

「夏候、惇? 何を……」
「ただでは教えてやらん。お前も何か寄越せ」
「よ、寄越せって……何も持ってないわ」
「べつに構わん。それなら、お前を貰うまで」
「っ!」

 夏候惇の言葉で、一気に関羽の顔が赤く染まる。じりじりと距離をつめていくと、彼女は観念したようにそっと瞼を下ろした。夏候惇は唇の端をそっとつり上げる。唇が触れ合うまで、あともう少し――