黒と白の狭間でみつけたもの (6)
刺さるようなみずでっぽうが、ミネズミに当たると、がまんしていた力を解き放つ前に、そのまま目を回して倒れこんだ。
ヒヤリンの一撃。
あっという間の勝負。
「プラーズマー!夢が……」
プラズマ団の男は情けない声を上げた。
「子供相手に何をやってるの!」
今度は、プラズマ団の女がボールをつかんだ。
続けざまに勝負のようだ。
「子供だと思ってみくびったか? まぁいい、次はわたしだ!」
「チョロ~!」
放たれたボールからチョロネコが飛び出しきた!
トウコはヒヤリンをボールに戻して交代させる。
「絶対負けないっ!タッくん!たのんだわ!」
「タジャ!」
了解!とばかりに返事をしながら、ボールからタッくんは飛び出した。
「チョロネコ、ひっかく!」
チョロネコのとがった爪が向かう!
タッくんは、余裕の表情だ。
ひらりと身をかわして避ける。
今までの戦ってきたチョロネコより、ずっと遅いわ。
「タッくん、つるのムチ!」
バシンッ!と力強く決まった。
チョロネコは、地面にたたきつけられて、そのまま動けなくなった。
「プラーズマー!これは悪夢ね!なんてことなの!」
信じられないっといった様子で、女が叫んだ。
プラズマ団の2人組は、じりじりと後ずさりする。
「……まさか2人して負けるとはな!だが、ゆめのけむりは入手せねばならない!」
2人組は、勝負がついたというのに、足下のムンナを再び蹴りだした!
かなりの力で、ムンナを痛めつける!
「おら!ゆめのけむり、だせ!」
小さなムンナの体がはねる。
「む、むぅ…」
ムンナは痛々しい声を上げた。
「やめてよぉ!!!」
ベルの叫ぶ声。
何を言っても、非道なことをやめない2人組に怒りが募った。
許せない!
「タッくん!つるの……」
ムンナを助けようと、プラズマ団に向かって、攻撃をしようとした時だった!
突然、辺りが白い光にのみこまれた! 思わず、目をつぶる。
いったいなに!?
ぱっと何事もなかったかのように、光が消え去ると、突然誰かの声が聞こえ始めた。
「……おまえたち、何を遊んでいるのだ?」
声と共に、草陰からぼうっと姿を現したのは、カラクサタウンでみかけた、あのゲーチスという男だった。
いったい、いつの間に!?
「我々、プラズマ団は愚かな人間とポケモンを切り離すのだぞ!」
もう一つ同じ声がおこる。
草陰からもう一人のゲーチスが現れた。
「!?」
「その役目、果たせぬというのなら……!」
ゲーチスの姿が、幾重にもわかれ、重なって、まるで何人もいるように見えた。
声が反響し、耳の中に響いているのか、頭の中に響いているのか、方向がよくわからない。
めまいのような感覚。
いったいどうなっているの?
タッくんもどうしていいか戸惑っている。
ゲーチスは、トウコと、ベルを気にする様子もなく、プラズマ団2人組の目の前で、1つに重なり、団員達に襲いかかるように迫ると、突然消えた。
消えた!?
辺りを見渡してみるが、ゲーチスの姿はない。
「……ゲーチス様!?」
様子を一変させ、あわてふためくプラズマ団。
「かなり、お怒りだったわ……ゲーチス様!」
「大変だ!……あやまりにいかなければ!」
プラズマ団の2人組は、真っ青な顔をして、飛び出して行った。
「何? 今の?」
トウコと、ベルが顔を見合わせていると、ぼやぼやと、霧の中から出てくるように、徐々にはっきりと、目の前に大きなピンク色のポケモンと、いじめられていたムンナが姿を現した。
「ムンナ?」
でも、その隣にいるのは?
「ムーシャナ…」
ベルが驚きながらつぶやいた。
「もしかして……ムーシャナが、ムンナを助けるために夢を見せたの?」
このポケモンが、今のを……?
さっきのは、夢の幻?!
あんなことが、できるポケモンがいるの!?
「むぅ」
「むぅん」
ムンナとムーシャナは、互いに呼びかけ合っているようだった。
優しい声。お互い体をすり寄せて。
大きなムーシャナと、小さなムンナ。
もしかしたら、親子なのかもしれない。
「あら、ムーシャナじゃない!」
突然、明るい声がして振り返ると、長い黒髪にめがねをかけた、白衣の女性が立っていた。
研究者? と、ふと思った。
2人の視線に気づいてか、女性は自己紹介をする。
「あたしはマコモ。トレーナーについて研究している、研究者よ。ムンナやムーシャナたちの出す、ゆめのけむりが研究の完成に必要だったから、もらおうと思ってここまで来たんだけれど、もうその必要もないみたいね!」
そう言って、マコモという人は、トウコ達のすぐ側に浮かんでいた、紫色の煙を瓶の中に集めた。
それが、ゆめのけむり?
「ゆめのけむりはね、使うと誰にでも、夢をみせることができるのよ。もちろん、ポケモンにもね。そして、その夢をみる機械をあたしが開発したの」
夢をみせられる煙。
どうやって使うのだろうか。
それにしても、マコモさん……どっかで聞いたような…?
「あー!マコモさんって、もしかしてアララギ博士の友達ですかぁ?」
ベルが思い出したように大きな声を出した。
ああ、そうだ! 博士が言ってた!
「そうだけど……。ああ!もしかして、君たちが新しくトレーナーになるっていう子達ね!アララギから、あなた達が町に来たら、手助けするように言われていたわ。後であたしの研究室に寄ってちょうだい。ここからすぐ側なの。渡したいものがあるから」
そう言って、マコモさんは夢の煙が入った瓶をうれしそうに抱えて、行ってしまった。
「むぅん、むぅん」
「むぅ、むぅ」
ムンナとムーシャナの声がした。
こちらをみている。
助かってほんとによかった…。
2匹は、しばらくじーっと、トウコとベルをみつめたあと、寄り添いながら草むらの方へ帰って行った。
お礼を言ってくれたんだと思う。
「行っちゃったね……」
「うん」
もう空も暗くなってきた。
そろそろ、ポケモンセンターに戻って休んだ方がよさそうだ。
「ベル、もうポケモンセンターに行こうよ。マコモさんのところに寄ってさ」
トウコが言った。
「トウコ、悪いけれど先に行ってて! あたし、やっぱりどうしてもムンナが仲間にほしいの」
ベルは帽子をかぶりなおしながら、真剣な顔でトウコに言った。
こうなると、何を言っても聞いてくれない。
ベルだったら、ムンナとすぐ仲良くなれそう。
トウコは、「わかった」と頷いた。
「じゃあね。私は明日の朝、サンヨウシティを発つよ」
「うん、じゃあね!トウコ」
ベルが草むらに向かうのを見届けて、トウコはサンヨウシティの街中に戻った。
マコモさんの研究室によると、ひでんマシンの【いあいぎり】をプレゼントしてくれた。
冒険の必需品アイテムだ。
マコモさんに、ベルは後から来ることと、お礼を伝えて、トウコはポケモンセンターに戻った。
今日はここに泊まる。
なんだかんだで、1日たった。
今日はサンヨウシティで、ジム戦をするつもりで進んできた。
作品名:黒と白の狭間でみつけたもの (6) 作家名:アズール湊