魔法少女おりこ★マギカR 第2幕 【第3話】
牧さんと御崎さんは、帰国子女で、どちらも両親は海外赴任中。その為、今は、二人で暮らしていた。その家は、やたらとデッカイ一軒家だった。御崎さんが、小説の印税で購入したのだとか…
居間に通されたボクは、御崎さんが用意してくれるというお茶を、牧さんとジュゥべぇと一緒に待っていた。
「もともとは…三人で暮らしてたんだけどね…」
すると、牧さんが、悲しそうな目をしながら、そう語った…
「和紗(かずさ)・ミチル…あなたも、名前くらいは聞いたことあるんじゃないかな?」
確かに、名前だけは知っていた。同じく南中生で、少し前から、行方不明になったと騒ぎになっているからだ。
…って、行方不明!?…
「ミチルもね、魔法少女だったんだ。それで、さっき一緒にいた子達と、あたし達二人、それにミチルの七人で《プレイアデス聖団》という魔法少女チームを結成していたんだ。だけど、ミチル、魔獣との戦いで力尽きて…この世から消えてしまった…」
「それって、どういうこと?」
ボクは、思わず、訊き返してしまった。
「魔法少女は、願いを一つ叶えてもらえる代償として、普通の人には見えざる災厄…この世の呪いが具現化した忌むべき存在である、《魔獣》と呼ばれるモノを狩ることを義務付けられた者達なの。魂は肉体と切り離され、ソウルジェムという宝石に変換される。これが、そう…」
牧さんは、そう言いながら、左手の中指にはまった指輪から、卵のような形の綺麗な宝石を出現させた。
「肉体から…切り離されるって…どういうこと?」
「言葉のとおりよ」
と、御崎さんが、お茶を運んでやってきた。それを、テーブルの上に並べ、ボク達を席に誘った。
牧さんと御崎さんが並んで座り、ボクは、正面の席に着いた。
「で、さっきの続きだけどね…このソウルジェムが、いわば、私達、魔法少女の命そのもの。これが壊れたり、体と離れすぎることがなければ、基本的には普通の人間と同じだし、肉体がどんなに損傷しても魔法で元に戻すことができる」
御崎さんも、自分のソウルジェムを出現させ、そう説明した。
『そりゃ、普通の人間の体のままじゃ、危なっかしくて、とてもじゃないけど魔獣退治なんて危険な仕事、頼めないもんな』
ジュゥべぇが、そう話しを付け加えた。
「そして、魔法を使うと、このソウルジェムは濁りを溜めていく。それを、倒した魔獣が落としていく、このグリーフシードを使って浄化するんだ」
御崎さんは、そう言いながら、黒い四角い結晶数個を、自分のソウルジェムに近付けた。すると、少しくすんだ感じのソウルジェムが、澄んだ輝きを取り戻した。
「ま、こんな感じにね」
そして、御崎さんは、浄化に使ったグリーフシードを、ジュゥべぇに渡した。
それを、ジュゥべぇが、額の模様から飲み込んでしまった。口があるのに、どうして、そんな所から?…
『そのグリーフシードに溜めこまれた負のエネルギーは、オイラ達《インキュベーター》が回収することで、宇宙を構築するエネルギーとして還元されるってわけさ。この世の呪いを払い、宇宙にも優しく、おまけに、願いを叶えるという奇跡付き…魔法少女は、一石三鳥の存在ってわけだ』
「・・・・・・」
「でも、浄化を怠ったり、一度に大量の魔力を消費してしまうと、ソウルジェムは濁りきってしまう。その時が、魔法少女としての命が尽きる時。あとは、何も残さず消えるだけ。でも、その時、魔法少女の心は、とても安らかな状態で、《円環の理》に導かれると云われているの」
牧さんが、やはり、悲しそうな表情で、最後に、そう告げた。
普通なら、信じられなかっただろうけど…
しかし、すでに魔獣に襲われている以上、もはや否定はできない。
なにより、今の話しには、ボクにとって、聞き捨てならないことが含まれていた。
和紗・ミチル…彼女は、魔法少女として戦い、力尽きて消えたという…
それは、世間では、行方不明として扱われている。
そう、さやかと同じように…
…もしかしたら、さやかも…
「あのさ…魔法少女って、この街だけに存在するモノなの?」
「え?…それは…どうなの?」
牧さんが、ジュゥべぇに、答えを求めた。
『違うね。日本全国…いや、世界中に、存在している。彼女達は、人知れず、魔獣と戦っているのさ』
「もしかして…見滝原にも?」
『そりゃ、いるだろうさ。だけど、この街以外は、オイラの管轄外だから…詳しくは判らないよ』
「さっき、ボクには、その資質があるといったよね? ならば、見滝原に君と同じような魔法少女と契約する生き物…インキュベーターだっけ?…がいるなら、君のように、向こうから寄ってくるってことかな?」
『おそらく、そうだろうけど…って、どうせ契約するなら、ここでオイラと契約しろよ』
「いいよ。ただし、それは、今じゃない…」
ボクは、席を立ち、そのまま牧さんと御崎さんの住まいを後にした。
作品名:魔法少女おりこ★マギカR 第2幕 【第3話】 作家名:PN悠祐希