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誓いは邂逅の夜に

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「三成、聞いたぞ。古くからの友に逢うらしいな」
「……家康」


秀吉の部屋を出て、準備と云えど何をすべきか逡巡していると突然声を掛けられた。
一体誰に聞いたやら……。

否、今は準備が先だ。家康所では無い。
秀吉が準備をしろと云ったからには、自分は未だ邂逅に相応しい状態では無い筈だ。
そう、止まらず空回り全開の思考で考える。


「一体何を悩んでるか知らないが……もっと嬉しそうにしてるかと思ったのに……っ!?」


云い終える前に、家康が言葉を詰まらせる。
三成が突然、襟首を掴んだからだ。


「貴様……。私が喜んで居ないと云うのか?吉継と逢うと云うのに、私に何の感慨も見えないと云うのか!?」
「落ち着け三成。何も其処まで云って無いじゃないか」


宥める様に手を前に出し、家康が苦笑する。
其の姿に我に返ってか、三成は手を放すと決まり悪そうに視線を逸らした。

何もかも、怒りで表そうとするのは三成の悪弊だ。
其れは本人にも自覚が在る様で、こうして気付けば動いて居る躯、叫んでいる口を疎んで居る事も屡々だ。


「まぁ、何だ。お前……喜んでるにしては顔が怖いぞ」
「煩い。私は忙しいのだ。一々表情等気にしていられるか」


又口内でブツブツと何か呟き始めた三成に、家康は「何をそんなに考えているんだ?」と訊ねる。
三成にしてみれば、こうして会話する時間も惜しい位だ。

然し、こう云った場面に置いては家康の方が器用なのは確かだろう。
殆ど人と会話する事も無い三成よりは確実に。


「秀吉様に準備をしろと云われた……が、何をすれば良いか解らん」


拗ねた様に外方を向き、恥じる様に三成が呟く。
秀吉の意を汲めなかった事が相当堪えている様だ。

そんな三成の様子に微笑みを零した家康は、三成の胸に掌を宛がう。


「三成。取り敢えず肩の力を抜いて深呼吸するんだ」
「……?」


突然の行動に、三成が疑問符を飛ばす。
然し「ほら、いいから」と促されれば従ってしまうのも妙な噺。

三成は一度瞳を伏せ、深く空気を取り込んで吐き出す。
何時もより、吐き出す空気を意識している気がした。

とは言え、眼に見えて何が変わる訳でも無く、三成は「此れが何だ」と家康を睨んだ。


「こうして呼吸すると、難しい考えが浮かばなく為るだろう?」


太陽の様な、そんな笑みだ。
暖かく見守る様な笑顔で云う家康に、喉まで出掛かった「下らない」の一言が身を潜める。


「良く知った仲為ら、尚の事[素]の儘で良いんだと思う。三成は難しく考え過ぎて肩に力を入れ過ぎなんだ。秀吉殿が云いたかった準備って云うのは、こうやって落ち着く事じゃあ無かったのか?」


云われて考えれば、少々先走っていたとは思う。
一武将として見える場の用意は、疾うに出来ていた。

為ら、自分を焦らせていた物は何か。

考えれば答えは直ぐに出た。
単なる子供の様な堪え性の無さだ。

其れを理解すると、三成は顔に血が昇る様な錯覚を憶える。
今日の自分は何れ程不様に奔走しているだろう。

而も其れを家康に教えられると云うのは屈辱でしか無く
三成は家康を突き飛ばし、鼻を鳴らして踵を返した。


「礼は云わん」


冷たい声音で吐き捨てる。
然し其の言葉の中に[家康の御陰で答えが見つかった]と云う意味が含まれて居ると、果たして家康は気付いただろうか。

憮然と立ち去る三成を、家康が呼び止める。


「待て待て三成。先刻も云ったろう?顔、少しは笑む練習でもしといたら如何だ?」


家康が揶揄う様に云う。
彼にしてみれば三成の過ぎた緊張を解す積りだったのだが、三成の蟀谷には明らかに青筋が浮かぶ。


「黙れ!!余計な世話事を垂れるな!!」


何が其処まで気に障ったのかは本人も解って居ないのだろうが、そんな事を一々気にする筈もなく抜刀と云う手段で家康を黙らせる。

流石に刀を抜かれれば家康とて黙ってはいられない。
直ぐに抗議の声を上げるが、まるで興味を失った様に立去る三成の耳に其れが届いていたかは定かではない。
作品名:誓いは邂逅の夜に 作家名:喰褸