黒と白の狭間でみつけたもの (5)
ジムの前では、今度は緑色の髪をしたウェイターがレストランの受付対応をしていた。毎回顔が違うなんて、いったい何人いるんだろう。
ウェイターは、ジムに着いたトウコに声をかけてきた。
「…お客さんかな?」
「いいえ、ジムの挑戦できました。ジムリーダーはいますか?」
トウコがそう言うと、ウェイターの人の目つきが変わった。
真剣な表情。接客とは違う、トレーナーの顔になっていた。ジムの中の従業員だ。きっと、ウェイターもウェイトレスも、ジム専属のトレーナーに違いない。
「……そうですか、ジムの挑戦。それで、君……最初に選んだポケモンはなんですか?」
ジムに挑戦するとわかったなり、ウェイターが質問をしてきた内容。すぐにジムに案内されるものだと思っていたトウコは、正直戸惑った。
え?最初に選んだポケモン?
なんで、そんなこと?
「ツタージャよ」
戸惑いながら、トウコが言うと、ウェイターは穏やかな口調で言った。
「そうですか……。きちんと対策をしておいたほうがいいと思いますよ。では、中で待っていますね」
緑色の髪をしたウェイターは、足早にジムの中に入っていった。
どうやら、ジムリーダーは中に帰ってきているようだ。今度は探しに行かなくて良いとわかって、内心ほっとした。
対策なら、ヒヤップのおかげでばっちりだわ!
トウコは、レストランのドアを開いた。
中は、ちょっとレトロな、色の落ち着いた照明が、ランプに灯されていた。
きれいに並んだテーブル。
木の温もりあふれるしゃれた内装。
紅茶の香り。
とてもポケモンジムとは思えない。
「本日は、ようこそお越し下さいました。挑戦者の方はこちらになります」
かわいいエプロンに身を包んだ、ウェイトレスが声を掛けてきた。
案内されるままついていく。
店の一番奥の部屋。
開けるとそこは、ホテルみたいな真っ赤な絨毯と、白い壁にかこまれた、豪華な内装の部屋だった。
中央が舞台のようになっていて、そこに3人の男性が立っている。
赤、青、緑の髪の3人。トウコが入り口で代わるがわるみかけたウェイター達だった。
トウコは、そこに案内された。
「ようこそ、こちらサンヨウシティ、ポケモンジムです」
さきほどの緑の髪をしたウェイターが、丁寧なお辞儀をした。
この人がジムリーダー……。
そう思ったときだった。
赤い髪のウェイターが、緑の髪のジムリーダーを押し出すようにして飛び出してきた。
ジムリーダーを捜してこいといった人だ!
「俺は、炎タイプのポケモンで暴れるポッド!」
続けざまに、青色の髪のウェイターも自己紹介を始める。
「水タイプを使いこなすコーンです。以後、お見知りおきを」
3人の中では一番、整った顔。ちょっとかっこいい。
最後に、緑の髪のウェイターが自己紹介をした。
「そして、ぼくはですね。草タイプのポケモンが好きなデントと申します」
落ち着いてて、一番礼儀正しい気がする。
えーっと、3人?
このジムは、兄弟でやってるとはきいたけれど、いったいジムリーダーはだれ?
困り顔で黙り込んでいるトウコに、緑の髪のデントが声を掛けた。
「どうして、ぼくたち3人がいるかといいますとね……」
「俺が説明するッ!」
後ろから、赤い髪のポッドが出てきて、デントを押しやった。さっきから妙に自己主張が強い。
なんて、出たがりな人だ……。
「あのなぁ、俺達3人はッ!相手が最初に選んだポケモンのタイプに合わせて、誰が戦うか決めるんだッ!」
「そして、君が選んだのは草タイプ」
青い髪のコーンがクールに言った。
「ということで、炎タイプで燃やしまくる俺!ポッドが相手をするぜ!」
トウコは、ビシッと指を指された。
えーー!一番うるさそうなこの人!?
ポケモンによって、タイプを変えてくるとはこういうことか、そう思いながら、なんだか気乗りしない相手だった。
こういうガツガツした人、ちょっと苦手。
そんな思いからバトルは始まった。
ポッドが先に出してきたのは、ヨーテリーだった。
迷わず、タッくんを登場させる。
ヨーテリーには、一番戦い慣れてるんだから!
でも、相手はジムリーダー。油断はできない。
とっしんしてきたヨーテリーを、タッくんは慣れた様子で、ひらり、ひらりと避けた。
「だいぶ戦いなれしているなッ!ヨーテリーふるいたてる!」
「デリー!」
ヨーテリーの気力が増して、毛がぶわっと大きく逆立った。
「タッくん、せいちょうよ!」
「ターッ!」
タッくんも身体に力を入れ、自身に生えた植物を大きく成長させた。
「ヨーテリー、再びとっしんだぁッ!」
「デリデリー!」
勢いも、威力も増した、ヨーテリーが力任せにタッくんに飛び込んだ!
タッくんをつけねらう!
「避けてタッくん!」
すばやくかわすタッくん。
ヨーテリーは勢いを殺せず、タッくんをすり抜けて、壁の柱に身体を打ち付けた。
起きあがろうともぞもぞしている。
スキあり!
「タッくん、つるのムチ!」
「ジャ!!」
パシンッ!!と勢いよく音が響く!
ヨーテリーはころりと身体をねじってよけたが、タッくんが二度目のつるのムチをくりだし、さすがにそのつるのムチからは逃げられなかった!
「デリ~……」
くるくると目を回すヨーテリー。
ポッドは、ボールにもどすと、すぐに2匹目を登場させる!
「さぁて、対策はしてあるか?」
「バォーー!」
鳴き声を上げて、いきり立ったバオップが、舞台上に現れた。
「タッくん、交代よ。お疲れ様」
迷わず戻す。
チェレンとの戦いを活かさなきゃ!
トウコは新たなボールをつかんだ。
「いけ!ヒヤリン、たのむわよ!」
ヒヤップのヒヤリン。
さっき仲間になったばかりの新人を送り出した。
「ヒヤヤァン!」
バオップとヒヤップが対面する!
「バオップ、ふるいたてる!」
バオップの闘志がさらに燃え上がる。
でも、相性はこっちのほうがいい!
「ヒヤリン!みずでっぽう!」
「ヒーッヤー!」
勢いのあるみずでっぽうが、バオップにかかる!
明らかに嫌がっている。
逃げようとするが、それを追いかける広い範囲にヒヤリンのみずでっぽうが炸裂し、舞台上は水たまりだらけ。
バオップは弱ってきていた。
「負けるな、バオップ!みだれひっかきだッ!」
「ヒヤリン、もう一度みずでっぽう!」
爪を光らせ、飛び込んだバオップに、みずでっぽうは直撃した!
くらくらしながら倒れ込んだ。
それをみて、デントが言った。
「そこまで!勝負ありだね。ポッドの負けだ」
挑戦者の勝ち。
そう言われて、笑顔になる。
やった!勝った!
「ヒヤリン、あなたのおかげよ!」
トウコがぎゅっと抱きしめると、ヒヤリンは照れくさそうに笑った。
チェレンの時は、あんなに苦労したのに、ヒヤリンがいるだけで、全然違った。
勝負に余裕が生まれるくらい。
タイプでこんなに勝負が変わる。それがはじめてよくわかった試合だった。
作品名:黒と白の狭間でみつけたもの (5) 作家名:アズール湊