黒と白の狭間でみつけたもの (5)
そういえば、何もしないでじっとしているのは、苦手だった。
「あーーっ!もう無理!」
時計はまだまだ昼時。
夕方までずいぶんある。
こんなに、時間があるならジムリーダーに挑戦するくらいできるはず!
トウコは、堪えきれずに立ち上がった。
ベルにライブキャスターで連絡しようか迷ったが、怒られそうだからやめた。
夕方頃、連絡しようと決めると、トウコはポケモンセンターを出た。
しばらく室内にいたせいか、外の明るさは新鮮さがあった。
「う~ん、気持ちいい!やっぱり外がいい!」
大きくのびをして、トウコは町の散策をはじめた。
道なりに歩いていると、おしゃれな洋館が見えてきた。
レストランみたいだ。
こんな場所にあったっけ?
窓ガラスから、中でケーキを食べている人も見えた。
なんだかお腹がすいてくるが、さっきたくさん買い物をしたばかりの、今の所持金じゃお店に入るのは厳しそうだ。
「いいなぁ」
そう思いながら、お店の名前を見ると、【サンヨウシティジム】と書かれいた。
え!こんな可愛い外装の建物が、ジム? レストランもやってるってこと?
立ち止まって、看板をまじまじと見ていると、お店のドアが開いた。
赤い髪のウェイターが、明るく声をかけてきた。
「お待ちならどうぞ、ご注文は?」
げ!お客と間違えられた!
「あ…、えーと。そうじゃなくて……」
あたふたしながら、トウコが言い始めると、ウェイターはわかったように頷いた。
「ああ…トレーナーさんね」
ほんとにここがジムらしい。
けれど、ウェイターは困り顔だった。
「悪いけど、今いないんですよ、ジムリーダー。たぶん、トレーナーズスクールにいるんだと思うけど。挑戦するなら、探してきてもらえないですか?」
「え!私が?」
ジムリーダの顔もわからないのに!?
そんな無茶な!と思った。
赤い髪ウェイターは、そんなトウコを尻目に、問題ないとばかりに説明をはじめた。
「大丈夫。青い髪の…見ればすぐわかりますよ。トレーナーズスクールは、このまま道なりに進んでいけば、すぐありますから」
ウェイターに上手く話をまるめこまれ、トウコはジムリーダーを捜しにいくことになった。
トレーナーズスクールには、言われたとおり、すぐ着いた。
来たことがないわけでもない。
まだトレーナーに慣れない頃、ベルとチェレン、トウコの3人で、ポケモンについての授業を受けたことが何度かある。
トレーナーになれない頃は、いろんなポケモンとふれあえる、数少ない場所の1つでもあったから、授業に行くのはとても楽しかったっけ。
トレーナーとして入るのは初めてだけれど。
学校内では、何かの授業があったのか、黒板には白いチョークの文字がそのまま残っている。
まだ、何人かのトレーナーも教室に残っているようだった。
青い髪のジムリーダーがいないか、探してみるが、見当たらない。
やっぱり顔も覚えていなくて、探すのは無理があるのではないだろうかと思った。
その中で、見慣れた背中がみえた。
黒板に書かれた文字を熱心に読んでいる。
チェレンだ。
てっきり、もう先に進んだのかと思っていた。
勉強中なのか、全く気づいていないチェレンの肩をトウコはたたいた。
「チェレン…」
「トウコ!?」
ようやく気づいた。
こんなに勉強に集中できる、チェレンってやっぱりすごいかも。
「もう、先に進んじゃってるのかと思った」
「そこまで、僕も順調じゃないよ。トウコはジムリーダーとは戦ったのか?」
「まだだよ。チェレンは?」
「僕もまださ。ここのジムリーダーはポケモンによって、使うタイプを変えてくるって聞いたからね。技の効果や道具の必要性について、学び直していたところだよ」
そうだったんだ。
「ねぇ、チェレン。ジムリーダーの人なんだけれど、このスクール内に来てなかった?私、探してるの」
「? ジムリーダーなら、さっき講義をすませて帰ったけれど……」
チェレンの言葉が重くのしかかった。
じゃあ、私、なんでここに来たのよ!?
「さっきまでポケモンについて、ここで話していたんだけどね……。すれ違ったんじゃないのか?」
「そうかも…」
虚しさをかんじた。
でもいいや、これで戻ればジムリーダーと戦えるんでしょ?
そう考えることにした。
「ところで、トウコ。僕と勝負しないか? 道具の必要性……授業で聞いたことを試してみたい」
ボールを構えるチェレン。
よーし、やってやるわよ。
「もちろん、いいわよ」
トウコもボールを構える。
「勝負!」
チェレンのかけ声とともに、ボールを解き放つ。
ポカブとタッくんが飛び出した!
相性は不利、どうする。
迷っている間もなく、タッくんが走り出していた。
ここはタッくんを信じよう。
「タッくん、たいあたり!」
素早い動きを活かして、タッくんのたいあたりが決まる!
「ポカッ!」
ポカブは飛ばされるが、すぐに立ち上がった。
「いつまでも、そう上手くいくと思うなよ。ポカブ、ひのこだ!」
「ッカブーー!」
ポカブが勢いよく、ひのこをはいた!
草ポケモンのタッくんには大ダメージだ!
「ジャジャー!」
タッくんは、必死でひのこをふりはらうが、ちりちりと火は燃えうつる!
尾っぽの葉っぱの火は消えたけれど、タッくんの動きは、明らかににぶくなっていた。
たいあたりしてきた、ポカブをなんとか避ける。
「ポカポカッポッカブー!」
調子に乗る、ポカブ。
その様子に苛立ったのか、タッくんはくやしそうに歯を噛みしめて、ギラリとポカブをにらみつけた。
タッくんの鋭い目つきに、ポカブは一瞬ひきつった顔を見せた。
無理はダメだ。
「タッくん、交代!」
トウコはボールに戻すと、2つ目を投げ込んだ!
「テリテリテリー!」
嬉しそうな鳴き声で、テリムが飛び出した。
泣き虫、テリム。
実は、特訓中も泣いちゃったり。
でも、弱いわけじゃない。
「テリム、かぎわけて…たいあたり!」
テリムはくんか、くんかとポカブのにおいをかぎわける。
「ポカブ!ひのこだ!」
ポカブはもう一度、ひのこをはいた!
テリムは、室内をタッタカ、タッタカ、走り回った。
うまく避けている。
恐がりなテリムは、なぜか避けることだけは、はじめからめちゃくちゃ上手かった。
ここでもそれが、活かされている。
テリムは、ポカブの後ろに回り込むと、頭から思いっきりたいあたりした!
「カブ!」
よろよろになったポカブは、オレンの実を食べ始めた。
みるみるポカブが少し元気を取りもどす。
ポカブはもう一度、ひのこをくりだした!
「リリ!」
テリムはあわてて走り出す。
またもや、器用に攻撃を避けた。
「くそ、当たらない!ポカブ、たいあたり!」
「負けないで!テリム、かみつく!」
走り出したポカブに、テリムは飛びついて、がぶりと噛みついた。
「ポカー!!」
鳴き声がひびいて、ポカブはついに膝をついて動かなくなってしまった。
チェレンはポカブをボールに戻す。
作品名:黒と白の狭間でみつけたもの (5) 作家名:アズール湊