こらぼでほすと ニート12
胸ポケットから取り出した薬を、水と共に渡す。これは、本山からの定期便で送られてくるほうの薬だ。これも、適度に飲ませないと回復できないところまできている。丸薬なので、ニールも大人しく飲む。そして、悟空が冷蔵庫の漢方薬をコップで配達に来た。
「今日は、朝もスルーだったから、飲んで。」
目の前に爽やかで冷気の笑顔の八戒だ。飲まないわけにはいかない。必死で飲み込んで水で口を漱ぐ。口直しです、と、レイが梨を口に差し出してくれる。もう、これでげっそりだ。ぐったりとシンにもたれかかってニールは泣きそうになっているが、周囲は笑顔だ。
「しばらく、里帰りしてください、ニール。悟空のほうは、僕らで様子はみておきますから。」
「・・・はい・・・でも、リジェネもいるんですよ、八戒さん。」
部屋の端っこのほうで、サンドイッチをもしゃもしゃしているリジェネを指差して、そちらについても頼む。ティエリアよりも家事能力のない生き物だから、そういう意味では寺に置いておくのは、少し心配だ。
「リジェネくんは、うちに連れて帰ればいいさ、娘さん。あの子は、きみに逢いに来たんだから。」
リジェネがイヤだと言う前に、さっさとトダカが連れて帰る宣言をしてしまった。
「いいんですか? トダカさん。」
「いいも何も、あの子、泣きそうな顔してるよ? 置いていくのは無理じゃないかい? 」
リジェネに視線を移すと、本当に泣きそうな顔だ。それを見て、ふと、刹那の顔が思い浮かんだ。置いてけぼりを食らわせたニールに、再会した頃は、よくあんな顔をしていたのだ。なんだ、人間臭いところもあるじゃないか、と、ニールは笑い出す。
「そうでした。すいませんが、リジェネも里帰りさせます。」
「わかってるよ。少し休んだら帰ろう。」
少し休憩して、ニールは里へ移動させられた。ついでに、リジェネもついていく。着替えは、ティエリアの分があるものの、大半はマイスター組の社宅にあるから、それはアスランが配達してくれることになった。
「外に遊びに行ってくれても構わないが、できれば私が出勤している時間は、ニールの傍に居てやってくれないかい? 」
トダカは合鍵を渡しつつ、リジェネに頼んだ。日中はいいのだが、トダカが出勤するとニールが一人になる。ハイネがついている予定ではあるが、悟空と同じように、トダカもリジェネにティエリアの代わりを望んでいる。
「キラに頼みたいことがあるんだけど。」
「それなら、今夜、いらっしゃるから尋ねてみるといい。」
ニールのカルテを入手したい。どの症例に近いのかチェックしたかった。それから、今夜にでもティエリアとリンクして詳しい看病の段取りを尋ねることにした。あれだけ事細かに、ティエリアは説明していたが、それでも不十分だったからだ。
ハイネは、きっちりとトダカ家のほうへ、いつもの小振りの旅行カバンと共にやってきた。
「栄養補給だけさせておきます。こっちに俺も泊らせてもらっていいですか? トダカさん。」
「構わないが、それほど厳しく警戒するほどのことかい? 」
リジェネはイノベイドで、あらゆる情報を手にしている。あまり、ニールに詳しいことは話されたくないし、『吉祥富貴』のマザーやシステムにも悪戯されては困るから、ハイネが監視しているのは聞いているが、そういう感じではない。トダカが見た限りは、ニールにひっついている手のかかる子供という感じでしかない。
「マザーへの侵入の心配はしてないんですが、あれ、ママニャンに話して欲しくないことといいことの区別がついてないから。」
「終わったことだから、話したところで問題にはならないだろ? 」
「ママニャンの体調に関することはマズイ。それに、イノベイドのやらかしたことは、いろいろとキツイ話もあります。」
例えば、ライルとアニューの一件だとか、刹那が撃たれた一件とか、エグイ精神攻撃なんぞは聞かせるだけで、げっそりする代物だ。ついでに体調に関する項目も、ドクターのカルテについての情報は耳に入れたくない。漢方薬が歯止めになっているものの、悪化した部分は、さらに悪化している。クスリの量も限界まで増やしているから、これ以上に、どうにかできない状態まできているのだ。
「そういうところはなあ。とりあえず、きみが看病してくれ。」
「了解です。発熱自体は明日には治まると思いますが、最低でも一週間は安静だそうです。」
「あまり連れ出してはいけないってことか。残念だな。」
「外食や買い物ぐらいは問題ないでしょう。絶対安静じゃないんで。」
そういうことなら、適当に出かけるか、と、トダカも頷いた。打ち合わせをして、ハイネがニールの部屋に顔を出すと、シンとレイは、その部屋で携帯端末で資料を読んでいる。リジェネはいない。ニールは、うとうとしていただけだったのか、すぐに音に反応した。
「おう、ハイネ。」
「看護士様の来訪だ。」
「はあ? ちゃんとメシは食ってるぞ? 」
「うそつけ。とりあえず、栄養補給だけだから一時間で済む。おら、腕出せ。」
八戒からドクターに連絡が入って、解熱効果のある漢方薬は飲ませたので、栄養補給のほうはお願いします、と、頼まれた。基本的に、漢方薬というのは即効性のものではないから、普段、飲んでいるあの液体だけでは対処ができないらしい。それで、ハイネが点滴セットと共に現れた。
「シン、紫猫もどきはどうした? 」
「散歩してくるって出かけた。ハイネも泊るのか? 」
「ああ、もどきは言っていいことと悪いことの区別がつかないから監視してんだよ。」
「大袈裟じゃないか? ハイネ。そんなに俺が知ったら、マズイことがあんのかよ? 」
まあ、山ほどあるだろう。ティエリアが、どういう目に遭って死んだのか、なんて聞いたら、かなりショックを受ける。それでも知りたいこともあるし、ハイネに常時監視されているのも窮屈だから、そう怒鳴ったら、「ありまくりだっっ。」 と、返された。
「ライルが、どんな怪我したとか、聞きたいか? ママニャン。」
「うっっ。」
「アレルヤたちが、どういう収監状態だったか、聞きたいか? 」
「・・・それは・・・」
「そういうことが山ほどあるんだよ。おまえ、聞いたら具合が悪くなんだろ? そういうことは耳にしないほうがいいから、俺は言ってんだ。ついでに、たまには間男にも、いちゃこらさせろ。」
「したいのか? おまえさん。」
「試してみようと思う。それで、どうにかなりそうなら趣旨変えする。」
「いや、俺が無理なんだけど? 」
掛け合い漫才のような言い合いをしつつ、ハイネが運んで来た輸液をセットする。アルコールで腕を消毒して、相変わらずヘタなので、ぶしっと一発目は血管を通り抜けた。ぎゃっとニールが叫んでいるのを横目に、レイが溜め息をつく。毎度、この調子なので、ママに同情する。
「俺、看護士の資格を取得しようかな。ハイネよりは手業としてはいけると思う。」
「てか、ハイネって酷いな。あんなで資格が貰えるんなら、俺でもいけるかもしんねぇ。」
作品名:こらぼでほすと ニート12 作家名:篠義