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零崎空識の人間パーティー 1-6話

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 零崎双識――『殺し名』の第三位に列せられる殺人鬼の一族『零崎一賊』の長兄にして切り込み隊長である彼を指す異名は数あるが、あえて挙げるとしたら『二十人目の地獄』と『自殺志願(マインドレンデル)』は決して外せないだろう。 そして『自殺志願(マインドレンデル)』は彼の凶器である鋏のような物の名称でもある。 
 細かくいうと、先に彼が鋏のような物に『自殺志願(マインドレンデル)』と呼んでいて、今では彼のことを表す単語になっているのだが。 彼の凶器を鋏のような物としか表現できないのは、まあそのとうりの見た目だから仕方がないのだが、その存在意義は人を殺す凶器だという以外に考えることができない。
「はあー」そんな物を向けられているというのに、空識は気にする様子もなく、なぜか呆れるように髪の毛を掻いた。
「なんでそういう、俺が本来『零崎一賊』においてありえない『家族殺し』をした殺人鬼という、驚きの設定を簡単に口に出しちゃうのかなー? ほんとに双識さんって潤さんのこと尊敬していて漫画をよく読んでんのー。そういう設定は後々判明する方がいいのにー!」
「潤さん?」双識は空識の言葉に出てきた名前に反応した。
「もしかして『人類さい…」
「あっ、気にしないでくださいー。ただの『戯言(ざれごと)』ですからー」
「……?」
 いぶしかげに思った空識だったが、空識が『あの人』と知り合いのわけがないと考え、話を元に戻した。  そのありえないことが実際にあるんだが、今触れる話ではない。
「――……まあいいんだけど、空識君の出生を考えると家族殺しするのは仕方がないかもしれない。 けれどだからと言って家族を殺したことを許すわけにはいかない」
 そう言って双識は鋏のような凶器『自殺志願(マインドレンデル)」を構えた。
「俺からしたらー、自分以外のすべてを殺すことが存在意義の『殺人鬼』である俺たちが家族を作ることが分からないんだよなー。っていうかー、一賊から勘当しただけでは飽き足らないですかー?」
 そうぼやきながらも空識は腰の鞘からサーベルを引き抜いた。

「それでは」「うじゃー」
「「零崎を」」
「始めよう」「開催しようー」



<第四話 零崎突進>

 
 「おおおおおおおおー!!」
 咆哮を上げ空識はサーベルを振りかざして双識に向かっていった。
 双識はゆったりと冷静に空識の攻撃に備えたが、それはすぐに意味をなくした。
「とりゃー!!」
 なんと、空識は切り掛ろうとせず、そのまま双識の日本人離れした身長を飛び越えていったのだ。
「なっ!?」 
 さすがのマインドレンデル、零崎一賊の長兄である双識も空識の行動を予想していなかったようで、呆気にとられてしまい。 その間に空識は双識に背を向け文字どうり全速力で逃走を始めた。
「馬鹿正直に戦ってられるかー。逃げるが勝ちーー」
 空識はすでにサーベルを鞘にしまい、逃げることしか考えてないようだった。
「--……っ!」
 双識はすぐに空識を追おうとしたが、自分が追いかけっこで空識に追いつけるわけがないと悟り諦めた。
「……たしか地抜(じぬ)きだったかな? いつ見ても早いね、もう見えないや」
 双識が言うとおり空識の後ろ姿はすでに見えなくなっていた。
「しかし、この私から逃げ切れるとは……。 私が衰えてしまったのか?」
 そう呟いた双識の顔は逃げられて悔しそうという表情ではなく、家族の成長を心から嬉しむ表情であった。
「空識くん。 君はどこに行くのか。それとも、どこにも行けないのかな」
 そうつぶやき双識は『自殺志願(マインドレンデル)』を背広の裏にしまった。 
  
 

<第五話 零崎訪問>

「やっと……ついたー」
 隠れ家の一つである古びたアパートの一室に着いた時、空識の心身はとてつもなく疲労していた。
 双識から逃げている時何度も後ろを振り返り、追いかけていないことを確認していたが。
 止まって休んでいたら、いつの間にか『自殺志願(マインドレンデル)』を持っている双識さんが目の前に立っているかもー!
 などという怪談物によくありそうなことになるという恐怖に駆られ、一度も休むことなく全力疾走し続けていたのだ。
「とにかく寝ようー……」 
 その部屋は小さな机しかない畳の部屋で、一つだけある窓からはすでに朝の日差しが差し込んでいて、空識が走り続けた時間の長さをものがたっていた。
 靴を脱ぐのも押し入れから布団を出すのもおっくうになり、空識はそのまま畳の上に倒れこみ眠りにはいった。
 

 それから、一時間ほどたったであろう。
 空識はドアを乱暴にたたく音で目が覚めた。
「……なんだよー。人がせっかく寝てんのにー」
 最初は無視しようとしたが、あまりにもうるさかったため。
 殺してやるー。この俺の眠りを妨げたことは万死に値するーー。 あの世で後悔させてやるーーー!
 などと、殺人鬼が思うには物騒すぎること(というより絶対に実行するであろうこと)を思いながら空識はドアを開けた。
 だがそのことを実行することは不可能だった。

 空識がドアを開けるとそこには、血のように真っ赤なワインレッドのスーツを身にまとった。
 人類最強(じんるいさいきょう)の哀川潤(あいかわじゅん)が立っていた……。 

 

<第六話 零崎依頼> 

 相手が人類最強の請負人の哀川潤だと分かった後の空識の行動は早かった。
「遅せえーんだよ」 
 と文句を言っている哀川潤を無視して。 空識は思考するよりも早くドアを閉め、閉めると同時に鍵とチェーンを掛け。 そのまま一目散に閉まっている窓に向かっていき、逃走を試みた。
 しかし、空識が窓を突き破ろうとした次の瞬間、
「ぐぇー!」
 首根っこの所を強い力でつかまれ、首が絞まり空識の体は空中で一瞬停止した。 その後、さらに思いっきし後ろに引っ張られた。 全く踏ん張りがきかない空中でそんなことをされた空識は、その力が命じるがままに後ろに吹っ飛び、後方にある小さな机に腰を思いっきし打ち付けた。
「ぐおおおー!!」
 腰に手をあて悶絶している空識を見下すように哀川潤が立っていて、
「このあたしからなに逃げだそうとしてんだ!」
 悶絶していて防御もないもできない空識の腹を蹴り上げた。 しかもご丁寧にみぞおちを狙って。
「うっぐー……。すみませんー! もう逃げないから許してくださいー」
 空識が腹と背中をさすりながら哀川潤に命乞いをするように土下座して言ったが、
「てめぇーの語尾を伸ばすしゃべり方がいちいちむかつくんだよ!」
 哀川潤はつま先で綺麗にすくい上げるように土下座している空識のあごを蹴り上げた。
(そんなー、理不尽なー。)
 と思いながら、空識の体は蹴りの衝撃により、机に乗り上げ、そのまま向こう側まで転がった。
「おっ、なかなか良い転がりかたしてんじゃねーか」
 くくっ、と哀川潤はおかしそうに笑いながら乱暴な仕草で畳の上にあぐらをかいた。
「……ねらってやったんですねー」