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IS  バニシングトルーパー 003-004

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 観客席で、千冬がクリスに感心したように呟く。
 「えっ、俺はただクリスが一方的にやられて、反撃出来ないように見えるが……」
 千冬の呟くを聞いて、前の席にいる一夏にはその理由が分からなかった。
 「馬鹿者、よく見ろ。オルコットは確かに攻める一方だが、その攻撃が一発も当たっていない。それもかわされたではなく、全部先読みされたんだ」
 「先読み?」
 「ああ、オルコットがトリガーを引く前に、クレマンは既にそのタイミングと着弾地点が読んで、先に回避運動を行っている。」
 「そんなことが出来るなんて…」
 「相当の反応速度と経験が必要だろう。それに、オルコット自身もそれを気付いて焦っている。それでは益々読まれやすい。だから正確ではクレマンが接近できないじゃなく、わざとオルコットを焦らしてるんだ。格闘機体で射撃主体の相手と戦うとき、相手のベースを乱して、隙を作らせるのが重要だ。クレマンの戦い方はその理に適っている、さすがプロだな」
 「何か凄いな、クリスは」
 「だが、オルコットもまだ全力じゃないぞ」
 「あっ!」
 隣席の箒が驚きの声が上げた。

 姉弟の会話が続いてるうちに、クリスがセシリアの連射タイムラグを利用して、一気に接近した。
 ブレードの振り上げて、そして力一杯で振り下ろす。それだけ簡単な動きで攻撃をかける。
 ナイフ捌きの腕ならともかく、剣道についてクリスは完全の素人だったので、この一撃は“切る”というより、“殴る”に近い。
 「まずは一手!」

 だが、この一撃が届く前に、クリスが気付いた。
 セシリアは口元に笑みが浮かべていることを。
 「側面から攻撃!?」
 ISセンサーの警告を受けて、素早く両足で壁を蹴って、クリスは反動力を利用して後退する。次の瞬間、さっきまで居た位置に、数本のビームが掠り通っていた。
 「きゃ~!!」
 何故かセシリアが悲鳴を上げた。
 「あっ」
 慌てて壁を蹴ったと思ったら、咄嗟にクリスが蹴ったのはセシリアだった。
 「ちょっと!これはレディに対してすることですの?」
 「すみません。今後注意しますから」
 「もう~! 気をつけてくださいまし!」
 セシリアに詫びながら、距離をとってさっきの攻撃を見定めた。
 さっき攻撃したのは、セシリアのIS本体から分離した四枚の羽根状のパーツだった。
 「ビットか!」

 「ふふふふ、あれは脳波制御の無線誘導式ビット兵器だ。連携してオールレンジ攻撃が出来るから、先ほどのようには行かんぞ。さて、どうする?クレマン」
 「千冬姉、セリフが悪役っぼいぞ」
 観客席からそんな会話を聞こえたような気がした。

 「量産機の分際で私にブルー・ティアーズを使わせるとは、中々やりますわね。しかし、ここから先は」
 セシリアがそう宣言したと同時に、四基のブルー・ティアーズを使って、一気に仕掛けてきた。
 「あなた一人で踊る番よ!  行きなさい! ブルー・ティアーズ!!」 
 セシリアの意識がままに動く、四基のブルー・ティアーズが四方八面からビームを放ち、一秒の余裕も与えることなくクリスを襲って来る。対してクリスは高度を下げ、アリーナのシールドバリアに沿って回避しながら高速移動するが、ビットも後を追って来た。

 「なるほど、相手の攻撃角度を制限したか。しかも高速移動でビットの位置を集中させようとしている。クレマン、やるな」
 「いやだから、悪役っぽいって」
 まだしても観客席から会話を聞こえた気がした。だがクリスはそんなことを気にするほどの余裕がなかった。
 (よし、ビットの距離も揃えてきたな……ここで!)
 ブレードを持っている腕を大きく振り上げて、
 「切り裂け!!」
 力一杯腕を振って、そこにいる青いIS、セシリアへブレードを投げ出した。

 「なっ!」
 よもや唯一の武器を投げてくるなんて思わず、セシリアが反射的にライフルを構えて、ブーメランのように飛んでくるブレードを迎え撃つ。
 だが、ブレードを投げたその時に、クリスが既に動いた。
 「ビットが止まってるぞ!」
 一気にブースターを使って、ビットとの距離を縮めたクリスは、一基のビットを掴んで、もう一基のビットへ思いっきり投げた。
 「潰れろ!」
 二基のビットが衝突して、爆発した。
 「はっ!!」
 さらに接近して回転キックを繰り出して、残りの二基も破壊した。
 「これでビットはなくなった」
 「な、何て乱暴な!」
 ブレードを撃ち落したセシリアが、視線を戻したとき、既に四枚のビットが破壊された後だった。

 「本体から攻撃がこないと思ったら、やはり思考能力が限界だったか」
 「くっ……!」
 図星が突かれて、セシリアが再びライフルを構えた。
 「だからと言って、まだ勝負が決まってませんわ!」

 「クレマンって、見た目に反して、戦い方が結構力任せだな」
 今の光景を見て、箒が感想を述べた。
 「いや、あれは打鉄の頑丈さを生かした行動だ。射撃武装でもあれば、あんなことはしなくて済んだはずだが」
千冬が生徒に説明を入れた。
 視線を戻すと、クリスは既に地面からブレードを回収して、再びセシリアへ突進した。
 セシリアもレーザーライフルを構えて迎撃するが、ビットが破壊されたショックに加え、さっきからライフルが一発も当らなかったため、その焦りがトリガーを引く指に伝わって、射撃がさらに粗末になり、簡単に避けられてしまう。
 「まずはその長物を破壊する!」
 一気に距離を詰めたクリスが、ブレードを振り下ろしてセシリアが持っているあの2メートルを超えたレーザーライフルを一撃で両断した。
 「時間はもう少ない、これで一気に決めさせてもらう!」
 この距離ではかわせない。クリスがブレードを振りかざして追撃をかける。
 「くっ! イ、インターセプター!」
 苦い表情をしているセシリアが間一髪のタイミングで、接近戦闘用ショートブレードを呼び出してクリスの攻撃を受け止めた。
 だが、接近戦になれないセシリアにとっては、あまりにも重い一撃だった。
 「あっ!」
 大きすぎた衝撃で、ショートブレードがセシリアの手から弾け飛んだ。武器全てを失ったセシリアは逃げるように後退するが、既に間合いに入れた相手を見逃すほど、クリスは甘くなかった。
 「逃がさない!」
 もう一度ブレードを振り翳して、ブースターを噴かした。今度こそ叩き落そうと、クリスは力を手に篭める。
 「これで!」
 セシリアも諦めたかのように、身を返して、正面をクリスと向き合う。
 が、その顔には笑みが浮かべていた。
 「かかりましたわね」
 セシリアのサイドアーマーが跳ね上がった。
 「まだありますわよ!」
 セシリアのブルー・ティアーズには全部六基のビットがあり、その内、実弾タイプの二基を切り札として温存していた。追い詰められた時のカウンターとして。
 だがその意図も最初から読まれていた。
 「ビームも当らないのに、実弾が当るわけないだろう!」
 最小の動きでバック転回して、ミサイルを下方にすり抜かせて、さらに勢いを乗せてブレードを振り下ろす。
 「落ちてろ!」
 「きゃあぁぁぁ!!」