IS バニシング・トルーパー 000-002
Dr.トキオカに声を掛けられて数秒を経って、少年はゆっくりと目を開けた。
「普通だ。Dr.トキオカ」
クリスは青い両目で老人を見つめ、無表情に答える。
「そうか、それは何よりじゃ」
陰湿な笑いを口元に、Dr.トキオカは周囲の部下に排水指示を出した。
「上から君には二つほど、通達があるんじゃよ」
Dr.トキオカが二つの指を立て、クリスに見せた。
「一つは、タイプEXが完成したんじゃ」
「タイプEX?「凶鳥」の方はどうした」
「あれは例のエンジンの制御問題で、まだ仕上がっておらんよ。この調子じゃ、AMパーツの方が先に完成してしまうのう」
「そうか」
水槽から出たクリスは、Dr.トキオカの言葉を聴きながら、静かに椅子の上にあるバスローブを纏う。
「そのうち、先にタイプEXでAMパーツのテストをやって貰うことになるじゃろう」
「わかった」
クリスの返事を聞いて、老人は淡々と言葉を続く。
「そしてもう一つは、普通にISを動せる男が現われたようじゃ」
「…そうか」
クリスがISを使えるのは、多少技術の力を借りている。本当になにもしなくてもISを使える男が居れば、研究機関は何かの手で調査を行うだろうが、そこはクリスの職務範囲ではない。
「そこでじゃ、お前さんにはタイプEXの収容作業が完了次第、日本へ向かって貰う」
「日本?」
その言葉に反応したように、クリスはDr.トキオカに問いかける。
そしてDr.トキオカが意地悪そうな笑顔を浮かべて、ポケットから何かのパンフレットをクリスに渡す。
「…IS学園入学案内?」
「ああ、お前さんの入学手続きは既に済んでおる」
「何を勝手に…!」
「あそこはIS操縦者の養成機関でな、各国の第三世代ISがそこで集中しつづあるんじゃよ。運用データを採集するには、絶好の場所じゃよ」
「データ採集なら、適当に暴れればいいだろう」
「いや、実はな、あのISを使える男もそこに入学するって話でな、その調査も兼ねているじゃよ」
「そんなの、俺の……」
クリスが僅か感情的な口調で抗議するが、Dr.トキオカは眉を顰めて、手で少年の言葉を遮った。
「イングラムの指示じゃ。文句はあいつに言え」
「……チッ、分かったよ」
「それでいい。着替えたらカークのところへ行っておくれ。タイプEXについて君に話があるのじゃ」
「了解」
そう言って、Dr.トキオカが部屋から出て行き、部下達が各自の仕事に戻る。
「チッ、クソジジイが」
舌打ちしながら、クリスは部屋の奥にある更衣室に入って行った。
作品名:IS バニシング・トルーパー 000-002 作家名:こもも