黒と白の狭間でみつけたもの (5)
「ポカブ、よくやった。いけ!チョロネコ!」
「チョロチョロー!」
優雅に登場したチョロネコ。
「チョロネコ、ひっかく!」
「テリム!かわして!」
すばやさが勝った、チョロネコはテリムの背中をひっかいた!
テリムがおじけて涙目になる。
泣いちゃったら、きっともう戦えない。
トウコは必死で励ました。
「頑張ってテリム!」
トウコの声に、テリムはぐっと涙をこらえた。
「テリー!」
チョロネコにひっかれるのも、がまんして、テリムはチョロネコにつっこんだ。
がりがり、身体をひっかかれたが、そのまま、かみつくテリム。
チョロネコは、嫌がって悲鳴を上げた。
あわてて、オレンの実を口に含んでいる。
このまま、倒せる!
そう思ったときだった。
「チョロネコ!ねこのて!」
チェレンの声に反応し、攻撃をはじめるチョロネコ。
両手をぽんぽんとたたくチョロネコ。
すると、チョロネコは、ひのこをはきだした!
テリムに直撃する!
「テリ…」
テリムはくらくらと倒れた。
ボールに戻るテリム。
「ありがとう、よく頑張ったね。タッくん、いくよ!」
ボールの中でうなづくタッくん。
それにしても、困った。
チョロネコは、炎タイプじゃないけれど、「ねこのて」で仲間の技を引き出せるんだ。
ポカブが仲間のチェレン達には、タッくんは不利なんだ。
ボールから飛び出すタッくんをみながら、トウコは考えた。
何か突破口があるはずだ。
「チョロネコ!ねこのて!」
思った通りの技を、チェレンが指示する。
チョロネコは、両手をぽんぽんとたたく。
そして、タッくんにむかって、ひのこをはいた。
「タッくん、よけて!」
「タジャ!」
持ち前のすばやさで、タッくんは避けきった。
元々、自分の技ではないせいか、チョロネコもひのこは1回しかはけないようで、火の手はすぐに治まった。
しかし、すぐまた仕掛けてくるに違いない。
ねこのて、あの技、どうにかならないかしら。
トウコは、さきほどのチェロネコの動きを思い出した。
そういえば、技を出す前に、チョロネコは手を叩いてた。
もしかして!?
「タッくん、私が声を掛けるまで技は出さないで!」
「タジャ!?」
驚くタッくん。
「もしかして、もう降参か?でも、まだ決着はついてないぞ!チョロネコ、ひっかく!」
チェレンの声が響いた。
「タッくん、信じて!」
トウコの声を聞いて、タッくんはうなづいた。
チョロネコのひっかき攻撃をかわしながら、タッくんは、トウコの声を待った。
時々、攻撃がかすめてしまっても、攻撃は返さない。
「終わりにしよう、チェロネコ!ねこのて!」
好機と感じたのか、チェレンが言い放つ!
トウコも叫んだ!
「今よ!タッくん、つるのムチ!チョロネコの両手をねらって!」
トウコの声に、タッくんのつるが勢いよく飛び出した!
両手をあわせようとしていた、チェロネコは隙だらけだ!
「なに!?」
「チョロロ!?」
チョロネコが焦ったときには、もう遅い!
タッくんのつるのムチが、炸裂した。
大きく飛ばされ、倒れたチョロネコ。
チェレンも唖然としていた。
「やった!うまくいったわ!」
「タッタジャー!」
タッくんと喜ぶ、トウコをチェレンは、くやしそうに見ていた。
「なるほどね、そういう手もあったか」
そういって、チョロネコをボールを戻した。
「まだまだ、僕も未熟だな。また君に負けるなんてね。でも、やはり道具を使いこなすのは大事みたいだ。そうだ、トウコにこれをあげるよ。僕からの戦利品だ」
チェレンは、そう言ってトウコにきのみを渡した。
さっき、ポカブやチョロネコが使っていた、オレンの実だ。
「ありがとう」
「ポケモンにきのみを持たせておけば、戦って体力が減ったときに食べてくれる。もっとも、キズぐすりのように、人が作った道具は持たせても使えないけどね」
そう言って、得意のポケモンうんちくを教えてくれると、チェレンは再び黒板に目を向けた。
今日の授業の内容だろう。
オレンの実だとか、キズぐすりだとか……、授業と関係する内容や絵が事細かに描かれていた。
「ポケモンバトルは、強いポケモンを持っていれば勝てる、って理由じゃないからね。僕は、もう少し復習してからジムに挑むよ」
そう言って、再び集中し始める。
トウコは邪魔しないように、そのまま別れることにした。
チェレンとの戦い、結構危なかった。
タイプ、相性、道具……。
確かに、いろいろなことを考えないと、この先勝てないかも知れない。
タッくんたちの回復のため、一度ポケモンセンターに寄ったトウコは、ジムに行くか悩んでいた。
サンヨウジムのジムリーダーはきっと、ジムに戻っている。
けれど、あそこのジムリーダーはポケモンによって、タイプを変えて攻めてくると聞いた。
「もし、炎タイプで攻められたら、圧倒的に不利だわ」
もう少し、鍛えないと厳しいだろうか。
ベンチに腰かけながら、悩んでいたときだった。
見知らぬ女性が、声を掛けてきた。
「あなた、もしかしてさっきトレーナーズスクールで、眼鏡の男の子とバトルをしてなかった?」
「ええ、そうですけど」
落ち着いた雰囲気の大人の女性。
さっきの戦い、見られてたんだ。
ちょっと、びっくりした。
「あの戦い方じゃ、たぶん、ここのジム厳しいわよ?」
手厳しい指摘。
人に言われるとなおさら、心にくるものだ。
「やっぱりそうですかねぇ…」
トウコは大きなため息をはいた。
「ねぇ、あなたが選んだのって草タイプのポケモンだったわよね?確か、ツタージャだったかしら?」
「はい、そうですけど……」
「じゃあ、この子あげるよ」
見知らぬ女性はそう言って、モンスターボールを握らせた。
中にいるのは、水ポケモンのヒヤップだった。
「!? そんな、悪いですよ!」
そんないきなり、交換もなしにポケモンをもらうなんて!
「いいの、いいの! 私の家、育てやさんをしていてね。この前、卵がいっぱい産まれたから、このヒヤップも5つ子の中の1匹なの。今日のバトル見てね、あなたなら、ポケモン大切にしてくれそうだし。あげてもいいかなって。ちょうど、親になってくれる子を探していたところだったから」
育てやだという女性は笑顔でそう言った。
「……ほんとに、いいんですか?」
「いいのよ。大事にしてくれる人なら大歓迎よ、よろしくね!私のヒヤップ」
「ありがとうございます。大切にします」
女性はうれしそうに笑って、ポケモンセンターを出ていった。
もらっちゃった。
ボールの中では、ヒヤップがにこにこと笑っていた。
はじめての水ポケモン。
この子がいれば、タッくん達の弱点もカバーできる。
「よろしくね!ヒヤップ!」
トウコは笑いかけてくるヒヤップのモンスターボールを、大事に握りしめた。
新しい仲間を手に入れたトウコは、ポケモンセンターを出た。
そして、あのジムに向かった。
作品名:黒と白の狭間でみつけたもの (5) 作家名:アズール湊