胡蝶の夢 (Fairy Tales epi.3張飛)
ぱちくりと関羽が瞬きをする。と思えば、彼女は口に手を当ててくすっと笑った。これは気のせいではなく子供扱いだと思った張飛は、軽くむっとして口を尖らせた。
「あねきぃー、笑えないって、ホント」
「ごめんなさい。だって、夢のことなのに、現実のわたしに聞くんだもの。胡蝶の夢みたいね、張飛」
「コチョウノユメ?」
「夢か現か、わからなくなることよ。昔、蝶になった夢を見た人がいたのだけれど、目が覚めたとき、自分は蝶になった夢を見ていただけなのか、人になった夢を見ている蝶なのか、わからなくなったんですって」
だから胡蝶の夢みたい、か。ふーんと納得していると、また関羽がくすっと微笑んだ。
「夢は夢よ、張飛。現実はこっち。わたしが貴方を嫌いになるなんて、あるはずないのに」
「……じゃあさ、確かめてもいい?」
「え?」
「姉貴が俺を、嫌いじゃないって。……ちゃんと、好きだって」
とんっと軽く体を押せば、関羽の体は簡単に寝台に沈んだ。その顔のそばに腕をついて、もう片方で彼女の髪を軽く撫でる。張飛が上から覗き込むようにして微笑む。関羽の頬が、かっと染まった。
「ちょ、ちょっと張飛……」
「んー? 何?」
「何、じゃなくて……っ」
「俺さ、まだまだ不安なんだ。姉貴が俺のこと、ちゃんと見てくれてるって、頭では分かってるんだ。でもやっぱりまだ追いつけてねーなって思ったりするし、それに絶対、俺の方が姉貴のこと、好きだぜ?」
それは張飛が、常日頃から思っていたことだった。泣きたくなるくらい長い片思い期間の後、どうにか結ばれたわけだけれど。彼女の姿を目にするたびに胸に溢れる愛しさと、同時に早く自分もあの場所に立ちたいという焦り、それは決して伝わらないだろうと思う。後者に関しては、正直伝わって欲しいとも思わないが。
「そんなこと」
「いや、ある。言っただろ? 姉貴のことは、俺が誰よりわかってるんだって」
そう言って張飛は、関羽の首筋に顔を埋めた。顔は見えなくなったが、彼女がより近くに感じられる。むき出しの素肌をぺろりと舐めると、関羽がぴくりと反応した。朝から何やってんだ俺、という小さな理性の声が聞こえた、気がした。
作品名:胡蝶の夢 (Fairy Tales epi.3張飛) 作家名:璃久