魔法少女おりこ★マギカR 第2幕 【第3話】
翌日、ボクは、学校をさぼって、久しぶりに見滝原に帰ってきた。
すると、ソレは、すぐに現れた。
『…僕を初めて見て、まったく驚かない人は、初めてみたよ』
ジュゥべぇとは、少し違う感じ…真っ白で、猫だかウサギだか判らないような微妙な形。だが、その心に直接語りかけてくる感じは、まさしくジュゥべぇのそれと同じだった。こいつが、この街のインキュベーター…
「よその街でね…君と同じような生き物に、声をかけられてるからね…『ボクには、その素質がある』って」
ボクは、そう言葉を返した。
『なるほどね…確かに、君には、その素質があるようだ。それに、僕達のことも知っているというなら、話しは早い。僕はキュゥべぇ。僕と契約して、魔法…』
「その前に、教えて欲しいことがある…」
ボクは、そのインキュベーター…キュゥべぇの言葉を遮り、問いかけた…
「美樹・さやか…そういう名前の、ボクと同じ顔をした子が、君と契約して、魔法少女になっていないか?」
『…君は…彼女の関係者なのかい?』
「訊いているのは、ボクだ。質問に答えて!」
ボクは、少し口調を強め、そう促した。
『確かに、彼女は、僕と契約して、魔法少女になった』
「彼女が、その命を代償にして願ったことは?」
『それは、プライベートな部分だ。僕の口からは答えられない』
ボクは、殺してしまおうかというくらい鋭い視線でキュゥべぇを睨みつけ…
「いいから答えなよ…インキュベーター!」
『そんなこと聞いても、意味があるとは思えないけど…まあ、いいさ…そこまで知りたいなら、教えてあげるよ。彼女は、現代医学では治療不可能と診断された、幼馴染の少年の腕の怪我を治すという願いの為に、僕と契約して魔法少女となったんだよ』
「…やっぱり…そうだったんだ…」
幼馴染…上(かみ)条(じょう)・恭(きょう)介(すけ)が怪我をしたことは、ボクも親からのメールで知っていた。
そんな恭介を慰める為に、さやかが、どれ程尽くしていたかも…
しばらくして、恭介の腕の怪我が、二度と治らないと告げられ、その翌日には、奇跡的に回復したという、混乱した感じの状況報告が、やはり親から送られてきた。
その時は、正直、どうでも良かった。ボクは、恭介が、嫌いだったから。さやかの想いを受けていながら、バイオリンを弾くことしか頭になくて、そのことに全く気が付いていなかった、そんな彼が…
でも、さやかが、奇跡を望んだなら、その混乱した状況も、理解できた。
そして、最後に、このことを確認しておきたかった…
「で、彼女は、一人で戦って…消えてしまったのか?」
『いや、一人ではなかった。仲間…とまでは呼べないけど、一緒に戦っていた子達はいるよ。それでも、残念ながら、さやかだけが、魔獣との戦いで力尽きて、消えてしまった。他の子達と比べて、彼女は、もともと、そんなに素質のある魔法少女ではなかったからね』
「それが判っていて…魔法少女にしたのか?」
『僕が強要したわけじゃない。決めたのは彼女で、僕は願いを叶えただけさ』
「それで…結局は、消えてしまったんだろう?」
『彼女も承知の上だった。全て知った上で、契約しているんだからね』
「残された者が、どれだけ悲しむか、考えないのか?」
『そう言われてもね…僕達、インキュベーターには、感情というものがないからね。考えたところで、現実は何も変わらなかったと思うよ』
「そうか…よく解ったよ…」
『ただし、君が、僕と契約し、魔獣と戦う運命を受け入れることができるというなら、どんな願いでも一つだけ叶えてあげられるよ。それこそ、美樹・さやかを、生き返られることだってね』
「…!」
『君にとって、美樹・さやかは、とても大切な人だったのだろう? ならば、迷う必要はないじゃないか』
キュゥべぇが、そう誘いをかけてきた。
だが、ボクは、キュゥべぇに背を向けた。
『契約…しないのかい?』
「先約があるんだよ…残念だったね」
おそらく、インキュベーターは、どいつも同じなんだろう。だけど、この時の感情としては、同じ命を差し出すにしても、コイツとだけは、絶対にゴメンだと思った。
『そうか…まあ、そういうことなら仕方ないね。君みたいな子は珍しいから、興味はあったんだけど』
感情がないクセして、よくもまあ、ヌケヌケと…
まあ、それはいい…
「そのかわり、契約を済ませたら、また来るから…美樹・さやかが一緒に戦っていたという魔法少女達の戦いの場に、案内してくれないかな?」
『お安い御用さ』
ボクは、あすなろ市に戻った。
作品名:魔法少女おりこ★マギカR 第2幕 【第3話】 作家名:PN悠祐希