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思うにこれは恋

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グレコは自分が戦場で見聞きしてきた事実を面白おかしくギャンレルに語ってみせた。

仲間の裏切りの衝撃や安い対価を支払う主人への裏切り。
信頼していた仲間を失う悲しみや戦地での恋についてなど。
明るく語るグレコの中に、酷くぬぐいきれない哀愁がそこにはあった。
ギャンレルは思った。
目の前にいる男は、ひどい顔をした中年であるにも関らず、さらに聖人君子ではない。
しかし、その表情を見ていると、何もかも許されるような予感がした。

「いいか?
 諦めはネガティブじゃない。
 なぜかわかるか?」

「過去の栄光に縛られている愚か者がどれほど滑稽に見えるか。
 諦めは、むしろ未来への第一歩だ。」

ギャンレルはグレコの言葉におかしくなって、笑った。
「ふん。知ったことを。
 で、そんなてめーはどうなんだ?」
そう、質問した。
「ん?オレか?」
グレコは自分自身を指さした。
そして、苦笑いをすると、
「オレは『過去の栄光』には縛られてはいないが、『過去の後悔』には縛られているかもしれないな。」
そう、自分をあざけり笑った。
ギャンレルから見て、それっきりグレコは心を閉ざしてしまったように見えた。
人には誰でも『話すことができない過去』を持っているものだ。
自分自身もそうだと思い、ギャンレルもそれ以上何も聞かなかった。
しばらく沈黙は続いた。
その間にますます踊り子の舞は華やかになり、店の中の野次や拍手、演奏も佳境に達しつつあった。

「いやぁ〜かわいいな〜。あの子。」
踊り子を見て、グレコは感嘆の声を上げた。
「いや〜、しかし、うちの軍のオリヴィエにはかなわねぇよな。」
グレコがそう言っているのを興味なさげに、ギャンレルも舞いをただ眺めていた。
「お!どうでもよさそうって顔しているな!」
そんなギャンレルの横顔を見て、グレコは尚もオリヴィエのことを褒め続けた。
「いいぜ〜。オリヴィエはよ。
 顔もスタイルも踊りも抜群なんだが。
 さらに、性格がいい!
 恥ずかしがり屋の控え目ときている。
 あんな子めずらしいぜ〜。
 今度、一緒に見ようか?」
誘うグレコに、
「興味ねぇな。」
そう、きっぱり言い切り、ギャンレルは酒を煽った。
「いやいや〜。
 女に興味ないなんていうのは、嘘っぱちだな。」

「オレの目はごまかされないぜ。」

ギャンレルはグレコを見た。
グレコはその時、相手を見抜く鋭い目をしていた。

「おまえさん、あんまりクロムと張り合うなよ。」
「張り合ってなど!」
「オレはおまえさんは、クロムの説得に会心させられてこのイーリス軍に入ってきたと思ったぜ。
 暗愚王のあんたでさえ、惹きつけるクロムの魅力には、さすがのオレも驚いたね。
 クロムはちょっと抜けてはいるが、さすがは聖王マルスの血筋を引いているよ。
 確かに、あいつはいいやつだ。」
ギャンレルは顔を背けた。
「おまえさんが、何に張り合っているのか当ててやろうか?」
グレコは意地悪そうな笑みを浮かべた。
そんな顔を彼は過去に、幾度してきたことか。
元国王の前でも彼の態度は変わらないらしい。
「やめおけ。
 顔と若さじゃ、あっちのほうが勝っているぜ。
 ああ、あと人望もな。」
はは!
グレコは大きく笑った。
自分もおまえさんと同じだがな〜。と、付け加えるのを彼は忘れなかった。

「何?
 オレに言われなくてもわかってるってか?
 確かに、男の目からみてもあっちのほうがかっこいいしな〜。
 うん。
 比べると、虚しくなっちまうぜ〜。
 それこそ、負のスパイラルへいらっしゃいませだ。」

「ちがう!」

ギャンレルはグレコの言葉を否定した。
その態度に、またも彼は正体不明の優しげな笑みを浮かべた。
「なぁに、わかってるさ。
 そんなこと違うってことくらい。
 冗談さ。」
そして、グレコはギャンレルの肩をぽんと叩いた。
「あんたが、クロムと自分を比べちまうのはな〜。
 同じ王様としてだな。
 何が決定的に違うのかってな。
 考えているんだろう?」
そして、しばらく黙ってギャンレルを見た。

「あんた、クロムの隣にいる軍師様が欲しいのか?」

その言葉に、ギャンレルは不意打ちを突かれたようになり、彼のまっすぐな視線から目線を反らした。
「あんな素晴らしい軍師様がいたら、自分の国は乗っ取られることはなかったとでも思っているのか?
 あるいは・・・
 クロムの幸せそうな表情に何かを感じたのか?」

「あんたは、いつも一人でいながらも目線はいつもルフレを追っている。」

「相手を思うことは勝手だが、時には自分を抑えることも大切だぞ。
 壊した先に、悲しむものがあることを理解できなければ、国王として失格だ。」
グレコは少し強い口調で、それでいて、優しく諭すような声音で言い切った。
「あーあ、そんなこと。てめーに言われなくても分かってるぜ。」
そして、彼は席を立った。
「オレはそもそも、国王を失格している立場じゃねぇか。」
そう、呟いて、ギャンレルはその場から立ち去った。
作品名:思うにこれは恋 作家名:ワルス虎