黒と白の狭間でみつけたもの (2)
「さてと、じゃあ、部屋のことを君のママに謝らないといけないね」
「あーそうだった、すっかり忘れてたけど……」
改めてみるとヒドイ部屋だ。
まぁ、でもいっか。
チェレンは持っていたキズぐすりで、ポカブとツタージャのキズを回復させると、お母さんがいる1階へと階段を降りていった。トウコもツタージャを抱えてその後について行く。
「あー待って!わたしもいく!」
ベルが慌てて2人を追いかけた。
1階につくと、チェレンはもうお母さんに声を掛けていた。
「騒がしくて、本当にすみませんでした」
「すみませんでした」
トウコは少し硬くなって、チェレンの後ろに隠れた。
追いついたベルは、チェレンの横に立って、慌てて謝った。
「すみませんでした。あたしがね、ポケモン勝負に誘っちゃったから。あのう…お片付け……」
「ああ、片付け?いいの、いいの!そんなのは私がやっておくから」
お母さんの意外な答えに、トウコは目を丸くした。
いつもなら、私がちょっと部屋を汚しただけでも怒るくせに。
「全然、気にしなくて良いのよ。それにしても、ずいぶんにぎやかだったわね」
お母さんはなんだか嬉しそうだった。
きっと騒がしかったはずなのに。
こんなお母さん、初めて見るかも知れない。
「思い出しちゃうわねぇ。お母さんが昔、初めてポケモンをもらったときのことを。懐かしいわ。あの時はほんとに楽しくて、旅先でパパに出会って……。ってそんな話してる場合じゃなかったわ。あなた達、アララギ博士にポケモンをもらったお礼を言いに行ってきたら?」
そうだ、博士にお礼言わなきゃ。
「そうします。ベル、トウコ、僕は先に行ってるね」
チェレンはそう言って出ていった。
「じゃあ私も、いったん家にもどるから後でね!」
ベルもそう言って駆けだしていった。
当然、リビングに1人残される。
「さて、トウコ」
お母さんが真剣な表情でトウコに向き合った。
「はい!」
ビクリと身体が震えた。
もしかして、怒られる?
「トウコは、ツタージャを選んだのね。大事なパートナーよ。ちゃんと信頼関係をつくってね!こんな娘だけど、よろしくたのむわね」
お母さんはそう言って、ツタージャの頭をなでた。
ツタージャは、安心してと言いたいのか、コクコクと頷いた。
「早いものだわ。あなたがトレーナーなんて。旅の間、怪我にも病気にも気をつけるのよ。ほら、これを持って行きなさい。たまには連絡してね」
渡されたのはライブキャスターだった。
ずっと欲しかったやつだ。
「ありがとう、お母さん」
「ほら、トウコもアララギ博士のところに行ってきたら?友達も待ってるでしょ?」
「うん、そうだね、行ってくるよ」
昨日まとめた荷物。
お母さんが忘れないようにって、ずいぶん前から用意してくれたっけ。
買ったばかりのバックを肩に掛けると、トウコは外へ飛び出した。
隣町へつづく道の手前。
そこにアララギ博士の研究所はある。
研究所の前には、すでにチェレンが待っていた。
「ごめん、待った?」
「いいや、今僕も来た所なんだ」
チェレンも真新しい鞄を肩に提げていた。
「ベルは?」
「まだだよ……」
「まだかぁ」
そう言って顔を見合わせて、沈黙が続いた。
考えていたことは、きっと一緒だっただろう。
先に切り出したのはチェレンだった。
「トウコ、ちょっと見てきてあげてくれないか?」
「そうだね。私、行ってくるね」
トウコはツタージャを抱えて、ベルの家へと走った。
ベルのパパは、最後までベルがトレーナーになることに反対していた。
一人っ子のベルは、大事に大事に育てられたらしい。特に、パパに。
2人で遊ぶときにもなぜか、ベルのパパまでついてきたりすることもあったっけ。
心配なのはわかるけれど、ベルのパパは、ちょっと過保護なんじゃないかなぁなんて思ってた。
まさか、トレーナーになりたいときに、それが一番の弊害になるなんて思いもしなかったけれど。
3人が10歳の誕生日を迎えた時、思い切って3人で、トレーナーになりたいことを伝えたときも、ベルのパパが一番反対していた。
トレーナーになるのが遅くなったのも、ベルのママがパパをなだめるのに時間がかかったってことが、一番の原因だと思う。
3人で一緒に旅をはじめようって約束だったから、チェレンと話して待とうって決めたんだもの。
そして今日を迎えたわけだけれど。
そういえば、つい先週まで、ベルはパパとは口をきいていないとか言っていた。
もしかすると、まだパパともめてるのかも知れない。
ベルの家の前に着き、インターフォンを鳴らしたときだった。
「ダメダメダメーーー!!!」
ベルのパパの怒鳴り声だ。
声を聞いて、トウコは大きくため息をついた。
「ツター?」
ツタージャは、わけがわからないといったかんじで、目をパチパチさせている。
玄関の戸をゆっくりあけると、ベルとベルのパパが言い合ってるのが見えた。
「絶対ダメだからね!」
「パパのわからず屋!」
「旅がどんなに危険かって、ベルはわかってないんだ」
「あたしだって……もうポケモンもらったの。ちゃんとトレーナーになったんなんだもん!大丈夫だよ!!冒険だってちゃんとできるんだから!」
ベルはそう怒鳴って、パパの制止を振り切ると、家から飛び出すように外に出てきた。
慌てて、勢いよく開いたドアをトウコがよけると、その拍子にベルと目があった。
「あ……トウコ」
うう……気まずい。
「……迎えにきちゃった」
「ああ……、ごめん。また待たせちゃったし、嫌なところ見せちゃったね」
ベルの目は涙目だった。
「ベル……」
「あ、大丈夫だよ、大丈夫……」
「……」
「いいの、もういいの。それにね、きっとパパだっていつかはわかってくれるって思うから」
そう言って、ベルは浮かんでいた涙を袖で拭った。
「行こう、トウコ!チェレンが待ってるよ」
いつもどおり、明るく笑ってみせるベル。
「うん」
走り出したベルを、トウコは何も言わずに追いかけた。
こういうとき、どう声をかけていいのかわからない。
もっと、何か言ってあげるべきだったのかな……。
研究所の前では、チェレンが待っていてくれた。
「ごめーん!おまたせチェレン!」
明るく振る舞うベルを見て、チェレンも何も突っ込まなかった。
「さぁ、みんな揃ったし行こうか」
チェレンが研究所のドアを開け、ベルとトウコもあとに続いた。
中にはいると、アララギ博士が待っていた。
小さい頃からよく遊んでくれた優しいお姉さん。
昔はえらい博士だなんて知らなかったけれど。
確か、ポケモンがいつ誕生したのかの起源を中心に調べている博士だ。
いつから博士なのかを考えると、いつまでも若い気がしてちょっと年齢不詳だ。
「ハーイ!待ってたわ。みんな遅かったわね。さては、ポケモン勝負でもしていたの?」
博士の言葉に、ギクリとして3人は顔を見合わせた。
「いいのよ。何事も経験が大事よ!それで、あなた達はどの子を選んだのかしら?みせてちょうだい!」
作品名:黒と白の狭間でみつけたもの (2) 作家名:アズール湊