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胡蝶の夢 (Fairy Tales epi.3張飛)

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「わあああああ!!」
「!?」

 あまりの衝撃に、張飛は跳ね起きた。心臓が全力疾走をした後のように、ばくばくと五月蠅い。じっとりと汗が背筋を滑り落ちる。肩で息をしていると、おそるおそる、といった体で隣から声がかけられた。

「ちょ、張飛……? どうしたの?」
「あ、あれ……? 姉貴?」
「大丈夫? 厭な夢でも見たの?」
「夢……」

 そうか、あれは夢だったのか、と。頭の隅ではそれを認識しながらも、張飛は念のため、と自分の頬をつねってみる。……痛かった。
 徐々に今の状況を把握する。窓から差し込む朝日が眩しい。夜が明けたようだ。隣にいた関羽も身を起こし、張飛の顔を覗き込んだ。

「自分の頬なんてつねって、本当にどうしちゃったのよ? 具合でも悪い? お水、持ってきましょうか」

 関羽の目が、心配そうに曇る。張飛の脳裏に、あの夢の中の女の子の濡れた瞳が蘇った。張飛は思わず、腕を伸ばして関羽の両頬を包む。張飛の突然の行動にぎょっとしたように関羽が目を見開いたが、今の張飛にそれに構っていられる余裕はなかった。

「姉貴、ホントのこと、正直に、答えて」
「え?」
「……俺のこと、嫌い?」
「はい?」

 関羽が呆気にとられた口調で聞き返す。何を言われているのかわからない、とでも言いたげな表情だった。だが張飛は真剣な表情のまま、関羽を見つめる。しばらく戸惑っていた関羽だったが、これは只事ではないと悟ったのか、表情を改めるときっぱり否定した。

「そんなこと、あるはずないわ」
「ホント? ホントにホント? 嘘じゃないよな?」
「当たり前じゃない。こんなに好きなのに」
「そ……っか……。はー、よかった……」

 一気に肩の力が抜ける。子供の頃の約束、そのために必死に頑張ってきて、そしてやっとのことで通じ合ったこの想いだから、絶対に張飛は失いたくない。今は夢の中のことだとなんとか落ち着いたが、それでもあの破壊力は抜群だった。あんな言葉を言われるくらいなら、彼女の肘鉄を十回ほど喰らう方が余程マシだ。

「でも、どうしていきなり、そんなことを聞くの?」
「それは……姉貴が俺のこと、嫌いだって言うから」
「……わたし、そんなこと言ってないわ」
「うん。だから、夢の中の話。姉貴にそう言われてさ、いやーまじびびったわ」
「夢で?」