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らんぶーたん
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小説Fallout3「じいさんとベルチバード」

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 何か言いたげなじいさんが言葉に詰まる。
 それを待つほんのわずかな沈黙の時間。
 好ましいと思えたその時間は、直後、遠くから近づいてくる聞き慣れない音に破られた。
 じいさんもその音に気づいたようで、表情が何故か険しくなる。
 音はアランの背後、丘の向こうから近づいてきた。
「アラン、家に戻れ」
「えっ?」
 先ほどまでとはうって変わったじいさんの声音にただならぬ空気を感じ取り、アランは音のする方へと視線をやった。
 それは丘の向こうから現れた。
 空気をかき乱す暴力的な音。破裂音にも似た音をまき散らしながら、見る者を圧する鈍色の肢体を震わせ、空を飛ぶ鋼鉄の獣が丘の向こうから現れる。見慣れたその姿を見間違えるはずはない。
「《ベルチバード》!?」
「アラン!」
 じいさんに呼ばれて我に返り、あっけにとられていたアランは慌てて物陰に隠れた。


 すぐ近くに着陸しようとする《ベルチバード》の姿を、アランはただ呆然と見つめていた。
 垂直に立ち上がった翼の上で回るプロペラ。それが巻き起こす暴風に頬をはたかれ、巻き上げられた砂塵が視界を塞ぐのを腕で庇いながら、アランは腰のホルスターに収めた拳銃を確かめた。
 エンクレイヴがやってきた。何を意図してかはわからないが、ここを目的地にしているのは疑いようがない。
 降り立った《ベルチバード》のプロペラが停止するにつれ、視界は明瞭になり始める。今までに聞いたエンクレイヴの噂が現れては消え、アランの頭の中には警鐘が鳴り響いている。
 引きつった笑みで恐怖をごまかしながら、アランは降り立った《ベルチバード》の様子をうかがった。
 後部ハッチが開き、そこから三人の人影が降りてくる。
 最初に降りてきた二人は、人影、というにはあまりにも禍々しいフォルムを乾ききった大地に浮かび上がらせていた。全身を覆うパワーアーマーは、中世の騎士と言うには肥大しすぎていて、どちらかというと鈍重な印象にしたヤオ・グアイといったところか。
 一人は、生身の人間なら一瞬で挽肉にしてしまえそうな馬鹿でかいミニガンを抱えている。人間の頭より一回りは大きそうな直径のある円筒状の武器。あんなものを持って戦えるのは、拳銃弾程度なら弾き返してしまう装甲があってこそだ。
 もう一人が手に持つライフルは、通常のアサルトライフルとは形状がかなり違う。複数のリングを貫いたような構造を持つ緑色の先端部分。そこから吐き出される同色のプラズマ光を幻視し、あれが生命を跡形もなく焼き尽くすプラズマの炎、とアランは生唾を呑み込んだ。
 そして、その後ろから将校服の男が姿を現した。は虫類を思わせる三白眼でこちらを睨め据えながら、レーザーピストル片手に二人の化け物を従えている余裕を笑みに変えて浮かばせる。
 嫌な笑い方だった。
 差し迫った恐怖という原因もあったが、じいさんがいるから、というもっともらしい理由もある。動けない自分の姿は、さながら蛇に睨まれた蛙といったところだ。逃げ出そうにも逃げ出せず、蛇の気が変わるのを願うしかないのだから。
 そう思ったからこそ、アランは無理矢理に一歩踏み出し、エンクレイヴ兵に言った。
「何をしにきた、エンクレイヴ!」
「相手を見て喧嘩を売るんだな」
 こちらの虚勢を見破って、将校風の男がせせら笑う。
「十年ほど前に放棄した《ベルチバード》から信号が送られてきたんだ。何があったか、それを確認するのは組織として当然だろう?」
 やつらがここに来た理由。
 それは起動したじいさんの《ベルチバード》が発した信号を拾ったからだったのか。識別信号か、それとも救難信号か。かつて放棄したはずのそれが十年の眠りから目覚めた結果は、その所有者たるエンクレイヴのシステムに拾われることになった。
「……それで?」
 黙っていたじいさんが口を開く。何かを押し殺すような声音は、じいさんからは聞いたことのない種類の声だった。
「この《ベルチバード》は我々が接収する」
「なっ、ふざけるな!」
 何も言わないじいさんに代わった形で、アランは声を荒げた。
「これは我々の所有物だ」
 いきなり現れたやつらにこう言われても、じいさんは押し黙っている。いつも俺にするように罵声を浴びせてやればいいんだ。そんな相手を睨め据えながら何かを堪えているのはあんたらしくないだろう?
「じいさんも何とか言えよ。あんた、十年もかけて修理したんだろう!? このまま持っていかれていいのかよ!」
「ほお、あんたが修理したのか」
 レーザーピストルを手のひらに遊ばせながら近づき、将校服の男はじいさんの顔を覗き込んだ。
「中を確認する。こいつらを見張っていろ」
 ほんのわずかににらみ合った後、将校服は踵を返してじいさんの《ベルチバード》の中に消えていった。


 将校服の男が《ベルチバード》から出てくるまでの数十分間。パワーアーマーの兵士に阻まれて、アランは何も出来ずにいた。じいさんもじっと《ベルチバード》の様子をうかがっていただけだ。
「あり合わせの部品でこれだけの修理をするとは……。あんた、元々はエンクレイヴの技術将校か何かか。でないとこの仕事は無理だろう」
「……」
「この腕ならまだまだエデン大統領の為に働けるだろう。どうだ、復帰してみては?」
「……」
「だんまりか。まあいい。こちらにいれば、秩序を守る側としてまともな老後も送れようものに」
 将校服の男がそう言った瞬間、じいさんの身がぶるりと震えた。何かが振り切れた音をアランは聞いたような気がした。
「……おまえに何がわかる」
「ん?」
「秩序を守る? おまえたちは破壊するだけだ。奪うだけだ。何もかもを! わしの息子を!」
「じいさん!」
 ウイリアムじいさんが将校服の男に飛びかかろうとする。そんの身体をアランは必死で抱き留めた。
「……ふむ、そうか。我々の秩序を理解できぬのなら仕方あるまい」
 じいさんの様子に何の反応も見せず、将校服の男はその三白眼をプラズマライフルの兵士に向ける。
「消せ」
 それだけを言い残して、将校服の男は《ベルチバード》に戻ろうとした。
 命令された兵士が鋼鉄の身体を軋ませながら、プラズマライフルを構えてこちらに向ける。緑色のプラズマ光が銃口に滞留したのを見た瞬間、アランはじいさんを抱いたまま横っ飛びに飛んだ。
 直後、家の近くにあったドラム缶が緑色の閃光に貫かれ、中の燃料に引火して爆発する。爆風が行きすぎるのを待って顔を上げると、すぐそばにパワーアーマーの兵士がいた。その目が妖しく光り、銃口が倒れたままのアランとじいさんに再び向けられる。
 まずい。
「終わりだ」
 アランはじいさんを抱えたまま目をつむった。
 銃声が轟く。

 だが、痛みはやってこなかった。
 感覚もそのまま。
 何も起こっていないと理解した頭の中に次に生じた疑問は、銃声がしたことだった。その銃声は、プラズマライフルのものではない。実弾が火薬によって吐き出される音だ。
 アランが顔を上げると、そこにはパワーアーマーの兵士はまだいたが、手に持っていたプラズマライフルが無かった。
 流血で赤く染まった手を押さえ、落としたプラズマライフルを拾おうとする兵士。