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誓いは邂逅の夜に

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「吉継、戻ったぞ」


茶の用意を手に、部屋に戻る。
襖を滑らせれば、仄かに鼻を刺激する煙の香。


「応オウ、早いモノよな」


振り返る吉継に眉を顰める。


「何の匂いだ?……何故、香など焚いている」


如何やら、三成が茶の用意をしている間に小姓に持たせた様だ。
穏やかな雰囲気を演出する様に、独特の香りが満ちる。

とは云え、今から茶を立てようと云う時に煙を焚くとは如何なモノか。


「何、気にする程の事でも在るまい」
「……?」


当然の様に云われ、二の句を失う。
だが、疑念は募るばかりだ。

何かが可怪しい。
確かに永く会って居なかったが、そう云う違和感では無いのだ。

何か、そう。
一歩踏み出すと、退られる様な焦れったさ。

不快だ。
久々の友と過ごす時間に在るまじき考えだが、先程から吉継の行動言動が不快で為らない。

そう思い乍ら茶を立てる。


「相も変わらず、ヨイ手捌きよな」


包帯の下で微笑み乍ら云う吉継に「おべっかは要らん」と素っ気無く返した。

茶を差し出し、茶菓子を置く。
そして、視線は其の儘に口を開く。


「……吉継。其の儘では茶が呑めないと思うが?」
「気にしやるな」


即座に返してきた吉継は、包帯の口許だけを緩める。
其の姿に、何処かで何かが切れる音が聞こえた気がした。


「好い加減にしろ、吉継!何時まで其の儘で居る積りだ!!」


叫び乍ら、襟元を掴んだ。
其の儘、左手で頬の上に重なる包帯を無理矢理に引き剥がす。
然し、ほんの一寸布をずらした刹那、三成は息を呑んだ。


「……ッ!?」
「放しやれ、三成」


顔に触れていた手に、殊更優しく吉継の指が触れる。
だが、三成はそんな事を考える余裕等無かった。


「……何だ、其れは」


喉が拉げた様に、上手く言葉を綴れない。


「答えろ、吉継!!」


三成は、痺れた舌を叱咤し乍ら弾劾する。
吉継は其れに溜息で返し「業よ、ゴウ」と呟いた。


「余り見遣るな、三成よ。他は如何であれ構いはせぬが、主の眼の色が変わる事は我とて耐えられぬ」


吉継は、感慨の無い表情を貼り付けて云う。
三成の眼に映る吉継は、右頬から頚に掛けて皮膚が腐れて居た。

黒い汚血と膿が混じり、滲んでいる。
其の周囲の肌も、赫黒く爛れていた。


「……何故だ?」


包帯に掛かった指を、吉継が一本一本剥がしてゆく。
総ての指が包帯から離れると、三成の手は力無くだらりと提がった。

視界が滲む。
臓腑が潰れんばかりに軋りを上げる。


「何故、貴様が……貴様が何をしたと云うのだ!!」


今までの違和感に、明かりが射す。

早々に吉継から離れていた小姓。
三成に触れる指先の味気無さ。
廊下で陰口を叩いて居た連中も。

部屋で焚かれている香でさえ、膿の匂いを隠す為だろう。
其の総てが、眼の前に在る其れが真実だと語って居る。

包帯に覆われた手が、躊躇いがちに三成の頬に触れた。
目尻を親指で撫でる動きが酷く穏やかで、胸が潰れそうに為る。


「泣くな、三成。主が噎ぶ必要は無かろ?泣くなナクナ」


嗄れた、然し優しい声音は小姓の頃と寸分違わず、遂に三成は頽れ吉継の胸に額を押し付けた。


「紀之ぉ……っ!!」


嗚咽を零し乍ら、吉継の背を掻き抱いた。
そうしなければ、今にも吉継が消えて無くなりそうだった。


「やれ、三成。余り触れて呉れるな。伝染らぬ保証は無い故……何より、此の醜い躯に触れて汚れて呉れるで無い」


慈しむ様な視線で、吉継が云う。
三成は涙を拭う事さえ忘れ、再び吉継に掴み掛かった。


「何が伝染るだ……何が醜いだ!!私の前で、二度と其の様な事を口にするな!!」


叫べば、あやす様に髪を撫でられる。
責めたい訳では無い。
なのに、吉継に降り掛かった此の絶望に対する怒りの遣り場が無く、憤りが先走る。


「伝染る為らば、さっさと伝染してしまえ!!其の絶望を……苦しみを、一片でも私に背負わせろ!!」


今の自分が、如何に無理を云って居るかは理解している。
こんな事を云っては、吉継を困らせるだけだと云う事も。

此れでは、何も出来ない稚児の駄々ではないか。
然し、何もしてやれないと云う点では間違いでも無い。
三成は稚児と違わず無力だった。


「三成、主は本に優しい仔よ。佐吉の頃より一つと変わらぬ。然し、其の言葉は仕舞いやれ。主がそう云うて呉れるだけで充分よ」


吉継が三成の頭を優しく叩く。
そして、柔らかく身を離すと手早く包帯を直し傍らの杖を手に腰を上げた。


「少々、夜風に当って来る故、其の間に落ち着きやれ」


吉継が部屋を離れる。
然し、止める気には為らなかった。

今は一人に為らなければ、泣き止めそうに無かった。


「…………何故、私はっ!!」


何も出来ない?
変わってやれない?
何時も共に在ったと云うのに、自分だけが健体なのだ?

三成は己を責める事しか出来なかった。
其れこそ、御門違いも甚だしい事ばかりが頭を廻る。

今にも胃袋を吐き出しそうだ。
今なら肺も吐けるかも知れない。

其れ程迄に追い詰められ乍ら、三成は出来うる限り大きく呼吸をした。
作品名:誓いは邂逅の夜に 作家名:喰褸